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41 変態でもいいところはあるよ


 見放されたって……そんなことあるの?

 持ちドラは人間とドラゴンの心が合わさって初めて契約出来る。


 私とクリスタみたいに出会って日が浅いのに契約出来るパターンもあるけど、世間一般的には数日じゃ契約出来ないとされている。契約出来た時点で絆があるはずで、ちょっとやそっとじゃドラゴンに契約破棄されるはずがない。


「アンタはブラドに何かしてあげたわけ? 前から疑問に思っていたんだけど、持ちドラと全く仲を深めようとしていなかったわよね。しかも乗る時以外は一緒にいないしさ、そんなのもはや野生のドラゴンでしょ」


 あー確かに。カオスがブラドと一緒にいるところなんて、遠くへの移動時や戦闘時以外見たことないかもしれない。タキガワさんの言う通り、必要な時だけ力を貸すだけの存在なんて持ちドラらしくない。野生と言われてしっくりくる。


「な、何だよ、お前らだって何もしてねえだろ!?」


「私はアンタとは違うわよ。ギルドの依頼受けない日はクィルとピクニック行ったり、ショッピングしたりしているもの。バニアちゃんだってそれくらいしてるでしょ?」


「うん。休むって決めている日はずっとクリスタと過ごすよ」


 ピクニックや買い物はもちろん、体を洗ってあげたりもしている。クリスタの背中に生えた水晶を眺めているだけの時もある。いやーすっかり仲良しだ私達。


「う……でもゲームでは……!」

「ゲームでは、何?」


 タキガワさんがカオスを指さす。


「ここはゲームじゃなくて現実。アンタもそれは分かっていたんじゃなかったの? 現実で距離を置きすぎた友達は離れていく人が多い。今のアンタはブラドのパートナー失格よ」


 そういえば孤島に行った時、メタルドラゴンに会ったカオスが言っていた台詞。ブラドよりメタルドラゴンの方がカッコいいってやつ。あれ、よくよく思い出すとブラドがショックを受けていた気がするなあ。


