表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/123

47 役立たず


 私はマヤさんの強さを知らないから不安に思うけど信じてみよう。

 彼女を信じるというより、彼女をよく知るミレイユ達を信じる。


「さあいっくよおお!」


 駆けた彼女とボルケーノパンサーとの距離はどんどん縮む。

 近接戦は1対5で圧倒的に数的不利。それでも怯むことなく彼女はボルケーノパンサー1体を蹴り飛ばし、残る4体に囲まれた。さらに蹴った個体もまだ元気なようで包囲に参加する。


「人間達が二手に分かれた時、最初モンスターは人数の少ない方を狙う。数が少なければ狩りやすいからな。……ただし、今は悪手。アタシ達に背を向けるバカな個体は真っ先に仕留められる」


 テリーヌさんが鋭い矢を放ち、1体のボルケーノパンサーを尻から貫く。

 即死とはいかないけど瀕死状態だ。

 もうまともに戦えはしないはずだし、直に死ぬ。これで残りは4体。


 こちら側から攻撃されたことによって敵の警戒度が高まる。

 もうあっさり攻撃が当たることはないかもしれない。


 ボルケーノパンサー4体が一斉にマヤさんに襲い掛かる。

 危ない! やっぱり無茶だ!

 え、最低限の動きで攻撃を躱して反撃した!?


 後ろに目でも付いているのかと思うくらい凄い動きだ。4体に囲まれている以上、背後から攻撃されることは多々ある。普通なら、私なら背後からの攻撃に対応出来ずに死ぬ。


「すっげえ、何で死角からの攻撃も躱せるんだ」


 興奮しているカオスの問いにテリーヌさんが答える。


「獣人は危機察知能力が高いらしい。敵の殺意があろうとなかろうと攻撃されれば察知する。本人の戦闘センスも合わさることで、マヤの実力は実質Aランクに匹敵する」


 人型の種族、人間にはそれぞれ能力があるとされている。

 ドラゴニュートは物理攻撃やブレスが強くなる。

 ヒューマンはレベルアップが若干早くなる。

 獣人は五感や察知能力が高い。

 エルフは魔法の威力向上。

 吸血鬼は肉体の再生能力。

 他の種族も色々あるらしい。


「あー、そういや種族説明欄に書いてあったなあ」


「種族説明欄?」


「いやいや気にすんな。前に聞いた覚えがあるって話だよ」


 私も何それって思ったけどたぶんあれだ。げえむの専門用語。

 種族説明欄っていうのは種族を選択する時に見るものだと思う。


 まだげえむの全ては知らないけど、知っていきたいから定期的に話を聞いている。ぷれいやーは自分の性別や種族すら自由に選択出来るって、少し前にタキガワさんが説明してくれた。もし選択出来たとしても私はヒューマンのままでいたいな。


 ……それにしてもAランク相当の実力か。

 ボルケーノパンサー4体を同時に相手しても傷を負わない。高温の炎を吐かれても、腕を振るわれても、噛みつこうとしてきても全て躱しつつ反撃している。テリーヌさんやミレイユ達が援護しなくても1人で倒せるんじゃないかな。


「にしてもンだよー、こっちの攻撃あんまり当たってなくね?」


「当たるにこしたことはないが、躱されても問題ない」


 ミレイユ、バンライ、タキガワさんの雷魔法。そしてテリーヌさんの矢の援護はあるけど半分くらいしか当たらない。ただ、この援護はおそらくダメージ狙いじゃない。攻撃を躱したら誰だって隙が発生する。みんなの援護は隙を作り、マヤさんの打撃が当たりやすくしているんだ。


 1体、また1体と攻撃に倒れてボルケーノパンサーは残り2体。

 さすがにモンスターといっても恐れはある。ボルケーノパンサーはマヤさんから私達の方へと逃げて来た。

 いや違う、逃げたんじゃない。ターゲットを変えたんだ。


 次に狙われるのは当然、私達!

