71 プールは飛び込み禁止だよ
スイリュウの入口から歩いて20分程でプール施設に到着した。
まずは更衣室に入り3人で着替える。
更衣室は個室付きだから変態が出ても安心だ。
いやー、うちのチームにも変態がいるけど安心安心。
個室から出ると既にカオスとタキガワさんが待っていた。
カオスは黒いタンクトップとショートパンツ。
タキガワさんは赤い水玉模様の三角ビキニ。
私は青と白のストラップ柄の三角ビキニだけど、さらにスカートを履いている。本当は三角ビキニなんて嫌……と思っていたんだけど、これはトップスに大きな可愛いフリルが付いている。露出は我慢出来る程度かなと判断した。フリルとスカートで露出は控え目になっているしね。
私を見た瞬間、タキガワさんが鼻を摘んで上を向く。
鼻血出たんだろうなあ。予想していた。これを予想出来る現実が酷い。
一方カオスは私を見てうんうんと頷く。
「バニアは結局ビキニにしたんだな。似合ってるぜ、オレ程じゃねえがな」
「は? アンタなんかバニアちゃんの前じゃカス同然なんですけど」
鼻血止まるの早いな。
「は? バニアが可愛いのは認めるけど、1番はオレだろ。そこは譲れねえ」
「ナルシスト」
「変態」
「変態はアンタでしょ」
どっちもだと思う。
この2人の喧嘩はいつも通りだし、止める必要はないかな。私が止めなくても直に終わる。チームメンバー同士の喧嘩は良くないんだけど、この2人は喧嘩するほど仲が良いって感じだ。軽い口喧嘩はもはや日常。2人はこれで良い。
「じゃあロリコンだな。バニアへの態度で分かるぜ」
「残念、ロリコンじゃないわ。バニコンよ」
「……そうか。納得した」
いやバニコンって何さ。
なんでカオスは納得するのさ。
重症だねこれは……頭が。
はぁ、タキガワさんは私が関わらなきゃまともなのにな。
「ねえ2人共そろそろ行こう。クリスタ達が待ってるよ」
「おおそうだ。ブラドにオレの美を見せねえと」
「持ちドラが退屈してるよね。早くここ出ましょ」
このプール施設の更衣室は人間用とドラゴン用に分かれている。持ちドラに水着を着させる場合は、人間も一緒に更衣室に入って着替えさせる。……といっても、ドラゴンに水着を着させる人なんて少数。ドラゴンにはやっぱり裸が似合うし、多くの人はドラゴン用更衣室を使用しない。
ドラゴン用更衣室に入らない持ちドラは、人間用更衣室の外で待ってもらう。先にプールに行かせる人も多いみたいだけど、それじゃ迷子になる可能性がある。
更衣室を出て、通路を改めて見て広さに感心した。
私の実家……今じゃたまに掃除しに帰るだけの家は、人間しか住んでいなかったから狭かった。いや、私とママだけなら十分な広さだったけど、中型のドラゴン1体でも動き回れる広さじゃない。実家に慣れているせいか、ドラゴンが動き回れるくらい広い場所を見ると今でも感心しちゃう。
えーっとクリスタはどこかなーっと、お、居た居た。
更衣室の外、プールに繋がる通路でクリスタと他の持ちドラが待っていた。他の人の持ちドラも居るから色々なドラゴンが並んでいる。
「クリスタお待たせ」
「おいでクィル」
「どうだブラド、オレは何を着ても似合うだろ」
ポージングして水着を見せつけるカオスは置いといて、3体の持ちドラが私達の前に集まった。ブラドはやれやれといった表情だ。
さてさて、みんな揃ったことだしプールに行こう。
一直線の通路を歩くとプールのある場所に出た。
うわ、ひ、広すぎる。エルバニアのギルドやザンカコウの温泉旅館よりも広い。最初、施設に入る前に大きさに驚いたけど、想像を軽く超えてきたなあ。
このプール施設、さすがスイリュウの2割を占める大きさなだけあるね。プールだけでも多くの種類があるし、遊具やアトラクションもあるみたいだ。後で遊ぼう。
ん、壁に案内図と注意書きがあるや。
プールは全てドラゴンと一緒に入れるけど種類によっては入水厳禁。
水に弱い小型のランプドラゴンなんか水に浸かったら死んじゃうしね。
建物内に立入禁止なのは全身から毒液を分泌するベノムドラゴンとか、体液が酸性のアシッドドラゴンだ。
今日のメイン、プールの種類も詳しく書かれているな。
まず1番近くにあるのが普通の水を入れたもの。ウォータースライダーに観覧車まで用意された、遊園地のような場所だ。子供に1番人気らしい。
近い順だと次は、常に渦巻きが発生している渦巻きプール。
冷水シャワーが真上に付いている雨プール。
浮力が高くドラゴンすら浮くフワフワプール。
他にも色々なプールがあって1日じゃ遊び尽くせないかも。
うん、まだ入ってすらないのに来て良かったと思う。
「よっしゃ1ばあああん!」
あ、カオスがブラドを連れてプールに飛び込んだ。
注意書きを見なかったのか。他の客の迷惑になるから飛び込み禁止って書いてあるのに。人間はともかくドラゴンは重いんだから、飛び込んだりしたら大きな水柱が上がる。
「何してんだ2人も早く来いよ!」
ピッピーと笛の音。
あちゃー、監視員さんが来ちゃった。
腹筋が6つに割れた男性の監視員がカオスに近付く。
「こら君、飛び込み禁止だよ。保護者の方はどこに居るの?」
「なんだあテメェ……オレはガキじゃねえ、14だぞ! 保護者なんざ居ねえ!」
態度わるっ。子供扱いされたからかな。
私は13歳だからカオスと1歳しか変わらないや。
「14はまだ子供だよ。しかし保護者が居ないとは参ったな。とりあえず君、お兄さんと一緒に来てくれるかな」
「ナンパはお断りだぜ」
「どこで覚えたのそんな言葉。まあとにかく、お兄さんとお話しようか」
監視員のお兄さんがプールに入水してカオスの腕を掴む。
ブラドが敵と勘違いして睨むと、ドラゴンがお兄さんの髪の毛を掻き分けて出て来た。薄い虫のような羽に、小さな桃色の体。あれはフェアリードラゴン。人間の手に乗れる程度の大きさだから超小型に分類される。滅多に見かけないんだよねえ可愛いいいい。
フェアリードラゴンがブラドの目を見て鳴く。
鳴き声は会話だ。状況を説明しているみたい。
納得したブラドは大人しくなり、カオスに非難の目を向けて、頭部でプールの外まで突き飛ばした。うわ痛そう。
「ぐええええええ!?」
悲鳴を上げたカオスは緑の床に尻餅をつく。
「いきなり何すんだあ!」
「君の持ちドラは利口だね。さあ、行こうか」
「なっ、放せ! うわああバニア、バニコン、助けてくれえええ!」
監視員のお兄さんにカオスは連れていかれた。
ブラドとフェアリードラゴンも2人に付いて行く。
「……バニアちゃん、私達だけで遊ぼっか」
「そうだね」
カオスは私達に付いて来られない、置いていこう。




