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40 メタルドラゴン


「な、何このドラゴン……」


 銀色の鱗と体。銀色ってメタルバードと同じだよね。

 赤い瞳で睨みつけているみたいだけど、私達は何もしていないはず……はず? いや色々やっちゃってるよ私達。メタルバードを2体も狩っちゃってるもん。もしこのドラゴンがメタルバードの件で怒っているとしたら、かなりマズい。


「メタルドラゴンじゃねえか! かっこいいなあオイ! ブラドよりこいつの方がかっけーかも!」


 カオスはマイペースというか何というか……。

 彼女の台詞で彼女の持ちドラ、ブラドが不機嫌そうな顔付きになる。


「ちょっとアンタ、このドラゴンのこと知ってるの?」


「知らねえのかよお前、元プレイヤーのくせに。メタル地帯で極稀にしか出現しない激レアドラゴンだぜ? 見れるだけでも超ラッキーって言われるぐらいの。いやー、オレにも運が向いてきたなあ」


「そんなこと言っている場合!? このドラゴン、どう見ても怒ってるんですけど! 今にも殺してきそうな目付きしてるんですけど!」


 タキガワさんと全くの同意見だよ。

 私達、知らぬ間にメタルドラゴンの逆鱗に触れたのかもしれない。

 もしそうだとしたら悪いのは絶対私達の方だと思う。

 私は一歩前に出てメタルドラゴンの顔を見つめる。


「あの、何か私達に用ですか」


 メタルドラゴンは低い唸り声を上げるだけだ。

 言葉を話せないのかな。いや、以前会ったロックドラゴンが珍しいだけで大抵のドラゴンは話せないよね。人間とドラゴンじゃ会話が出来ないのが常識だし、私達の持ちドラ達も喋らない。クリスタと会話出来たら嬉しいし楽しいだろうけど。


 ……たとえ話が出来なくてもコミュニケーションは取れる。

 言葉を使わなくても、仕草や表情から心情を推測するのが基本だ。


「タキガワさん、カオス」


 呼び掛けると2人は私の方に顔を向けた。


「帰ろう」

「えー、何でだよー」


 不満そうなのはカオスだけで、タキガワさんは何度も首を縦に振っている。このドラゴンがよっぽど怖いんだね。


 大丈夫だよタキガワさん。

 メタルドラゴンはまだ私達を殺そうとしない。襲って来るとすれば、きっとメタルバードを傷付けようとした時だ。過去は関係なく現在の行動に注目しているんだと思う。


 メタルバードの雛を巣に戻したのを見ていたのかもしれない。

 もし救助を見ていなかったら問答無用で襲って来たかも。


 救助を見てなお睨むのは人間が嫌いだからかもね。

 経験値稼ぎでメタルバード狩りを行う人は私達以外にもいたはずだから、そういった人達を見て嫌いになるのは仕方ない。必死に逃げるメタルバードを追いかけて、欲望のままに殺すんだからそりゃあ嫌われるよ。


 嫌いでも、さっきの救助を見たから襲わないでいてくれるんだ。

 これ以上この孤島に留まってメタルドラゴンを怒らせたくない。

 きっとメタルドラゴンはメタルバードとの静かな暮らしを望んでいる。

 私達みたいな人間はこの孤島にいたらいけない。


「あの、安心して。私達はすぐに出て行くから」


 相変わらずメタルドラゴンは何も言わないけれど、目付きの鋭さが若干なくなる。心を開いたとまではいかないけど敵意は消えた気がする。


 私達は持ちドラに乗って孤島から出て行く。

 飛行する持ちドラ達が目指すのは当然王都エルバニア。


「ちぇー納得いかねえなー」


 不満そうなカオスが唇を尖らせて呟く。

 タキガワさんはといえば暗い顔をしている。


「……カオス、アンタは何も思わなかったの?」


「あん? 何がだよ?」


「もうとっくに現実として受け入れたと思ったけど、私達、まだまだゲーム気分が抜けていないって話よ。分からないならいいわ」


 彼女の言葉にカオスは目を逸らした。

 元ぷれいやーとして2人が何を思っているのかは分からない。だけど、自分の中の常識を変えようと努力しようとしているのは分かる。


 さあ、エルバニアの宿屋に帰ろう。

 色々あったから疲れたよ。




 * * *




 エルバニアで過ごすのも慣れてきた。

 宿に泊まるためのお金を得るため、ギルドに届いた依頼を達成して収入を得る。余ったお金で武具の手入れをしたり、戦いに役立つ道具を買ったりして日常を過ごしている。本当は服とか防具とか買いたいからもう少し貯金して金銭面での余裕を作りたい。3人チームを結成したから依頼の達成報酬は3等分するのは当たり前だけど、今の収入だと貯金が中々貯まらないんだよね。


 今泊まっている宿屋【小さな栄光】で食事は3食用意されるから食費は問題ない。出費が大きいのはやっぱりドラゴン預かり所か。この【小さな栄光】ではドラゴンと一緒に宿泊出来ないから、預かり所に預けなきゃいけない。クリスタのご飯を作ったり、体を洗ったり、色々お世話してくれるとはいえ1日で400ゴラドも取られるのは痛いよなあ。


 とにかくゴマやナットウ君の情報が集まるまでは稼ぐんだ。

 稼いで稼いで稼ぎまくって、生活するのに大きな余裕が欲しい。将来は一軒家を買って宿屋暮らし卒業だ。そのためにもギルドで自分のランクを上げて、難易度高めの依頼をこなしていかないと。


 さあ今日は依頼だ。Cランクの依頼を順調にこなして目指せBランク。

 タキガワさんやカオスとギルド前で合流してしゅっぱーつ。


「来い、ブラド!」


 持ちドラを預かり所から連れて来ているから、私とタキガワさんは相棒が隣にいるけどカオスは違う。いっつも預かり所じゃなくて外のどこかで好きに過ごさせている。掛け声一つで契約者の居場所まで飛んで来るのは持ちドラだからか、それとも絆の証か。


「あれ?」


 いつもはすぐやって来るのに今日は遅いなあ。

 遠くで過ごしているから時間が掛かるのかもしれない。


「ちょっと、早くしなさいよね」


「分かってるっての。おかしいな、いつもは数秒で来るのに……」


 カオスは続けて「来いブラド!」と叫ぶけど一向に来る気配がない。

 さすがにここまで呼んだら来ると思うんだけどな。

 心配だ、ブラドに何かあったのかな。


「来いブラド! 来い! 来いよおおおお!」


「影も形も見えないね」


「おっかしいな何してんだよあいつ。寝坊か?」


 あー寝坊、寝坊か。寝ぼすけさんってことか。

 ドラゴンだって私達と同じで眠るもんねえ。


「……カオス、アンタ、持ちドラに見放されたんじゃないの?」


 私とカオスは2人揃って「へ?」とタキガワさんの方を向いた。


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