 カオスの接し方は前から同じだし、不満はあっても一緒にいられる程度だったはず。やっぱりあの時のカオスの発言が原因だと思う。


「早く仲直りしないとね」


「そうね、こんな奴の持ちドラになる変わり者はブラドくらいでしょうし。持ちドラがいないと遠出も厳しいわ。また自由に乗らせてもらえるよう仲直りしなさい」


 ドラゴンの速度がないと移動に途轍もない時間を費やす。

 持ちドラがいないのは不便だ。例えば前に行ったイエ村。ドラゴンに乗れば1時間もかからないけど、人間の足で向かったら3日以上かかる。


 カオスがブラドと仲直りするまでの間、私とタキガワさんで仕事をするしかないね。2人と2体になっちゃうからなるべく難易度低いやつにしよう。


「今日の依頼は一先ず私とタキガワさんの2人で行ってくるよ。頑張ってねカオス、帰ったら相談乗るから」


「へっ、必要ねえっての。ソッコーで仲直りしてやんよ」


 それから私はタキガワさんとオーガ討伐依頼に向かった。

 オーガは赤い肌の巨大を持つモンスター。以前は逃げることしか出来なくて、クリスタがいなきゃ私が殺されるところだった強敵。


 Cランクが受ける討伐依頼だから本来私は受けられないけど、カオスがBランクだったおかげで受けられる。その本人は来れないけどルール違反ではないはず。大丈夫大丈夫。


 エルバニア領土内の森でオーガ5体をあっさり撃破。

 私は1体倒すのに精一杯だったけどね。タキガワさんとクィル、クリスタの活躍で達成したようなものだ。みんな強いから私も強くならないとね。


 討伐依頼を終わらせた私達は王都に戻る。

 王都の入口で待っていたのはカオス1人。

 話を聞いてみたところ、解決策がまるで浮かばずに数時間を無駄にしたらしい。仕方ない、私達で仲直りするための解決策を考えよう。



 *



 カオスとブラドの仲直り作戦はすぐ思い付くものでもないし、体を休めながらじっくり考えることにした。

 仕事後の休憩といえば――お風呂だ。


 エルバニア唯一の大浴場で私達はお湯に浸かる。

 ふはあああああ、気持ちいいいい。

 やっぱり戦いの後はお風呂だよねお風呂。


「どうしようかなあ」


「何がです?」


 思わず出た独り言に誰かが反応する。

 タキガワさんかとも思っていたけど違う。よくよく隣を見てみれば、綺麗な金色の長髪を弄っている女の子がいた。私の友達、チーム『薔薇乙女』に所属しているミレイユだ。


「ミレイユ! いつからいたの!?」


「つい先程あなたを見かけたので隣に移動したのです。バンライもいますわよ。たぶんもうすぐ体を洗い終わる頃だと思うけれど」


 彼女の言う通り、体を洗い終わったらしいバンライが歩いて来た。体を覆う緑色の鱗から水滴が垂れている。


「ミレイユちゃんお待たせーってバニアちゃんもいる!」


「偶然だね。そっちも依頼終わり?」


「うん、みんなでBランクの討伐依頼を受けたの。私とミレイユちゃんはまだ実力不足だから、サポートが主な仕事だけどね」


「己の弱さを痛感しましたが良い経験でしたわ」


 Bランクの依頼かあ。チームに1人でもBランクの人がいれば受けられるから、カオスがいる私達『のんぷれいやー』も依頼を受けられる。


 タキガワさんは私と同じDランクだけど私より強い。たぶんBランクのギルドメンバー以上だから、その気になればすぐにランクを上げられるはずだ。


 ……私が1番足を引っ張っている。

 チームのリーダーなのに、私のせいで2人はランクの低い依頼を受けている。これは良くない。2人はもっと凄い依頼を達成出来るはずなのに。


「……で、あなたは何を悩んでいましたの?」


 おっと今はカオスとブラドのことだった。

 せっかく会ったんだしミレイユ達にも聞いてみようかな。解決案を出してくれるかもしれない。


「えっとね、私のチームメンバーのことでね……ああ話す前に紹介させてよ。私達のチーム『のんぷれいやー』のメンバー、タキガワさんとカオス。2人共、こっちは友達のミレイユとバンライ」


 2人とミレイユ達は面識がほとんどない。

 相談の前に紹介しておかないとね。チームを紹介したいと思っていたからいい機会だ。この機会にみんな仲良しになってくれたら嬉しいな。


「会ったことはあるけど話したことはあんまりないわね。私はタキガワ、よろしく2人共」


「ええ、よろしくお願い致しま……鼻血が出ていますが大丈夫ですか?」


「大丈夫大丈夫。バニアちゃんの裸の刺激が強すぎるだけ」


 うわっ本当に鼻血出てるよ。かなり出てるな。

 タキガワさんは小声で「ステータス」と呟き、出現した水色の板を高速で操作した。おそらくアイテムボックスってやつでティッシュを出現させて、これまた高速でティッシュを丸めて両方の鼻の穴に突っ込む。もうお湯から上がった方がいいと思う。


「オレはカオス。よろしくさん」


「……え、ええ。よろしくお願い致します」


 何だろう、カオスの顔が若干下を向いたままだ。

 視線が胸の方に向いている。これはおっぱいガン見しているな。私達の発達途中の胸なんか見たって面白くないでしょ。あ、自分のと比べている可能性もあるか。


「……あの」


 カオスの年齢は知らないけど、たぶん私達と同じくらいだよね。貧乳仲間ってやつだよね。ミレイユも……あれ、私達より少し大きい。


「あの!」


 大きな声を上げたミレイユに対して、カオスは慌てて顔を上げて「うぇ? 何?」と惚けた顔を見せる。本当は彼女が言いたいこと分かっているくせに。


「わ、私の胸を見すぎではないかしら。その、あまり見続けられると同性といえど恥ずかしいですわ。自慢出来るような立派なものでもありませんし」


 頬を赤くしたミレイユは視線を逸らして、自分の体を抱きしめるように胸を隠す。


「……き、気のせいじゃねえかなあ?」


「そこは認めようよ。おっぱい見ていたのバレバレだったよ」


 女の子は視線に敏感なんだ。

 さっきのは誰でも気付くと思うけどね。


「うわキモ」

「バニアの裸で鼻血出した奴に言われたくねえよ!」


「ミレイユちゃん、この2人変態だよお……」


「ですわね。バニア、今からでも『薔薇乙女』に来ませんこと? いつでも『薔薇乙女』の面々はあなたを大歓迎しますわ」


「あっはっは……」


 確かに2人は変態さんかもしれない。そういった面は擁護出来ない。だけど良い所はいっぱいあるんだよ。いつかミレイユ達にも分かる日が来ると信じている。


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