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49 嫉妬したってしょうがない


 温泉に繋がる扉を開けると湯気が脱衣所に漏れ出す。

 中を見た瞬間、普段の銭湯とは雰囲気が違うように感じた。


 石の床とかお湯がある所とか、これぞ温泉って感じがする。

 初めて来たせいかフィルターが掛かっているのかもしれない。

 これぞ温泉マジック。


「おお、いい場所じゃないここ。雰囲気良さ気」


「日本の温泉と大差ねえな。さっさと体洗って湯に浸かろうぜ」


 カオスが洗い場に直行したから、私も「さんせーい」と言って洗い場へ向かう。タキガワさん含めて3人で横に並び、シャワーで体を洗った。


 温泉も銭湯と一緒でまず体を洗わないといけない。

 いきなり湯船に浸かったら、体の汚れがお湯に入っちゃう。みんなが入る場所だから汚さないよう気をつけなくちゃね。特に仕事終わりは汗臭い時が多いから、汗くらい流しておかないと。


 体を洗い終わったからついに温泉に浸かれるぞー。

 あ、湯船にマヤさんとテリーヌさん発見。

 2人の近くに歩いて行き、湯に足からゆっくり入る。


「お、来たねバニアちゃん達。お話は終わったの?」


「はい。……あれ? ミレイユとバンライはどこですか?」


 チームで固まって入っていると思ったらあの2人がいない。

 まさかもう浴場から出て脱衣所……いやいやそれはない。

 さすがに湯から上がるには早すぎる。

 さっき『薔薇乙女』の面々が浴場に行ってからまだ5分くらいだしね。

 あの2人はかなり長くお風呂に入るし、まだ浴場のどこかにいるはずだ。


「あの2人なら別の温泉に行ったよ。ドラゴンと一緒に入れるところ。名前は確か『なかよし温泉』だったかな。ドラゴンと一緒に入り、持ちドラと仲を深められるってのが名前の由来だっけ」


「あー、先に行っちゃったか」


「今すぐ行かなくていいの?」


「もう少しこの温泉を堪能してから行きます」


 ザンカコウに来たら一緒に『なかよし温泉』へ行こうって約束していたけど、この浴場の温泉に入らないのは勿体ない。


 今浸かっているこの温泉、実は美容にいいとすぐ傍にある立て札に書いてあった。

 他にも病気になりにくくなったり、痛みが引いたりと実に素晴らしい効能。

 恩恵を得るためにも最低10分は浸かりたい。

 出来ることならのぼせるまで浸かっていたいけど『なかよし温泉』にも行きたい。


「そうそう、その方がいいよ。バニアちゃんに比べてあの2人ったら、ほんの2分程度で『なかよし温泉』に移動しちゃったんだよ。信じられないよまったく。ねえテリーヌ」


「そうだな。この湯は肩こりによく効く」


「……肩こり」


 テリーヌさん以外の視線が一箇所に集まる。

 彼女の胸だ。そう、巨乳と言える胸だ。


「……やっぱり、肩こり、酷いんですか」


「ああ酷いよ。肩が痛い時が多くてね」


 彼女が肩を回すと大きく膨らんだ胸が揺れる。

 少し動く度に、ほんの少しの動作でもおっぱいが揺れる。


 うっ、羨ましい。私も欲しい。

 いやいや私はまだ成長期。まだ13歳。

 今はAカップのド貧乳でも当たり前だ。

 大きさはバンライと大差ないし、カオスなんか壁だもん。

 

 大丈夫大丈夫。胸の成長は遺伝要素もあるって聞くし、ママはBカップだったから私もBは確実にいく。

 ……あれ、もしかしてそれ以上いかない?

