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53 大人の女の証的な?


 旅館で迎えた早朝。それは、唐突に……。


「うぎゃあああああああああああああ!?」


 まだまだ残っていた眠気が吹き飛ぶ。

 な、何今の声!? カオスの声!?


 柔らかい布団から起き上がり、隣にいるカオスを見る。

 青い顔をした彼女は自身の下半身を見て震えていた。

 まるで恐ろしいものでも見たような反応だ。

 私に気付いた彼女は涙目になり、震えた声を出す。


「バニア、ごめん。オレ、死んだ」


「どうしたの!? カオスが死んじゃうのは嫌だよ!」


「……うるさいなー。何なの……こんな朝っぱらから」


 今起きたらしいタキガワさんが眠そうに目を擦る。


「股から血が出てんだよおお! 痛いし止まらねえええ!」


 泣き叫ぶカオスがじたばたと暴れる。

 そんな、股、アソコが出血なんて異常だ。病気かもしれない。


 深刻な状態だ。私に医療知識さえあれば原因が分かったかもしれないのに、こんな大事な時までどうして私は無力なんだろう。

 私にもっと、力や知識があれば……!


「はあ、股から血いいい?」


 こんな時にタキガワさんはバカを見るような目をしている。

 どうしてそんな目……冷たい。

 大切な仲間の危機なのに酷い。


「ああああああああ痛ええええええ!」


「うるっさいわ! ただの生理でしょうが!」


「「……生理?」」


 動きが止まったカオスと私の声が重なる。


「そう、月経とも言う。知っているでしょ? 毎月痛むんだから、痛む都度そんな泣き叫んでいたら身が持たないわよ」


 生理……月経……あ、聞いたことあるかも。

 ママも同じ場所から出血していた気がする。かなり前のことだから忘れていた。確か大人になった証なんて言っていた気がする。生理の時が来ると赤ちゃんを授かれるようになるんだっけ。あれ……私、まだ生理の時が来てない。


 カオスに先を越された!? 私の方が胸もあるし頭もいいのに!

 あ、でもあんな泣き喚く程に痛いなら生理来なくていいや。


「毎月!? 冗談だろ!? 何だよ生理だの月経だのって、病気か!?」


 カオスは知らなかったんだ。

 まあ知らないと怖いよね、私もさっき怖かった。


「は? アンタ、マジで知らないわけ?」


「ンだよ知らねえよっであああああ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


「リアルでは男子中学生だったからって、生理を知らないとかどんだけ勉強不足なのよ。学校の授業で習わなかったわけ? 絶対習ったよね?」


「ぐあああああああああああああああああああ!」


「うるさい! いい加減泣き喚くの止めなさい!」


 タキガワさんがカオスの頭を叩いた。


「言っておくけどそれは病気じゃない。女なら誰でも経験することだし、今の体が女のアンタも経験して当然。月経、俗に言う生理っていうのはね、赤ちゃん産める体になった時から毎月血が出るの。人によって痛みは変わるけどアンタはよっぽど重いみたいね。よかったわねおめでとさん。今日からアンタも立派な女です」


「よくねえよ、痛えよ……お腹抉れそうだよ」


 そんなに痛いのか。

 う、想像しただけで私もお腹の下が痛くなってきた。

 神様、痛みに個人差があるなら、私の生理の始まりは痛くないようにしてください。どうかお願いします神様。あんまり存在信じていないけどその時だけは実在してください。


「だいたいさ、生理知らない人なんて初めて会ったわよ。中学生ならとっくに理解しているはずでしょ。ねえ、もしかして赤ちゃんがどう作られるかも知らないの?」


「バカにすんな! キスしたら妊娠するんだろ!」


「そうね、アンタはバカじゃないわ。スーパーバカよ」


 キスしたら妊娠って……子供の発想じゃん。

 まったく、ダメだなカオスは。赤ちゃんはドラゴンが運んで来てくれるんだよ。常識だよ。数日前、ミレイユとバンライにそれを話したら温かい目で見られたけど何でだろう。ママから教わったことに間違いはないのに。


「いい? 赤ちゃんはね――」


 タキガワさんが妊娠や出産について詳しく語る。

 ほえ? ドラゴンが運んで来てくれるんじゃないの?  

 え、ええええええええええええ!?

 男の人に生えているアレを、アソコに!?

 そんなことをしないといけないの!?


