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72 楽しくて怖いウォータースライダー


 カオスと違い、私とタキガワさんは準備運動してから静かにプールに入る。

 当然クリスタとクィルも飛び込ませない。

 ただ中型のドラゴンは重いから、静かに入っても大きめの波が立つ。


 おぉ、これがプールか。

 冷たくて気持ちいい。

 お風呂とは違う気持ち良さがあるな。

 広いから好きなだけ動けるし、全身の力を抜くと浮くことも出来る。

 あ、クリスタも真似して浮いてるや。

 気持ち良さそうな顔してる。

 人間と同じでドラゴンも水に浮くのは気持ち良いのかな。


「うわっぷ!?」


 何!? 顔にいきなり水が掛かってきた!

 仰向けで水面に浮くのを止めて犯人を捜す。

 誰だ犯人は……って、1人しか居ないよね。


「バニアちゃんバニアちゃん、水の掛け合いっこしようよ」


「ええ? まあ、いいけど」


 水の掛け合いなんかして何が楽しいんだろう。

 やってみれば良さが分かると思ったけど……つまらない。

 どうしよう、本当につまらない。過去一番につまらない。


 え、何が楽しいのこれ。

 水を相手に掛けたり、逆に掛けられたりするだけじゃん。

 タキガワさんはやたら幸せそうな顔だけど全く理解出来ない。

 水を掛けたり掛けられたりで喜ぶ性格なのかな。


「……ねえタキガワさん、もう止めない?」


「ええ何で!?」


「えっと、飽きたから」


「じゃあ止めましょっか」


 怖いくらいあっさり止めたな。

 これ、私が言ったから止めたんだよね。

 なんだか言いなりって感じで、そういうところは嫌いかもしれない。


「ねえ、ウォータースライダーってやつで遊ぼうよ」


「いいわね、楽しそう。だけど怖かったら私に抱きついていいからね」


 ウォータースライダーっていうのは長い滑り台らしい。

 今居るプールの奥にカーブの多い滑り台と、そこに登るための螺旋階段が設置されている。随分人気みたいで行列ができているから待ち時間は長そうだ。


 あ、ウォータースライダーを人が滑ってる。

 笑顔で悲鳴上げてる。滑るのはかなり速いんだなあ。タキガワさんの言葉の意味も分かる。……でもクリスタと一緒に滑るから、怖くてもタキガワさんには抱きつかない。大丈夫大丈夫、クリスタが傍に居れば怖いもんなしだし。


 螺旋階段で行列に加わる。

 最後尾でお姉さんが看板を持っていて、そこには待ち時間の予測が表示されていた。

 えっと待ち時間は……40分、長いなあ。


 暇な待ち時間、タキガワさんと話して暇を潰した。

 確か、冷凍マグロが武器として使えるとかなんとか。

 聞いていた時は何も疑問に思わなかったけど、思い返すと意味不明なことを話していたんだな。暇を潰せるならどんな話でも構わなかったからか信じちゃってたよ。……嘘だよね? ネタ武器とか言っていたけど、いつか冷凍マグロでモンスターと戦う気じゃないよね?


 さてさて、冷凍マグロは置いといてようやく私達の番だ。

 螺旋階段を上りきるとウォータースライダーの広い入口が目の前にある。

 この入口、大きな筒に入ると、さっきの人みたいに速いスピードで滑ることになる。


 今立っているのはかなり高い場所だ。

 普段クリスタに乗って空を飛んでいるから怖くはない。

 高い所は好きだ。こうして色んなものを見下ろせる景色が好きだ。

 今もプールで遊ぶ人間やドラゴンを多く見られる。


「ふっ、人がゴミのようだ」


 ……なんか怖いこと言うなタキガワさん。

 ウォータースライダー説明役のお姉さんも引いてるよ。


「はーいウォータースライダーへようこそお客様。この水が流れている筒に入ったら、高速で滑って真下のプールまで行きます。スリル満点、楽しさ100点。心の準備が出来ましたらお進みください」


「バニアちゃん、一緒に――」


「行こっかクリスタ」


「……なん……だと」


 ごめんね。タキガワさんはクィルと遊んでね。

 待ち時間が短ければまた並んでもいいんだけど、人気アトラクションというだけあって行列具合が変わらない。残念だけどまた40分も待つのは嫌だから2度目はなしかな。待つ人が少ない時が来ればいいんだけど。


「先行ってるねタキガワさん」


 クリスタと大きく広い筒の中に入る。

 あ、中に水が流れている。だからウォータースライダーなのか。

 うわ足が滑った! 尻餅ついた! しかもそのまま下に滑る!


