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38 現地人と元プレイヤーの違いを振り返って


 無事にメタルバードを倒せたから3人で一旦集まる。

 いやあ1体倒すのに2時間もかかるとはね。


「どうバニアちゃん、もうレベル25くらいになったんじゃない? あと3体も倒せばレベル40超えるでしょ」


 レベル40……凄い。でも残念だけど私の上がり幅だと3体倒しても30すら超えないと思う。経験者のタキガワさんが予想を間違えるはずないんだけど……私のレベルが上がりにくいのかな。


「上がった上がった、20になったよ」


「20だあ? 基本職ならもうちょい上がんだろ。バニアのジョブってライダーなんだろ? ちょっとギルドカード見せてみろよ」


 私は「うん」と頷いて、懐からギルドカードをカオスに手渡す。

 緑色のカードには現在のステータスとランクが表示されている。それを眺めたカオスの後ろからタキガワさんが覗き見る。


 私のギルドカードを見た2人は「「……は?」」と呟く。


「ちょっ、ちょちょちょ何これ。何なのこれ」


「ジョブが2つ……。意味分かんねえ」


「何か変だった?」


「ええおかしいわよ! ジョブがライダーとガーディアンの2つになってるじゃない! 基本職と上級職が表示されているのがおかしいっていうか、それ以前に2つあるのがおかしい!」


 あ、そういえばそうだ。気にしていなかったけど、私のステータス欄にはジョブが2つ表示されている。元々のジョブがガーディアンだけど【竜騎の証】でライダーが追加されているんだよね。


 確かに他の人達のジョブは1つだけだ。

 ミレイユやバンライならウィザード。

 ケリオスさんならライダー。


 私だって1つが普通だと思っていたけど、でも【竜騎の証】を付けているんだから2つあって当前だと思っていた。2人が驚いているんだし私がおかしいのかな。


 私の付けている金色の髪止め【竜騎の証】。

 デフォルメされたドラゴンの顔が可愛いし、ケリオスさんの形見みたいなものだからお気に入りのアイテム。これを外すのは嫌だなあ。


「普通【竜騎の証】を装備したらジョブはライダーに上書きされる。元々のジョブが残っているなんてありえない。いい? バニアちゃん。ジョブが2つあるのは誰にも言っちゃダメだよ。変な目で見られるかもしれないから」


「つってもギルドカード発行した受付嬢なら知ってんじゃねえのかよ。騒ぎになってねえってことは、常識の範疇ってことじゃねえのか」


「……世界の変化、か。元プレイヤーにとっては本当に厄介ね。元プレイヤーにとっての常識が通じないところもあるんだもの」


 ぷれいやーの常識と違うのが厄介、か。

 私にはどこがどう違うのか分からないから共感出来ない。

 タキガワさんの気持ちを理解出来るのは同じぷれいやーだけだ。……ううん、違う違う。諦めるんじゃなくて知ろうと行動しなきゃダメなんだ。私にだってきっと理解出来るはずだから。


「どういうところが違うの?」


「うーん、まずはレベル上限かな」


 タキガワさんが言うには、ぷれいやーが知る最大レベルは99。そこから上には絶対上がることがない。なんでその違いに気付けたかというと、ゴマと対峙した時にステータスを調べたらしい。


 ステータスを調べるにはスキル〈アナライズ〉が必須。どんなジョブだろうとレベル5で覚えるから私も覚えている。


 ……あれ、流しそうになったけどゴマのレベルは100以上ってことだよね。うわー勝てる気しないな。私のレベルまだ20だし、まともに戦えるようになるためにメタルバードを何体倒せばいいのさ。


「次にアイテムボックスの存在。バニアちゃんみたいなこの世界の住人と違って私達は道具を……あー何て言ったらいいかな。ああそうだ、道具を異空間に保管出来るのよ」


「見えない倉庫みたいな解釈でいい?」


「そんな感じよ。実際に見せた方が分かりやすいわね」


 タキガワさんが「ステータス」と呟くと、空中に透明感のある青い板が出現した。彼女はそれの下方に書いてある【アイテムボックス】という文字を押す。指で押した瞬間、板に表示される内容が所持品リストになる。

 次に押すのは所持品リスト内で1番上の文字。


 透明度の高い青い板を操作していた彼女の目前に、選択した道具が無から出現。青い液体が入っている小瓶……ヒールエキスだね。飲むとHPが回復する薬品だ。もしもの時のために持っておくのがギルドメンバーの常識らしい。私も勧められるがままに買って腰のポーチに入れている。


「ま、こんな感じよ。欠点としてはステータスを開いておかないと使えないことね。あと、所持アイテムが多いとリストが見づらくなること」


「あーそれ分かる。整理しとかねえと何がどこにあるのか分かんねえよな」


「いつ見ても凄いなあ。私もやってみたいよ」


 自由に物を保管したり取り出せたら便利だもんね。

 モンスターの死体を保管出来たら、解体出来ない人が多くの死体を持って帰れる。それに【アイテムボックス】があったらポーチもいらなくなるよね。現にタキガワさんとカオスは武器以外持っていない。楽そうでいいなあ。


「元プレイヤーだけにアイテムボックスが使えるってのもおかしな話だよな。プレイヤーはシステムの一部を持ってこの世界に来ちまったのかね」


「分からない。ただ、この世界の住人と元プレイヤーで違う点があるのは確かよ」


 私とタキガワさん達で何か違うってことかあ。

 性格とか体とか違うのは当たり前なんだけど私達は存在の何かが違う。

 まあ、今これを考える必要はないから頭の隅で放っておこう。


「次に痛覚。ゲームの時は痛みなんてなかった」


 痛みがない……ってどんな感じなんだろう。

 血が出ているのも気付かないとか、体の負担を気にせず動けるとかデメリットは多そうだ。無理しすぎで死んじゃうかも。


「そういえばカオス、アンタ前に体に風穴空いたわよね? やっぱり痛かった?」


「いや。ゴマにやられた時だろ、痛くなかったぜ。大怪我どころじゃねえから感覚が麻痺していたんじゃねえかな」


 あの時に痛みがあったらとんでもないよね。

 激痛でショック死するなんて話を聞いたことがある。痛覚麻痺状態は不幸中の幸いだ。


「あとはアレね」


 まだあるのか。2人からしたら変わったことが多いんだなあ。


「バニアちゃんが可愛すぎること!」

「何それ!?」


「分かる。この世界は美しいし可愛い女性が多すぎるぜ」

「分かるんだ!?」


 可愛いって言われるのは素直に嬉しいけど、今言うのは疑問に思うよ。2人はちょくちょく言ってくるよね。私、自信過剰でも謙虚でもないつもりだから、可愛くても平均より少し上くらいだと思っている。何度も言われるほど特別可愛いわけじゃないんだよ。


 だいたい2人だってすっごく可愛い。お人形さんみたいに整っていて綺麗だもん。2人が羨ましいくらいだよ。

 素直にそう告げたら2人は複雑な表情になった。なんでさ。


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