表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/123

65 嬉しさと辛さ半分ずつ


 ん、んん……瞼が重い。

 目をしっかり開けると見覚えのある天井。

 この和風な部屋、私が泊まっていた温泉旅館か。


 布団から起き上がると傍には赤い長髪の女性、タキガワさんが眠っていた。

 私が起きた振動のせいか、タキガワさんが「ううん」と呟いて起き上がる。

 眠そうに目を擦る彼女は私を見て目を見開く。


「あ、ば、バニアちゃん!? 起きて大丈夫なの!?」


「え? う、うん、大丈夫」


 大袈裟な心配だなあ。

 私は寝ていただけ……じゃ、ないか。

 思い出した、私はゴングを殺した後で気を失ったんだ。

 あれからどれくらい時間が経ったんだろう。

 時間だけじゃなくて今の状況も詳しく知りたい。


「バニアちゃん、何があったか憶えてる?」


「マグドラゴンを説得して、ゴングの命を奪ったところまでは憶えてるよ」


「良かった、記憶の欠落はないみたいね。今はバニアちゃんとカオスが火山に行ってから2日後よ。一昨日、リエットさんがね、気絶しているバニアちゃんを運んで来てくれたの」


 リエットさんが……会ったらお礼言わないとな。

 それにしても2日も寝ちゃってたのか。

 2日も目覚めなかったらそりゃ心配するよね。

 さっきのタキガワさんの反応も納得出来る。


「彼女が戻って来た時のナットウ君、すっごい嬉しそうだったよ。バニアちゃんにも見せたかったなあ彼の泣き笑い顔。スマホあれば写真撮っていたんだけどねー。まあ、背中で気絶しているバニアちゃん見て、泣き笑いもすぐに焦り顔へ変わったんだけど」


 泣き笑いって、想像出来ない。

 ふふ、嬉しくて泣いちゃったんだね。

 ナットウ君の心が傷付かないで本当に良かった。

 親子の生活を守れただけでも命を賭けた価値があったなあ。


 リエットさんの家で私を休ませず、旅館まで連れて来た理由は何となく分かる。あの家は誰かを介抱するのに向いていない。こう言っちゃあ何だけど、家がボロボロすぎて怪我や病気が悪化しちゃうかもしれない。ま、私が気絶した理由は怪我でも病気でもないし、あの家で寝かせてもらっても問題なかったけどね。ただ、折角の親子水入らずの時間を邪魔したくないから、旅館の方が私の気分は楽でいられる。


「カオスはどうしたの?」


「町長さんの家でアイテム探し中。話は聞いたよ。録音アイテムさえ見つかれば事態は丸く収まるんでしょ」


「うん、そうらしいね」


 町長のグロウさんは、マグドラゴンと仲良しだったフロウさんの子孫らしい。

 カオスが語った通りなら400年前に残された道具を代々受け継いでいるはずだ。


「あいつ、一昨日は元気良く探しに行ったけど、今日は元気なかったなー。顔青くして『やべえやべえ』って言いながら出て行ったの」


 ……大丈夫かな。謝る心の準備はしておこう。

 マグドラゴンが怒らないように謝れるかなあ。


「あいつ、殺されなきゃいいね」


「さすがに殺されはしない……と思う」


 マグドラゴンは人間に対して抱くのは罪悪感。

 怒ったからといって人間を殺そうとはしない、はずだ。


「あいつの話は置いとこう。あんな奴よりバニアちゃんのことよ。話せているし体や脳に異常はなさそうだね。でも突然気絶するって怖いし、違和感とかあったらすぐ言ってよね」


 本当に心配してくれるな。出来ればカオスも心配してあげてほしい。

 体に違和感はない、調子は普段通りだ。

 突然の気絶の原因は分かっている。

 隠し事はしたくないし話してみようか。

 信じてくれるかは分からないけども。


「気絶の原因なら分かっているんだ」


「え、本当? 病気じゃないよね?」


「ゴングの命を奪った時、モンスターと同じで経験の塊を得た。その時、ゴングの今までの人生が頭に流れ込んで来たの。気絶したのは、入る情報量に頭が追いつかなかったせいだよ」