「わああああああああああ!?」


 思っていたよりも怖い。

 ドラゴンで飛ぶのとは違って掴まる支えが何もないからか。

 支えが欲しいけど筒のどこを掴もうとしても滑っちゃう。

 あ、先から強い光、もうすぐ筒を抜ける。

 もしかしてもう終わり……じゃない!?


 そうだ、さっき滑っている人を外から見たんだから、ずっと筒の中なわけがない。

 ひえええええええええええ猛スピード! 滑り台部分の幅が広くても怖い!

 油の上みたいに滑りが良いからどんどん加速していく。

 私も驚いているけど隣のクリスタも目を丸くしている。

 ちょっと待って、なんかカーブがおかしい。なんか縦に回転してる。


「クリスタ!」

「クルルル?」


 怖いから思わずクリスタに抱きつく。

 すっごい速さでクリスタと一緒に回っちゃった。縦の回転だから上に行った時は落ちるのかと思っていたけど、すっごい速さで滑っているから落ちなかった。はああ、怖かったあ。いや怖いの終わってないまだ怖い。


 ぐねぐねとした左右のカーブ。

 ジャンプ台で飛んだ後の降下。

 滑り台が直角になって真下への急降下。

 色々な変化の度に悲鳴を上げていたらいつの間にかもうすぐ水面だ。

 名残惜しいような、ホッとするような、感情がぐちゃぐちゃだ。


「……ん? え?」


 ウォータースライダーの出口付近を見覚えのある女の子が歩いている。

 あのタンクトップビキニ、あの銀髪、間違いない。あれはカオス!


「あああああああカオスそこ退いてええええ!」

「あ? お、バニア――」


 忠告したけど遅かった。

 高速で滑った私は両足でカオスの顔面を蹴って着水した。

 高く力強い水柱が上がる。カオスは派手に吹き飛ぶ。

 いやでも危なかった、もし少し横にズレていたらクリスタが激突したんだもん。

 中型ドラゴンが高速でぶつかったら人間生きていられるかどうか。

 カオスは吸血鬼の高い再生力があるから死なないとは思うけど。


「ふぅ、間一髪だったね」


「どこがだよ! 思いっきり顔面蹴られたぞ!?」


 おっと早くここから離れないとね、次は私がタキガワさんとぶつかっちゃう。

 移動しながら見たけどここは高い壁に囲まれていた。ウォータースライダーを滑って落ちた時、水柱が高く上がるし遠くまで水飛沫が飛ぶからその対策かな。そして壁にある扉から出たら、扉には大きく【ここから入らないでください】と書かれていた。……カオス、こりゃダメだよ。


「……た、立入禁止の場所を見ると、つい入りたくなっちまうんだよ。わ、分からねえかなこの少年心」


「禁止されている理由はあるんだから、ダメだよルール破ったら」


「もう入らねえってばよー」


 ん、ザボーンと大きな音がした。次の人が落ちて来たな。

 扉から出て来たのはタキガワさんとクィルで、私達を見つけて駆け寄って来る。


「いやあ面白かったねバニアちゃん! あ、カオス居たの?」


「居ただろ! お前の視界に入ってただろうが!」


「私は怖かったよ。ちょっと苦手かな」


「私は絶叫系アトラクション大好きなんだよね。高いところから落ちるの最高!」


 高いところは好きなんだけど落ちるのは話が違うよね。

 一応安全面を考えられたアトラクションとはいえ、あのスピードと浮遊感は怖い。


「へえ、オレも遊んでこようかなウォータースライダー」


「行ったら? 遊ばなきゃ損よ」


「よしブラド行くぞ!」


 カオスがブラドを連れて行列に並ぶ。

 カオス達が戻って来るまでは泳ぐ練習をしたり潜ったりしていた。

 そして1時間後、絶望といった様子のカオスをブラドが咥えて戻って来た。


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