46 初めてのチーム共闘
怖いけど戦う準備はしないと。
前線に出たら殺されそうだから短剣は鞘から抜かない。
軽弓を手に持ち、矢筒から矢を取り出す。
マヤさんからはサポート役だって言われているしね。私に出来るサポートはこれくらいしかない。
タキガワさんは長剣を、カオスは拳を構える。
2人もサポート役だけど武器は持った方がいいよね。まあカオスは元から素手だから必要ないけど、他の人は自衛のために武器を構えなきゃいけない。ボルケーノパンサーが来たら、自分の身は自分でなるべく守らないと。
「さあみんな、遠距離攻撃しよっか。ある程度近付いて来たら私が前に出て接近戦するから。ま、いつもの流れだね」
いつもの流れ、か。
敵を追い込み、仲間を呼ばせ、増援に来た新手達を迎え撃つ。
これが『薔薇乙女』の定石とも言える討伐作戦。勉強になるな。
予め来ると分かっていれば対処しやすい。
遠くからやって来るモンスター相手に遠距離から、安全圏から攻撃すれば無傷で倒せる。モンスターの種類によるだろうけど、大半のモンスターに有効な作戦だと思う。
「魔法はギリギリ届くか。カオス、アンタは大人しくしてなさいよ。あそこまで届く攻撃がないんだし」
「……分かってる。オレの間合いに入るまでは何も出来ねえ」
私もカオスと似たようなものだ。
遠距離攻撃のスキルは持っていないし、軽弓を射とうにも射程外。
軽弓は筋力が弱くても扱える代わりに、大きな弓と比べて矢の飛距離が短い。
新たに来たボルケーノパンサー達は未だ500メートル以上離れている。
こっちに素早く近付いているといっても、私の見立てでは15秒以上掛かる。
数秒経てば軽弓の射程内に入るか。
弓矢が届かない今、私にやれることは何もない。
そう、私は今攻撃する手段がない。だけど私の持ちドラのクリスタならブレスが届くはずだ。そう考えると持ちドラが傍に居ないカオスとは違うかも。
「クリスタ、ブレスをお願い」
ツルツルな鱗に触れながら言うと、クリスタは一度頷く。
「それで正解だよバニアちゃん。普段私達もブレスを指示しているからね。例外はあるけどドラゴンのブレスは魔法より射程が長いもの」
「当然、我々自身も攻撃に参加するぞ」
テリーヌさんは弓を構えている。
軽弓とは違う大きな弓だ。かなりの筋力を使うはずであり、その分射程距離が長い。超遠距離まで届かせるという確信がなぜかある。まあさっき200メートル離れた敵に当てていたし当然か。
「さあ今! ブレス第一波!」
ドラゴン達はマヤさんの掛け声で一斉にブレスを放つ。
私のクリスタルドラゴンからは尖った水晶。
タキガワさんのクイックドラゴンからは青い炎。
ミレイユとバンライのウィンドドラゴンからは切り裂く風。
テリーヌさんのコールドドラゴンからは凍える冷気。
マヤさんのホットドラゴンからは赤い炎。
計6体のドラゴンのブレスは一直線に進む。
5種類のブレスが当たるかと思いきや、ボルケーノパンサーが吐いた炎で相殺。……いや、クリスタの吐いた水晶だけは炎をものともしない。ボルケーノパンサー3体を水晶が貫通する。凄すぎるよクリスタ。
「うっそ、バニアちゃんの持ちドラ強すぎ……って今はそんなこと言ってる場合じゃないか。バニアちゃん、クリスタにありったけブレスを吐くようにお願い出来る?」
「大丈夫です。クリスタお願い、辛くならない程度にブレスを続けて」
クリスタは元気よく鳴いて水晶のブレスを吐く。
青く澄んだ水晶がボルケーノパンサーを貫通するために、大量に飛ぶ。
さすがに距離があるせいで大抵避けられている。でも少ないけど何体かは避けきれずに傷を負っているし、直撃して死亡するのもいる。
クリスタのブレスは攻撃手段としてかなり有効か。
「クリスタ以外は左右にブレスを放って逃げ道を遮断! テリーヌは弓で、ミレイユとバンライは魔法で攻撃! バニアちゃん達も魔法使えたら攻撃!」
マヤさんの指示をみんな遂行する。
クリスタ以外のドラゴン5体が、ボルケーノパンサーの右と左へブレスを放つ。ブレスが向かう先に敵は1体もいないけど、左右のブレスで敵の横への移動を制限した。こうすることでクリスタのブレスが当たりやすくなる。
よし、また1体仕留めた。
残り14体。距離200メートル弱。
今の距離なら魔法が届く。
魔法を使えるミレイユ、バンライ、タキガワさんの3人が攻撃魔法を発動させた。
「〈サンダーウェイブ〉!」
おお、手から電撃!
当たればビリビリする電気が迸る。
偶然か示し合わせたのか、同じ雷魔法が3つ合わさって威力は3倍。逃げ道を制限した中ではボルケーノパンサーも躱しきれず直撃。当たったら感電死したのか動かなくなった。
3人の雷魔法とテリーヌさんの弓で敵は減っていく。
私も何かしたい。……何も出来ない。
軽弓の射程範囲内には未だ入らないな。
私はライダーとガーディアンのジョブを持っているけど、遠距離攻撃のスキルや魔法はまだ覚えられていない。タキガワさん曰く、少ないけどガーディアンのジョブは遠距離攻撃を覚えるらしい。今みたいな状況の時に私も役に立ちたいよ。
絶え間なく吐かれるクリスタのブレスと、連続で放たれる雷魔法と矢により残りは5体。ボルケーノパンサーは炎を吐いて抗うけどみんなの攻撃が押している。クリスタ達が頑張ってくれているお陰だ。
「よしよーし、結構減ったね。5体なら楽勝楽勝。ドラゴン達はブレス止めていいよー。後は私が片付けるから、テリーヌ達は出来る時に援護よろしく。バニアちゃん達『のんぷれいやー』は自由行動でいいから」
マヤさんがそう言って前方に駆け出す。
うぇ、まだ5体も残っているのに1人で行くの!?
みんなの持ちドラ達は言われた通りに攻撃を止めてしまった。
「ねえミレイユ、マヤさんは平気なの?」
「問題ありませんわ。獣人は危機感知が得意と聞きます。あの人が大丈夫だと判断したのなら必ず大丈夫、私達チームメイトはそう信じています。もちろん援護はしますけれど、あの人なら1人でも討伐出来ると思います。私達の役目はあの人に楽をさせてあげることですわ」
信用。信頼。いいな、こういうの。
私はマヤさんの強さを知らないから不安に思うけど信じてみよう。
彼女を信じるというより、彼女をよく知るミレイユ達を信じる。