 あの時の頭痛は流れ込んで来た記憶のせい。

 この世に生を受けてから死の瞬間まで全てを見せられた。

 他人には隠したがるようなことも、本当に全てを見てしまった。


 ドラグロワという国でゴングは親に捨てられた。

 捨てられた理由までは彼の記憶にないから分からない。

 スラム街と思わしき場所で、彼はジミーと一緒にゴマから拾われる。

 彼は育ててくれたゴマに恩義を感じ、ジミーと一緒に忠誠を誓う。


 ゴマから与えられた仕事はするけど、自由な時間は随分と好き勝手に生きてきたらしい。風俗って店に定期的に通い、多くの女性に……エッチな……いやこれは思い出さなくていいや。


「人間を殺しても経験値を得られる、か。……何か、怖いね」


「うん、私もそう思う。もう人間の命は奪いたくない」


 他人の人生を見られるなんて貴重な体験だとは思う。

 でも、自分が殺した相手の人生を見ちゃったら、何か可哀想な記憶を見ちゃったら、憎い相手でも殺したのを後悔する。


 ゴングから経験を得たことで強くはなったんだろう。

 強くなったら嬉しい気持ちが半分、辛い気持ちが半分かな。 


「〈ステータス〉」



 【名 前】 バニア

 【レベル】 46

 【ジョブ】 ライダー・ガーディアン

 【熟練度】 ☆☆


 【生命力】 401/401

 【魔法力】 166/166

 【攻撃力】 208

 【守備力】 313

 【聡明力】 177

 【抵抗力】 294

 【行動力】 304

 【ラック】 52


 【持ちドラ】 クリスタ(クリスタルドラゴン)



 ……凄い、レベルも能力値も全部2倍以上になっている。

 効果は知らないけど熟練度もワンランク上がっている。

 地道にレベル上げをしていたら、ここまで上げるのにいったいどれだけの時間が掛かるかな。きっと何年も掛かるよね。


 もしかしたら人間から経験を得た方が強くなれるかもしれない。

 だけど、仮にそうだったとしても、人間としてやっちゃダメなんだと思う。

 強くなるために殺すなんて人道に反する。

 私は今まで通りモンスターを倒して強くなろう。


「どう? 強くなってた?」


「驚くくらいには。熟練度がワンランク上がったんだけど、何か変わったのかな?」


「バニアちゃんのジョブはライダーとガーディアンだったね。どっちの熟練度も上がったんなら、ライダーは行動力10上昇、ガーディアンは守備力と抵抗力20上昇ね。どのジョブの熟練度も、最初は能力値を成長させる効果よ」


「なるほど」


 だからか、能力値の伸びが一部高いように感じるのは。

 魔法耐性である抵抗力に関してはカオスを超えたな。

 問題はレベルが上がれば上がる程、次のレベルアップに必要な経験の量が多くなることか。レベル99だったケリオスさんの凄さを今なら深く理解出来る。


 色々と考え事をしていた時、部屋の木製ドアが勢いよく開かれた。


「――今帰ったぞおおってバニア!? もう平気なのか!?」


 部屋に入って来たのは銀髪オッドアイの少女、カオス。

 平然と体を動かす私に彼女は驚愕する。


「もう大丈夫。心配掛けてごめんね」


「無事ならいいって。嬉しいことは続くもんだなあ。録音アイテムを見つけた日にバニアが目覚めるなんて」


「見つかったの!?」


 タキガワさんの言い方からして、今日まで見つからないどころか手掛かりすらなかったはずだ。すっごく頑張って探したんだな。

 音声録音道具は見つけられたし、マグドラゴンには良い報告が出来る。


「良かったじゃん。朝まで死刑当日の囚人みたいな顔してたのが嘘みたいね」


「村長の家をもう1回隅から隅まで探したら、本棚の裏に隠し階段の入口を出す仕掛けがあってよ。地下の最奥に道具が保管されていたんだよ」


 何それちょっと楽しそう。

 隠し階段なんてテンション上がるね。


「バニア、マグドラゴンの所まで一緒に行くだろ?」 


「もちろん行く! どんな結果であれ最後まで見届けたいから」


「よし、じゃあ今から行こう」


「行こう!」


「あ、私も行く」


 気絶の原因が分からなかったら1日は様子見していたけど、原因は分かっているし火山でまた気絶することはない。

 今の私は絶好調。ぐっすり眠ったんだし当然だよね。

 待っていてねマグドラゴン、今から火山に向かうから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