69 どんな水着が良いのかな
スイリュウに向かうと決めたなら、出発前にやることがある。
水着だ。プール施設で着るための水着を手に入れる。
ギルド最寄りの服屋に寄った私達は水着コーナーに来た。
おお、色々な水着がある。
持ちドラ用の水着もあるな。
少数派だけど持ちドラに服を着させる人間もいるし、水着があるのも当然か。持ちドラのファッションコンテストは有名だけど、確か水着部門なんてのもあった気がする。私は何も着せない派だからコンテストに縁が無いね。
でも待って、大抵のドラゴンは裸族ってこと?
マニアックな人は興奮しちゃうのでは……考えるの止めよう。
そんなことより私が着る水着を選ばないと。
店に並ぶのは様々だ。大胆に露出するビキニとか、名前の意味は知らないけどスクール水着とか、ワンピース型とか……布面積が異常に少ないやつとか。
どんな水着がいいかなって何だあれ!? 殆ど紐じゃん!
「ん? バニアちゃん水着どれにするか決まったの?」
タキガワさんが私の目線を追う。
いや違うから紐なんて買わないから。
「ま、マイクロビキニ……」
うわタキガワさんの鼻から血が大量に!?
「いけないいけない、つい興奮しちゃった。ちょっと血管破れたか」
数秒で血が止まったけど、高頻度で鼻血出すから心配だな。
いつか鼻血が原因で死ぬんじゃないかこの人。
「バニアちゃんはマイクロビキニ買うの? 試着する?」
「買わないし試着もしないよ。あんな水着恥ずかしくて着れないもん」
「くっ、可愛さ10000点」
何言ってんだこの人。
可愛さの点数は置いといて水着を選ばないと。
三角ビキニは露出多いから恥ずかしい。あんなの下着じゃん。
スク水はシンプルにダサいかな。一応候補には入れておこう。
マイクロビキニは論外。誰が着るんだあんな紐。
やっぱり一番私に合うのはワンピースタイプかなー。
「タキガワさんはどんなの買うの?」
「私は三角ビキニかな、定番でしょ」
定番なの? あんな下着同然の代物が?
し、信じられない。海やプール施設ではあんな物を着た人達で溢れているのか。
私知ってる、そういう人達のこと痴女って言うんだ。
この世は痴女で溢れているんだ。タキガワさんも痴女だ。
はっ、私の仲間はもう一人居る。
カオスはビキニなんか着ないよね? 痴女なんかじゃないよね?
参考にしたいから本人に訊いてみよう。
「カオスはどんなの買うか決めた?」
「ん、オレ? オレはこれだ!」
「……は?」
カオスが手に持つハンガーには赤いパンツ。
いや、いやいや、え、上はどこだ。
ビキニだったら上があるでしょ。
普通ハンガーに掛かっているはずなのに見当たらない。
「ブーメランパンツだぜ」
「…………は?」
何言ってんだカオスは。理解が追いつかない。
タキガワさんも驚きすぎて表情が凄いことになってる。
頭は混乱しているけど1つ言えることがある。
「痴女カオス」
いや、心は男なんだから痴漢なのか?
駄目だ。まだ、頭が、混乱している。
「……冗談だよ。もう体は女だし履くわけねーだろ」
「体が男だったら履いてたんだ」
私とタキガワさんがジト目でカオスを見た。
ブーメランパンツって名前は初めて知ったけど、その水着って男性物の中では際どい物だと思う。アレの大きさが、その……分かっちゃいそう。
「オレはこれにするぜ。タンキニ」
カオスが隠し持っていた水着を見せびらかす。
ヘソが見える短さの黒いタンクトップ、黒いショートパンツ。
いわゆるタンクトップビキニってやつだ。
三角ビキニと比べれば露出は遥かに少ない。
「おお良いじゃん」
「カオスのくせにまあまあなチョイスね。ま、アンタ外見だけは可愛いから何でも似合うだろうけど」
「だろ! キャラ作り拘ったからな、特に顔!」
「うん、天使のバニアちゃんより顔が可愛くてムカつく」
「吸血鬼は美形と決まってるからなー」
たまに2人の会話は私の理解を超える。
何さ『きゃら作り』って。げえむの用語ってのは分かるけどさ。
何さ天使って、私ヒューマンなんだけど。
……話が脱線したな。今考えるべきは水着だった。
よし、決めた。私も2人に合わせてビキニにしよう。露出控えめのやつね。
「――バニアちゃん」
名前を呼ばれたから振り返ると薄緑の肌の女の子、バンライが居た。
フリル付きワンピースを着る彼女の鎖骨から下は薄緑の鱗が覆っている。
「えへへ、見かけたから声掛けちゃった。水着買うの?」
「うん。これからスイリュウのプールに行くから」
「へえー、楽しそうだねえ」
「――バンライ! ここに居たのね!」
この声はミレイユ。
そっか、1人で服屋に来たのかと思っていたけど2人で来たんだ。
服が並ぶ通路の間から耳が尖った金髪の女の子が走って来る。
「あ、ミレ……イユ」
ミレイユなのは間違いないんだけど、何て言うか、服がダサい。
シャツの胸部分には2つの渦巻き、ヘソ部分にはそれと逆向きの渦巻きが描かれている。目が回りそうなシャツだな。緑のストレートスカートにはへんてこなスライムが描かれている。何だろうあのドロドロで可愛くない奴。スライム型モンスターって言えば、丸っこい体にくりっとした瞳が可愛いモンスター筆頭なのに。
「ごめんねミレイユちゃん。バニアちゃん見つけたから声掛けたくて」
「あら、バニアではありませんか。水着コーナーに居るということは海にでも行くのかしら。良いですわよね海。シャレオツでマブイ方々が沢山居て、みんなと泳いだりボール遊びしたりで楽しいですわ。でも以前行った時、ナンパする方がしつこくてMK5でしたわ」
時々言葉の意味が分からない。これぞミレイユって感じで安心すら覚える。
いったいどこで『しゃれおつ』とか『MK5』とか覚えたんだろう。
そもそもそれらが何を示す言葉なのか私にはさっぱりだよ。
「ミレイユはその、すごい服装だね」
「あはは、実はミレイユちゃんって服のセンスがないんだ。いつも最後は私が選んであげるの。自慢じゃないけど私、服選びのセンスがあるってマヤさんに言われたんだ」
「えっ、ではこの服もダサいのですか!? シャレオツな自信がありましたのに」
……もしかして『しゃれおつ』ってオシャレって意味かな。
うん絶対そうだ。初めてミレイユの謎言語が理解出来た。
「ねえバニアちゃん、スイリュウに行くの2人も誘ってみたら?」
「あ、いいね。ねえ2人共、用事がないなら一緒にスイリュウへ行かない?」
仕事は私のチームだけでやるけどプールで遊ぶのは仕事じゃない。
ミレイユやバンライともプールで一緒に遊びたい。
いや、どうせなら『薔薇乙女』全員と遊びたいな。
「ごめんなさいバニア。私これから仕事でフォレスディアに行くのです」
フォレスディア。確か森の中にある町だっけ。まだ行ったことないな。
Bランクの依頼場所にあったから、私自身がBランクになったら仕事で行くか。
「仕事ならしょうがないね」
「ええ、その代わり、帰って来たら一緒にどこかへ出掛けましょう」
「いいね行こ行こ。それじゃあ早く仕事終わらせないと! 行こうタキガワさん、カオス!」
3人で水着を買ってから服屋を出た。
外で待機していた持ちドラ達と合流して、エルバニアから飛び立つ。
プールで遊ぶのも楽しみだけど、帰って来てからも楽しみになっちゃったな。




