ジミー視点 義務
レッドカーペットを進む足が重い。
これから報告する内容、ゴマ様にどう伝えたものか。
はあ、俺も未だに信じられん。まさかゴングが殺されるとは思っていなかった。
しかし……実際に見てしまっては、信じるしか、ないのだが。
視界をリンクさせた鳥にゴングを追わせてみれば、たかがヒューマンの少女に敗北する瞬間を見た。しかもあのヒューマン、確か以前見逃してやった少女だ。
戦闘の理由は……復讐だろうか。
ケリオスというヒューマンの男は異常な、ゴマ様をも凌ぐ強さを発揮してみせた。あれを生かしておけば必ずゴマ様の脅威になっていた。あの男の殺害は正しい判断だろう。
問題はゴングを殺した少女、確かバニアだったか。
戦闘の全てを見たわけではないが厄介なのは分かる。
……はぁ、胃が痛む。脅威の芽は早く摘みたいものだな。
さて、ゴマ様が居る部屋にもうすぐ辿り着く。
リュウグウ王城の2階にあるゴマ様自身の部屋に到着してしまう。
ああまだ心の準備出来てないのに扉が見えてくる。
くそっ、行くしかないのか。今すぐ帰りたい。
部屋の扉をノックしても返事が来ないように。不在でありますように。
もし別の場所に居るのなら、捜す間に心の準備が完了するかもしれない。
「ゴマ様、俺です、ジミーです。いらっしゃいませんか?」
「入りなさい」
ちくしょう、冷静なのを装うしかない。
扉を開けると怪しげな紫の部屋が視界に広がる。
赤紫のローブを着ている青白い肌の男、ゴマ様。
どうやら椅子に座って本を読んでいる最中のようだな。
あの本、ゴマ様が自作した物か。
高頻度で読み直しているのに飽きないのだろうか。
「どうかしましたかジミー」
本から目を離さずにゴマ様はこちらに意識を傾ける。
「お伝えせねばならないことがございます。……ゴングが、死亡しました」
「……ゴングが」
伝えた瞬間、凄まじい殺気が部屋に満ちる。
お、恐ろしい。まるで自分を容易く殺せる怪物を前にしたような気分だ。
……いや、実際ゴマ様なら俺の命程度は容易く奪えるだろう。
この方に勝てる存在などもはや世界に居ない。
やはりお怒りになるか。
無理もない、ゴマ様は俺とゴングを何故か特別視していた。
捨て子だった俺達を拾い、何不自由なく育ててくださった。
あの野蛮なゴングにさえ情を持っているお優しき方だ。
バニア……貴様の豪運も、終わりらしいぞ。
「……違う」
今ボソッと、違うと言ったのか?
何だ、何が違うんだ。
ゴマ様は何をお考えなのだ。
「違う違う違う違う、殺される順番が違う! ちがああう!」
取り乱したゴマ様が立ち、地面に本を投げつけた。
お、恐ろしい表情。今にも人を殺しそうだぞ。
荒くなった息を整えたゴマ様は再び椅子に座る。
「……申し訳ありません、少々取り乱してしまいましたよ。詳しい報告を聞きましょう。どこの誰です、私の可愛い部下を殺したのは」
「バニアというヒューマンの少女です」
「バニアですって!? あの少女が!?」
な、何だ、発されていた殺気が消えた。
信じられん。玩具を買ってもらった子供のように目が輝いている。
表情からは先程までの怒りが消え、笑みを浮かべている。
「これはもはや運命! バニアこそ、俺が待ち望んだ主人公かもしれない! 私と戦うに相応しい存在かもしれません!」
「……ご、ゴマ様?」
「あなたに今すぐ仕事を与えましょう。バニアの血縁関係を調査しなさい。彼女との出会いが運命だとすれば、ひょっとするとひょっとするかもしれません」
「りょ、了解しました。お望みとあらば今すぐにでも」
分からない。あの少女はゴマ様にとってどんな存在なのだ。
こんなにも嬉しそうな顔は初めて見たぞ。
恋……なわけはないか。しかし俺以上に特別視している。
「あの、ゴングの仇は討たなくてよろしいのでしょうか」
「構いません。死ぬ順番が違うのは気になりますが、元々彼は死ぬ運命だったのです。あなたは与えられた役割を最期まで果たしなさい」
「はっ、了解しました」
死ぬ順番……いずれは、俺も……。
ふぅ、バカだな俺は。
たとえ俺の想像通りだとしても、ゴマ様への忠誠心は揺るがない。
ゴマ様がいなければ俺の人生などあってないようなものだった。
拾ってくれなければ、赤子のまま朽ち果てていたに違いない。
やるべきことは1つ。命令に従い、主に尽くすこと。
拾われた身として一生尽くすのは義務のようなものだからな。




