45 プロの弓使い
ボルケーノパンサーについてはマヤさんから聞いた。そのマヤさんは受付嬢さんから聞いたらしい。受付嬢さんは解体や鑑定のために全モンスターの情報を持っている。討伐依頼を受けたなら、出発前に対象モンスターのことを聞いておくのが基本だ。
ボルケーノパンサーは黒の斑点がある赤い肌の豹型モンスター。
豹のような見た目だけあって足が速い。スピードを示すステータス、行動力は平均150を上回る。さすがというべきか行動力138の私より速い。
行動力の他にもう1つ脅威なのが炎。
全身の毛穴から滲む汗は可燃性で、ボルケーノパンサーの意思で燃やせる。さらに火炎袋という器官があるおかげで炎を吐ける。ブレスの勢いも熱量もドラゴンに負けないらしい。
Bランクの討伐依頼なだけあって強敵だ。
これが1体じゃなくて25体の討伐依頼なのも恐ろしいよ。
でも、難しい仕事を経験するのも人生のためになるはず。
「ふふっ、バニアちゃん気合い十分だね」
「ええ、私達も負けていられませんわね」
「バンライとミレイユ、あとバニアちゃんも、気合いを入れるのはいいけど私より前に出ないでねー。冒険の心得4、チームで動く時は己の役目を全うすること! あなた達の役目は私とテリーヌのサポートだよ!」
サポートだとしても気合いを入れて悪いことはない。
まあ今日は『薔薇乙女』の実力をじっくり見せてもらおう。
各々持ちドラに乗って荒野を進んでいると、バンライが「見つけました!」と叫ぶ。視界では赤い豹のようなモンスターが3体動いている。件のボルケーノパンサーだ。
気配を悟られないように、離れたところで地面に降りるよう持ちドラに指示。
全員で岩陰に隠れてターゲットの様子を窺う。
うん、ボルケーノパンサー達はまだこっちに気付いていない。
「よしよーし、向こうは私達に気付いてないね。お手柄バンライ」
マヤさんに褒められてバンライは「えへへ」と嬉しそうに笑う。
「冒険の心得その5、戦いでは先手を取るべし。というわけでテリーヌ、普段のようにやっちゃって」
「了解だ」
普段のように……?
岩陰から出たテリーヌさんが背負っていた弓を構える。
まさにプロと言えるくらいに綺麗な構え方だ。
矢が放たれて一直線にボルケーノパンサーの額に突き刺さる。
……凄いや。
この距離から、200メートルは離れているこの場所から当てるなんて。それも額に命中させて絶命させるなんて。
これでボルケーノパンサーは残り2体。
一気に戦いやすく……え!? 次の矢を放ってまた額に当てた! そして既に3本目を放っている!
襲撃を認識した生き残りのボルケーノパンサーは避けようとした。でも完全には避けきれずに左前足に刺さり、矢が地面まで貫通したため動けない。
並外れた技量、弓矢の威力。
これが本物の弓使い……!
「どうする。このまま仕留めるか?」
テリーヌさんが弓矢を構えたままマヤさんに問う。
「うーん、少し待とうか。捜す手間を省こう」
「了解。標的が吼えたら仕留める」
え、どういう意味だろう。
早く射たなくていいのかな。
「マヤさん、今の内に矢と死体を回収しておきますわ」
「うんお願い。バンライも手伝ってあげてね」
ミレイユとバンライは「はい」と元気よく返事して走る。
動けない敵へと近付いた2人は、ボルケーノパンサーの死体を持って帰って来た。
討伐依頼の達成には特定部位を証拠として提出しなきゃいけない。死体を持って来ておけば、刺さった矢もついでに回収出来る。
死体を回収した理由は分かる。
……でも、3体目を殺さない理由が分からない。
まだ動けないんだし今は絶好のチャンスなのに、どうして構えたままなの? 分からないの私だけ? あ、良かった、タキガワさんとカオスも不思議そうな顔をしている。
考えても分からない。訊いてみよう。
「あの、どうして射たないんですか?」
「ボルケーノパンサーが吼えるのを待っているんだよ」
カオスが「そうか」と呟く。
「仲間をわざと呼び寄せようって魂胆か」
話を聞いていたタキガワさんが「なるほど」と呟く。
えー、私だけ分からないままなんですけど。
「そういうこと。バニアちゃん、モンスターの中にはね、自分の声で窮地を知らせて援軍を呼ぶ奴等がいるの。ボルケーノパンサーが吼えたら、同族のために新しいボルケーノパンサーがやって来るんだよ。……狩られるとも知らずに」
「なるほど!」
マヤさんの知識に感嘆の声を漏らす。
ギルドで討伐依頼を受けるなら知っておいた方がいい知識だ。早く知れて良かった。何も知らずにいたら、いつか押し寄せるモンスターの餌になっていたかも。
「クウウウウウウウウン!」
ボルケーノパンサーが吼えた。
耳痛い! 離れているのにこんな五月蠅いの!?
耳を手で塞いでもあんまり変わらない。
大気が震えるせいで体も震える。
近くで聞いたら鼓膜破れそう。
テリーヌさんが矢が放つ。
上を向いていたボルケーノパンサーに当然命中。矢は顎から頭を貫通した。ボルケーノパンサーは僅かな時間で息絶える。
「さーて、おでましだ」
マヤさんの言う通り……来た。
群れで移動しているから足音は重なり、地面が揺れる。
ボルケーノパンサーの群れが来る。
数は1、2、3、数え切れない。たぶん20体くらい。