 そ、想像しただけで……こわっ。怖いよそんなの。

 ママはパパとそういうことをしたんだよね。パパのことは顔も名前も知らないし、優しいとは聞かされたけどちょっと怖くなったな。……うーむ、でも私子供欲しいしな。男の子と女の子1人ずつは欲しいし、いつかそういうことをしなきゃいけない時が来るのかもしれない。


「な、何言ってんだお前。発想が怖えよ」


「事実よ。女はそうやって妊娠すんの」


 カオスの顔が青褪めて、体は小刻みに震えている。

 怖いよねー、分かるよその気持ち。私も怖い。


「とりあえず生理用品買いに行くよ。専用の道具がなきゃ血流しっぱなしだからね。バニアちゃんも行く?」


「私は生理用品じゃなくて他の物を買いに行こうかな」


 今は少しお金に余裕があるし、お洒落な服とか装飾品とかを買いたい。

 ただ旅館に何日泊まるか決めていないから、3日分くらいは残しておかないと。

 

「よ、よーし、早速行こうぜ……」


 浴衣から私服に着替えたカオスが辛そうに歩き出す。

 ゆっくり、ゆっくりと足を進めていく。

 1分経っても2分経っても未だ扉に辿り着かない。


 このままだと店に行くまでに日が暮れちゃう。私と同じことを思ったタキガワさんが「仕方ないわね」と呟き、カオスを肩に担いで歩く。


 旅館から町に出た私達はまず……迷った。

 正確にはどこへ行けばいいのか分からず立ち止まっている。


「……生理用品、どこで売ってるんだろ」


「うおおおい何で知らねえんだよおおお」


「しょうがないでしょ。ゲームじゃ生理用品なんて売っていないんだから」


 結局しらみ潰しに店を回って生理用品を探すことになった。ダメ元で武器屋と防具屋に行ったけど当然ない。1番希望がある道具屋にもなかった。色々な店を回った結果、薬屋でやっと生理用品を見つけられた。薬屋でついでに買った鎮痛剤を飲ませると、カオスの顔色はみるみる良くなって元気が戻る。


 今度は私の買い物だ。可愛い服可愛い服。

 ザンカコウはとても暑いから薄い生地の衣服が多い。

 露出が多い衣服もあるけど私には合わないな。

 恥ずかしいし露出は少なめの衣服を買いたい。


 カオスとタキガワさんも薄手の服に興味深々。

 3人でコーディネートし合ったり、買わないけど露出多めの服を試着したりした。カオスは色々可愛い服を試着してはポーズを決めて、試着で毎度「オレは何を着ても似合うぜ」とか言い全部買っちゃった。

 良いよねー、お金に余裕がある人はさー。


 気に入った服は買ったしそろそろ旅館に戻ろう。

 何だか今日は昨日より人が多いし活気がある。

 観光するには歩きづらいし、今日は旅館内でブラドの情報収集をしよう。


「……ブラド?」


 カオスが遠くを見て呟く。


「え、ブラドいたの!? どこどこ!?」


「何ボサッとしてんの! 早く行くよ!」


 ハッとしたカオスが走り出す。

 私達3人は人混みの中を走り、ぶつかりそうになった人には「ごめんなさい!」と通り過ぎた際に謝った。走りづらい人混みを抜けてから周囲を見渡し、3人でブラドの姿を捜す。


 偶然か運命か絶好の好機だ。

 まさかザンカコウに来て2日目で見つかるなんて思わなかった。そもそもザンカコウにいるかは可能性の話だし、発見出来たのはすっごく運が良い。


「いた!」


 人間の血と同じ赤い体。間違いなくブラッドドラゴンだ。

 またブラドの姿を見つけた3人で走る。

 どこへ行っちゃうのかな。パートナーなのに、カオスの方を見向きもしない。家出中というか喧嘩中というかそんなの気にした様子がない。


 カオスが「ブラド!」と叫び、ブラッドドラゴンの尻尾を掴む。

 びっくりして振り向いたブラッドドラゴンと――隣にいる男の子。


「おい何だ、誰だよお前等」

「何だ、テメエこそ誰だオラアア!」


 ……ふむ、これは、アレだね。

 人違いならぬドラゴン違いってやつか。











 ~お知らせ~

 申し訳ないんですが12月は投稿出来ないかもしれません。

 やりたいことが終わったらまた書きます。

 早く終われば投稿出来るかも。


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