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68 新たな町へ

 行き当たりばったりで新章スイリュウ編開幕。









 宿屋『小さな栄光』の一室。

 隣のベッドで寝ている赤い長髪の女性、タキガワさんの寝顔を何となく見る。

 もう1つ隣で寝ている銀髪オッドアイの少女。心は男性らしいカオスは何と言うか、あまりにも酷い体勢で寝ていた。両手両足を大きく開いている。どんだけ寝相悪いのさカオス。


 色々あったザンカコウからエルバニアに戻って4日。

 ギルドで依頼を受けては達成して、私はランクがDからCになった。

 ザンカコウの件ではレベルがすっごい上がったからな。

 今じゃDランクでもCランクでも、殆どの討伐依頼が簡単に感じる。


 朝日に照らされる窓の近くでストレッチを行う。

 動かすことで手足や首、背中や腰を解していく。


「今日も元気に頑張ろう!」


 窓から顔を出して街道を見下ろす。

 うん、平和な景色だ。緑と人とドラゴン溢れる町だ。

 遠くには町に聳え立つ塔の形のギルドが見える。

 森に住んでいた頃とは大きく違うけど、もう慣れた朝の始まり。

 失ったモノもあるけど私は今も幸せだ。


 カオスとタキガワさんを起こして今日もギルドに行く。

 右奥の受付嬢さん、依頼を受ける専用のカウンターに立つ彼女のもとへ真っ先に向かう。


「今日も依頼を受けます」


「はい、連日ご苦労様です。チーム『のんぷれいやー』様が受けられる依頼はこちらになります」


 右奥受付嬢さんがカウンターに依頼書を並べる。

 カウンターが高いからそのままじゃ私とカオスが見られない。

 3人で依頼書を見るため、私達より背の高いタキガワさんに依頼書全てを取って見させてもらう。チームで仕事するんだからみんなで内容見ないとね。


 えっと依頼書は全部で27枚か。

 改めて思う。DランクからCランクに上がり、出来る仕事の量が増えた。それにしては少ないと最初は感じたけど、毎日誰かが仕事しているんだから依頼が減って当然だ。逆に減らなかったらギルド職員さんも困るだろうね。


 チームが受けられる依頼のランクは所属メンバーのランク以下。カオスがBランクだから、私達『のんぷれいやー』はBランクまでの依頼を受けられる。だけど私からの提案で、私のランクより上の依頼は受付嬢さんに省いてもらっている。チャレンジ精神も大事だけど、命懸けなんだし慎重に仕事を選んで損はない。


 さてさて、依頼を確認確認。


 16枚はエルバニア付近での討伐と採取依頼だな。

 エルバニア付近はこの世界で1番モンスターが弱いとされている。遠くに行けば行く程にモンスターが強くなるって聞いたけど……本当なのかな? 確かにザンカコウ付近に居たモンスターは強いと思ったけど。


 4枚はザンカコウでの仕事だな。

 今ならあの付近のモンスターも楽勝だと思う。


 他の依頼書はまだ行ったことがない場所での仕事か。

 水に囲まれた町、水の都スイリュウが3枚。

 吸血鬼の住む国ヴァンノールが2枚。

 金持ちの人間が多く住む町ゴールドスが2枚。


「どれにする?」

「これにしようぜ!」


 依頼書の中からカオスが1枚を素早く取る。

 えっと、水の都スイリュウからの依頼か。


 ブルーホース15体の討伐。

 馬型モンスターかあ。ケンタウロスと関わっていると若干やり辛いなあ。

 いや、強さ的には今の私なら1人で討伐出来るけどね。


「なんでこの依頼受けたいの?」


「スイリュウに行きたいだけだよこいつは」


「何で?」


「これ見てみ」


 タキガワさんが1枚のチラシを見せてきた。

 スイリュウにあるプール施設の広告だ。

 坂を水流と一緒に滑り落ちる男女の絵が描かれている。

 男女は濡れてもいいように水着姿で楽しそう。


「ギルドに来る途中でこれ配ってる人から受け取って、気持ち悪い笑み浮かべてたのよこいつ。まあ私もプール施設には興味あるけどね」


「そうだろそうだろ……って気持ち悪い笑みって何だよ!」


「気持ち悪い笑みは気持ち悪い笑みよ」


 プール施設か、私も興味あるなあ。行ったことないもん。

 服屋に水着は売っているけど、それは海で着る人の為の物だ。

 エルバニアにはないからねプール施設。

 滅多に行く機会はないし行きたい気持ちが強い。


「2人共プール行きたいの?」


「ち、違うぜえ? プール行って水着の女性が見たいとか思ってないし」


「いつも通り最低だよアンタ。因みに私の興味は女性じゃなくてプール施設そのもの……あれ? もし行ったらバニアちゃんも水着……? バニアちゃんの……み、み、みみみみみ水着?」


 壊れたのか、元から壊れていたのかタキガワさん。

 もうさすがに私も気付いてるよ。

 タキガワさんが私を見る熱い眼差しは……アレだね。

 敢えて言わないけど気付いちゃったよ。気付きたくなかったよ。

 まあ、好かれるのは良いことだけどね。


「じゃあ行こうよ。今日の仕事はスイリュウ行きの依頼にしよう」


「「よっしゃあイェーイ!」」


 2人がガッツポーズしてハイタッチする。

 こういう時は仲良いよなこの2人。

 肘を合わせてから両腕を真上に伸ばし、今度は両手でハイタッチ。

 練習したのかと疑うくらいには息ぴったりな動きだ。


「ねえ、どうせ遠くへ行くなら他の依頼も受けない?」


「めんどいな」

「私は構わないよ」


「じゃあ依頼3つ受けとこっか」


「あれ!? オレの意見無視!?」


 せっかくエルバニアから離れた場所に行くんだから、依頼1つ受けるだけってのも勿体ない。困っている人が他にも居て、私達に時間があるならそっちにも手を伸ばしたい。後日受けることになったら往復時間の無駄だしね。無駄と無理のない人生を送りたい。


 スイリュウからの依頼書を全て手に取ってカウンターへ向かう。


「あの、スイリュウからの依頼3種類を受けます」


「かしこまりました。ではギルドカードの提示を」


 緑色のカード、つまりギルドカードを右奥受付嬢さんに手渡す。

 右奥受付嬢さんはカードを傍に置いてある青い水晶へ翳し、ピッと音が鳴ってからカードを返してくれた。


「それではいってらっしゃいまっせ」


 ……前から気になっていた。

 右奥受付嬢さんの『いってらっしゃいまっせ』の最後、あの『まっせ』って部分。なんで『ませ』じゃなくて『まっせ』なんだろう。

 理由は何でもいいか。行こう、スイリュウへ。


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