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51 温かく小さな楽園


 さて、早いところ湯に入ろう。いつまでもタオル1枚じゃ風邪引いちゃうし、せっかく来たんだからドラゴンとの混浴をしっかり堪能しないと勿体ない。


 持ちドラと一緒に湯船へと入る。

 あああああぁ……温かい。気持ちいいいいい。

 なんでお湯に浸かるだけで気持ちよくなれるんだろう。


「ああ気持ちいいいい」


 意外にも私達3人の声が重なり合った。

 やっぱりみんな温泉に入って思うことは一緒か。

 気持ちいいからか、入浴してからどんどん時間が過ぎていく。

 頭がボーッとするからあんまり考え事が出来ない。


「バニアちゃん、のぼせてない?」


「おいおい顔赤いぞ」


「……うぇええ? ぜんっぜん大丈夫だよ」


 のぼせてないのぼせてない。大丈夫大丈夫。

 辛くないし、寧ろすっごく気持ちいいんだもん。

 頭真っ白になるくらい、体が溶けると思えるくらい気持ちいい。


 あー、段々力が抜けて体が沈んでいく。

 おかしいなあ、足が付く浅さなのにどんどん沈んでいっちゃうよお。

 顔も湯に入って口と鼻から湯が入って来る。

 本当なら辛いはずなのに全く辛くないなあ。


「「絶対のぼせてるううううううう!」」


 隣にいるクリスタが顔を湯に突っ込み、私の頭を噛んで持ち上げてくれた。

 カオスとタキガワさんが「ナイスクリスタ!」と大声を出す。私もお礼を言おうと思って同じことを言ったんだけど、どうも発音が上手くいかなくて酔っ払いみたいな喋り方だ。参ったなあ、これじゃあ私がまるでのぼせているみたい……だ? あ、私、のぼせてる?


 湯船から出されたからか少し思考力が戻った。

 うん、のぼせたね私。間違いなくのぼせちゃったね。


「……で、どうしてこうなるの?」


 なんやかんやあって現在、壁際で私はタキガワさんに膝枕されていた。

 他にものぼせた人がいたみたいで仲居さんは私に気付いていない。知らせれば私は部屋に送られただろうに、どうして知らせないんだろう。見つかったらちょっとした騒ぎになるはずだけど、クリスタとクィルの体が壁になって他の人からも見えないらしい。


「部屋に戻りたくないんじゃないかと思ってね。のぼせた時の対処法くらい知っているし、症状は軽そうだからすぐ治るよ。……気持ちいいでしょ膝枕。私もバニアちゃんに膝枕していると気持ちいい……う、鼻血出ちゃった」


「私よりタキガワさんの方が膝枕された方がいいんじゃないかな」


 本物の枕と遜色ない心地良さだ。まさに魔法の膝。

 羨ましいのかカオスが指の爪を噛んでジッと見つめてくる。


「いいなー、オレも膝枕してえなあー。ずりいなあ」


 違った。膝枕する側が羨ましいみたいだ。


「ジャンケン勝負の結果でしょ。アンタは敗北者らしくそこで見ていなさい」


「敗北者……? 取り消せよ今の言葉」


「事実でしょうが」


 タキガワさんが氷属性初級魔法〈フリーズ〉を使用することで、頭が冷気によって冷やされていく。ザンカコウの町に着いてから使った時よりも加減されているから、丁度いい感じで頭が冷える。気分が楽になるから本当にありがたい。


 この調子ならすぐに復活しそうだ。

 体調が回復したらまた温泉に入ろうかな。

 よくないとは分かっているんだけど、まだまだ入り足りないんだもん。


 せっかくクリスタと一緒に入浴出来る場所だし私はまだここにいたい。クリスタだって気持ちよさそうな表情だったから、この場所を気に入ったはず。私も気に入ったから出来るだけ長く留まりたい。


「どうせバニアちゃん、まだ温泉に入ろうとか思っているでしょ」


 げっ、何でバレたんだろう。


「仲居さんに報告して部屋に戻したいところだけど止めてあげる。私はバニアちゃんの味方だからね。バニアちゃんが嫌がることはしないと決めているの。そう、私は人生を全てバニアちゃんのために捧ぐ」


「そ、そこまでしなくていいよ。タキガワさんの人生は全部タキガワさんのために使わないと」


 時々この人は大袈裟なことを言うんだよね。

 まるで恋する乙女みたいな顔をして……い、いやいや私の勘違いだよね。


「なあバニアを部屋に戻した方がいいんじゃねえか? 回復してきたみたいだしもう歩けるだろ。温泉には明日も入れるし、明日以降もいつだって来られるじゃねえか。部屋戻ろうぜ」


「今のアンタには分からないかもね。クィルもクリスタも、ドラゴン達はパートナーと一緒に入浴出来て喜んでいる。私達人間も同じ。出来るならこの場所にずっと留まっていたいってバニアちゃんも思ったんじゃない?」


「うん」


「ここはね、楽園なのよ。入浴っていう一番リラックス出来る行為を持ちドラと行える楽園。この場所にいるみんなが私達と同じことを思っているはずよ。ずっとここにいたい……そう、のぼせるまでね」


「のぼせるまで……ってまさかミレイユとバンライも」


「おそらく同じ理由……と思いたいけどあの2人は違うかも。入浴時間短いし」


 そっか、そうだったんだ。

 みんな私と同じで少しでも長く『なかよし温泉』に留まろうとしたんだ。

 結果も私と同じ、のぼせるという結果。


 この『なかよし温泉』にだけ仲居さんがいる理由、分かったかもしれない。

 ここを離れようとせずに倒れる人間を運ぶためなんじゃないかな。

 楽園、か。タキガワさんの言葉に納得しちゃうな。


 ……でも、納得するからこそ今日は部屋に戻ろう。

 確かに残りたい気持ちは強いけど、それ以上に誰かに心配を掛けたくない。

 心配そうな顔で見つめてくるクリスタを早く安心させてあげたい。

 立ち上がった私はクリスタの頭を撫でてからチームの2人に顔を向ける。


「部屋に戻ろう」


「いいの?」


「いいの」


 倒れるまで長く残らなくたって、カオスが言った通りザンカコウにいる限りはいつだって来られる。明日も明後日もまた来ればいい。短時間でも来られれば、きっと幸福な時間を過ごせるから。



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