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56 似た話


 私の目的は1つ果たされた。

 ケリオスさんの死を義理の息子、ナットウ君に伝えること。


 彼にとって悪い知らせだし、涙が零れそうになっているけど伝えなきゃいけなかった。彼の言う通り、真実を知らないままなんて本当は良くないから。


 死亡を知ってすぐなのに、彼はお父さんのことを知りたいからと思い出話を要求してきた。彼の気持ちを大切にしたいからケリオスさんのことを色々話す。……まあ、大した話は出来ないんだけどね。


「どうかな、私の思い出は殆ど話したけど」


「良かったよ。父さんの知らない部分を知れたし」


 本当に好きだったんだな、ケリオスさんのこと。

 もしあの人が生きていたらまたナットウ君と過ごしたのかな。


「なあ、思ったんだけど今日は昨日より町中が騒がしくねえか?」


 話が一段落したところでカオスがそんなことを言う。

 確かに、今日は昨日より賑やかかもしれない。

 話し声が聞こえる賑やかさじゃなくて物音がするんだよね。

 みんな何かの準備をしているみたい。

 店を用意している人もいるしお祭りかな。


「あー、明日は祭りだからな。火神楽祭り」


 嫌そうな顔をしながらナットウ君が教えてくれた。

 お祭り、お祭りかあ。行ったことないなあ。


 エルバニアにもフラエル祭ってやつがある。

 バニア・フラエルという初代国王の誕生祭だ。

 1度くらい行きたかったけどママには止められたし、ザンカコウでお祭りがあるならすっごい楽しみ。色んな店を回るの今からわくわくしちゃう。


「へえ祭りか! たこ焼きあっかな」


「ないんじゃないの。日本じゃあるまいし」


 カオスが「えー」と残念そうに口を尖らせる。

 たこ焼きといえばお祭りの定番だよね。本で見たことあるし、どういうものかママから聞いたことがある。確かタコを丸ごと焼くんだよね。


 タコ1匹を食べるなんて贅沢だ、食べられる人が羨ましい。

 たこ焼きが実在することを教えてあげるとカオスは「よし!」と喜ぶ。

 私も楽しみだよたこ焼き。


 それにしても……少し気になるな。

 お祭りの話になってからナットウ君の表情が少し暗い。

 まあ、私達は楽しみだけど、お祭り嫌いって人もいるか。


「ナットウ君、お祭り嫌い?」


「祭りは嫌いじゃねえよ。……普通の祭りならな」


「どういう意味?」


「火神楽祭りは特殊なんだよ。10年に1度、祭りの裏では最悪なことが行われている。町の安全を守ってもらうため、火山に棲むマグドラゴンに若い女を差し出す。生贄みたいなもんだ」


 なんか最近似た話に関わったばっかりだな。

 ロックドラゴンの話と似ている。

 もしかしたら理由も同じかもしれない。

 人間側の勝手な勘違い。価値観の違い。


 生贄なんて出さなくてもロックドラゴンは村を守る気でいてくれた。自分が住んでいる場所の近くだからってだけだけどさ。野生のドラゴンにとって自分の生息区域を守るのは当前だから、村がそこに入っていたらとりあえず守るんだ。 


「まーた生贄かよ。ドラゴンは生贄好きなのかね」


「その若い女の人達はどうなるの?」


「……さあな。そいつらがどうなったのかは誰も知らねえさ」


 ということはまだ生きている可能性もあるか。

 マグドラゴンは火山に生息するドラゴン。主食はマグマや炎。


 肉食じゃないから人間を食べちゃった可能性は低い。

 まあロックドラゴンの例があるから、絶対生きているとは言えないけど。

 岩が主食のロックドラゴンも人間食べちゃったからね。美味しくないと感じても、貢ぎ物として仕方なく食べるかもしれない。


「バニアちゃん、どうする? ロックドラゴンみたいに生贄に乗り気じゃないなら止めさせられるけど、あれはかなり特殊なケースよ」


「1度話をしてみたい、かな」


「だよね。バニアちゃんならそう言うと思った。カオス、アンタは?」


「どうしたいって希望はねえ。とりまバニアに付いて行く」


 話をすれば生贄となった人の生死を確かめられる。

 相手が交渉可能かどうか、人間が好物で意思を曲げないかは会えば分かる。

 信じられないといった様子でナットウ君が「は?」と呟く。


「お前ら何言ってんだ。話をしてどうなるってんだよ」


「生贄を出すなんて良くないから説得してみるの。理由も知りたいし」


「説得って……考えたこともなかった。出来るのかそんなこと」


 生贄を当然だと思っていたら説得の考えなんて浮かばないかもね。

 生贄を要求する理由によっては生贄制度を止められる。罪のない人間が死ぬのは間違っているし、止められる可能性があるなら賭けるべきだ。


 よし、1度最寄りの火山に行ってみよう。

 1度はマグドラゴンと対話するべきだよね。


「――皆聞けええい! 重要な話がある!」


 白のタンクトップと短パン姿の男性が叫んでいる。

 あれは……さっきリエットさんの家に来た声の大きい人。

 確か名前はグロウさん。相変わらず声が大きい。


「あ、さっきのオッサン」


「面識あんのか? ありゃ町長だぞ」


 町長!? 町で1番偉い人じゃん!

 あんな少年みたいな服装した人がか。

 人は見かけによらないな。


「喜べ、今年の火神楽祭りの巫女役はリエットに決定した! 君達に被害はいかないから安心していたまえ! リエットが我々のために尊い犠牲となってくれる!」


 グロウさんの話を聞いたナットウ君の顔色が悪くなる。

 言葉を失った様子で、唇が小刻みに震えている。

 被害……犠牲……まさか、嘘でしょ。

 私の予想が合っているなら巫女役っていうのは……。


「ねえナットウ君、巫女役ってまさか生贄のこと?」


「……あ、ああ、そうだ。どういうことだ。母さんが町へ住むことを許可してくれたのは町長だぞ。なんで、なんでだよ町長! どういうことだよ!」


 ナットウ君がグロウさんに詰め寄っていく。

 やっぱり、巫女役って生贄のことだったんだ。


 さっきリエットさんの家にグロウさんが来たのは、巫女役になってほしいって頼むためなのかな。でも、頼まれても引き受けたいものじゃないよね。何か事情があるのかな。


「ん、君はナットウか! 君に酷な話だろうが受け入れてくれ! 元々そういう約束だ、リエットには犠牲になってもらわなければならない!」


「嘘だ! 母さんが承諾するわけねえ、勝手に言っているだけだろ!」


「したのさ! 今日の話じゃない、1か月も前にな! リエットに確認してみるといい! そして親子最後の時間を過ごすといいぞ!」


 恐ろしいことを平然と言ってのけるグロウさん。

 何だろう、悪意はなさそうなのが1番怖い。


「ナットウ、リエットさんに確認しよ! 真偽とか理由とか!」


 タキガワさんの言う通り、リエットさんに訊いた方がいいか。

 今のナットウ君は冷静さがないから危ないしね。

 このままじゃグロウさんに危害を加えかねない。


 気持ちは分かるけど、こういう時こそ冷静にならないとね。

 いや、私達が冷静でいられればいいんだ。

 今近くにいる私達が支えてあげないと。


「……そうだな。こいつじゃ話にならない、母さんに直接訊こう」


 グロウさんを睨むナットウ君は身を翻し、走り出す。

 待っていてねリエットさん。色々訊きに行くから。



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