 ど、ど、どうしよう。

 攻撃、とにかく攻撃だ。

 大丈夫。みんなも傍にいる。

 私の弓矢が外れても誰かが……って違う違う。

 弱気になっちゃダメ。私が仕留める。


「ごめんそっち行った! 1体は任せる!」


 マヤさんが1体のボルケーノパンサーに追いついて踵落としを喰らわせた。

 背骨が折れ曲がる強烈な一撃だ。絶命はしていないけど戦闘不能だろう。

 これで残りは私達に迫る1体のみ。


「……空気の流れが変わった。ブレスが来るぞ!」


 駆けて来るボルケーノパンサーに集中していたテリーヌさんが叫ぶ。

 忠告通りの展開になって高温の炎が迫ってくる。あ、これ私死ぬな。

 死にたくない。そう思っているとドラゴン達がブレスで相殺してくれた。


 炎は完全に霧散して、残ったクリスタの水晶ブレスが直進する。でもダメだ、使用2度目となると警戒されているせいで躱された。水晶ブレスは全て地面に突き刺さる。可能なら今ので倒してほしかったけど仕方ない。


 ボルケーノパンサーが駆けて来る。

 ミレイユとバンライが雷魔法を使用したけど躱された。

 テリーヌさんの矢も躱された。


 私だ、私がやるしかない。

 軽弓の射程範囲には入った。

 背中の矢筒から矢を取り出して軽弓を構える。

 射つ、射つぞ。

 やれる、やれるぞ。


 ボルケーノパンサーが私に飛びかかって来た。

 本能で一番弱いのが私だと嗅ぎ分けたのか。

 ピンチ……だけど最大のチャンス!


「バニアちゃんに触らせるもんかああああ!」


 いざ弓を射ようとした時、タキガワさんがボルケーノパンサーを長剣で斬りつけた。

 長剣の周囲には氷の粒が回転していることから普通の斬撃じゃない。


「スキル〈凍てつく氷剣〉。炎吐く奴なら氷属性弱点でしょ」


 背中からお腹にかけて両断されたボルケーノパンサーは吹き飛ぶ。

 斬った衝撃と風圧のおかげで、私に向かうはずだった牙は真横へずれる。

 傷口の断面は凍っているため出血はない。真っ二つになった胴体が私の傍に落ちたけど、出血していないんだから血は私にかからない。そういう点ではありがたい。


 ……助けてもらったんだからお礼は言わなきゃね。


「ありがとうタキガワさん」


「いいよお礼なんて、私達は仲間でしょ。バニアちゃんの肌に傷を付けるわけにはいかないわ。例え回復魔法で治るとしても見たくないもの、バニアちゃんが傷付いた姿なんて私見たくないもの。何を犠牲にしても守ってあげるからね。そこの現在役立たずなお子様と違って」


 何も出来なかった。

 何かしたかった。


 ついさっき、私が矢を射っていたらこの無力感はなかったのかな。

 いいや、自分で言えるくらい私は弓の扱いが下手だし、例え矢を射ったとしても当たらなかったかもしれない。無様に食い千切られるよりは助けられた方が断然いい。


 タキガワさんの判断は正しいと納得出来る。

 納得出来ないのは……自分の不甲斐なさ。


「オレ達はどうせ役立たずだよ」


 私の肩に手を乗せたカオスがそんなことを言う。

 ……涙出てきた。


「え、泣く!? 悪かったよ冗談だよ冗談!」


 事実だし。今回の戦いで私何にもしていないしい。

 役立ったといえば持ちドラのクリスタだけだしいい。

 カオスが言ったことは何一つ間違っていないしいいい。


「ほ、ほらバニア、素材集めでもしようぜ。今こそ役立つ時だ」


「解体出来ないしいいいい」


「ネガティブバニアだな!? しょうがねえオレが……やろうと思ったけどオレも解体出来ねえわ」


「2人共、教えてさしあげますから手伝ってくださいな」


 私とカオスはミレイユに教えられてモンスターの解体が出来るようになった。

 討伐の証として必要なのはボルケーノパンサーが炎を吐くのに必要な器官、火炎袋。みんなで解体して火炎袋を入手したら、次の獲物を捜すために移動開始。結局、サポート係に任命された私が碌なサポートも出来ないまま、新たに2体のボルケーノパンサーを討伐して依頼は完了されてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