 こ、子は親を超えるって言うしCは余裕でしょ。


「ん? どうしたの君、悲しそうな顔しちゃって」


 マヤさんが問いかけた相手は私じゃない。私も巨乳になれなさそうな現実を理解して悲しいけど違う。彼女が声を掛けた相手はカオスだ。


「ダメだ……どうしても下半身が目に入る。興奮出来ない。うわあああケモナーになりたい……! 広がれオレの性癖!」


「本当にどうしたの君」


「あ、大丈夫ですマヤさん。通常運転なので」


 ケモナーっていうのは動物の要素を持つ人間や、動物そのものを愛する人のことだ。変態のカオスでも素養がなかったなんてちょっと意外。下半身が馬のテリーヌさんに彼女は興奮出来ないらしい。


 彼女については何も問題ない。普段通り……問題あるか。

 問題は彼女が女体好きを隠そうとしないことだ。

 見られた相手の気持ちをまるで考えていない。さすがに擁護出来ない。

 内面が男の子と分かったのは関係なく、じっくり見られるのは私も嫌だもん。


「そういやまだこいつのこと『薔薇乙女』に伝えてないわ。マヤさん、テリーヌさん、実はこの幼女もどきは同性愛者なんです。バカなエロガキなんで気を付けてください。隙あらばエロい目向けてくるんで」


 なるほど同性愛者、レズビアンだと伝えるのか。

 あながち間違ってはいない。ぷれいやーとか、げえむとか、伝わらない言葉抜きで伝えるなら1番良いかもしれない。元の性別が男ですなんて言っても相手を混乱させるだけだしね。


 マヤさん達から見たら、カオスはどう見ても変態の女の子。

 精神が男だから女好きだなんて絶対分からない。

 それなら同性愛者だと紹介するのが最善だ。……だってそう見えちゃうもん。


「あーなるほどねえ、ミレイユ達が変態って言っていた理由が分かったよ」


「アタシの胸を凝視していた理由はそれか。……ん? バニア達も凝視していたが君達も同性愛者なのか? マヤ、君もなのか? 長い付き合いなのに隠し事されていたのはショックを受けるぞ」


「い、いや、その子だけだよ。私が見た理由はちょっとした嫉妬」


 正直なマヤさんの本音に私とタキガワさんが頷く。

 嫉妬したってしょうがないよ。ミレイユやバンライだって傍にいたら絶対嫉妬するはずだもん。あの2人だって大きさを気にしているはずだし。そうだそうに違いない。


 ううーん、この話題、虚しくなるだけだ。

 多少強引かもしれないけど話題を変えよう。


「それにしても、2人は驚きませんでしたね。カオスのこと」


「はっはっは大人になるとね、ちょっとやそっとじゃ驚かないもんだよ。色々経験したらどんな状況でも冷静になれるからね。動揺しない、これ大事」


「冒険の心得5、常時冷静であれ。マヤの口癖だな」


 はえー、やっぱりマヤさんとテリーヌさんは凄いな。

 体だけじゃなくて心も強い。素直に尊敬する。

 いつか私も2人みたいに頼もしい人間になってみせる。


 決意から10分程して私は立ち上がった。

 十分この温泉には浸かれたし美肌効果も期待出来る。


「そろそろ私、ミレイユ達の方に行ってきます」


「お、行くのか混浴! 早く行こうぜ!」


「うん! ドラゴンとの混浴楽しみだしね!」


「……え、ドラゴン?」


 立ち上がってから驚いた顔をするカオス。

 え、何か驚く要素あったかな。


「なあバニア、混浴って男女が一緒に湯に浸かることだよな?」


「一般的にはね。でも『なかよし温泉』は持ちドラと一緒に入れるっていう混浴温泉なんだよ。……知らなかったの? ザンカコウに来る前に話したのに、聞いてなかったんでしょ」


「……何だよチクショウ。男の夢は中々実現しねえな」


 男の夢って……カオス今は女の子だよね。

 男女の混浴だったとしても意味ないと思う。ていうか、私が男の人と一緒に入るのを楽しみにしていると本気で思っていたの? そういう混浴だったら最初から行こうとしないよ。男の人に裸見られるのは恥ずかしいし。


「アンタ、今の性別忘れてないわよね? アンタ女だからね? 仮に男女の混浴だったとしても得ないわよ。アンタにとっては既に現状が混浴みたいなもんでしょうが」


「……あ」


 カオスはタキガワさんに言われて今さら気付いたらしい。


「気付くのおそっ。アホか」



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