36 のんぷれいやー
他愛無い世間話をしてからお見舞い終了。
笑顔で治癒院を出た私にタキガワさんが声を掛けてくる。
「ねえバニアちゃん、さっきの話だけどさ」
さっきの話といえば……まあ、チームについてかな。
勝手にチームを組むと意気込んでいたものの、いざ話してみれば快諾されている。文句はないはずだけど理由が知りたいんだろうね。会って1日の自分が誘われた理由なんて、そりゃ気になるに決まっている。
「チームの件?」
「そうそれ! 組むって決めた理由を知りたいなと思ってね。どんな理由でも解散とか言わないけど、やっぱり気になるし。ねえ、どうして私とチームを組もうと思ったの?」
「……ちょっとやりたいことが増えたんだ」
ぷれいやーとドラゴロアの話を聞いてから考えたこと。
こことは違う世界からやって来た人達、ぷれいやー。
ケリオスさんやタキガワさんのように帰りたくても帰れない、可哀想で悲しい人達。2人の鬱病みたいな状態を見て知っていたから、助けたいと強く思った。
帰りたいと言っていた2人のようなぷれいやーが、元の世界に帰る方法を見つけたい。もしくはこの世界を楽しむ手助けをしたい。
私はそんな考えをタキガワさんに全て話した。
「なるほどねー、プレイヤーが帰る方法かあ」
「うん。ケリオスさんが探そうとしていたこと、私が引き継いでみようと思って。ぷれいやーの意見は貴重だし、タキガワさんと……実はカオスもなんだけど、個人的にチームを組んでみたいと思ったから」
カオスはぷれいやーじゃないと思うけど、あのイエ村で過ごした時間が私にとってすごく楽しかったんだ。また3人で過ごせたら、チームを組めたらいいなって思っている。
「そっかそっか、あいつもってのは癪だけど嬉しいなあ。私と組みたいと思ってくれていたなんてさあ。これはもう愛の証、告白されたも同じだったりして」
「――よし、じゃあオレとも組もうぜ」
いきなり割り込んできた顔と声に「わひゃう!?」と驚く。
う、変な声出た……。
目の前に現れたのは銀髪の女の子。赤と青のオッドアイが綺麗な彼女は、まさに今話に出したカオス。状況もカオス。
「な、アンタ、話聞いてたの!? ていうかいつから居たのよ!?」
うんそれ、本当にいつから居たんだろう。
「知り合いが入院しているからお見舞いに来たらよ、お前らが面白そうな話をしていたから気になってな。オレを仲間外れにするなんて酷えじゃん。なあバニア、オレも入れてくれよ」
「はっ、残念ね。話を聞いていたなら分かるでしょ。私達のチームはね、バニアちゃん以外プレイヤーしか入れないの! アンタはお呼びじゃないのよ!」
「え? 別にぷれいやー以外でも……」
私、そんなこと言ったっけ。
確かにぷれいやーのタキガワさんと組みたいとは言ったけど、カオスとも組んでみたいとも言ったと思う。単純に仲良くなった人とチームになりたいんだよね。
「へっへっへ、なら問題ねえな。だってオレもプレイヤーだもん」
……え? ぷ……今、ぷれいやーって言ったよね?
どうしよう、頭が混乱する。思考が追いつかない。
「は、はああ!? う、嘘吐くな!」
「嘘じゃねえよ! ドラゴロアオンラインをプレイしていた奴をプレイヤーって言うんなら、オレもそうなんだっつの!」
「だってアンタ、私がNPCとかの言葉を出した時に驚かなかったじゃない! プレイヤー同士の邂逅だし普通は驚くでしょうが! ていうかあの時に言ってくれればよかったのに!」
あ、そうだよね。タキガワさんはぷれいやーにしか分からない言葉を使っていた。あの時反応したのは私だけで、カオスは呆れた感じで部屋を出て行ったっけ。
うーん、嘘じゃないと思いたい。
「わざわざ言う必要あんのかよ。この世界がまだゲームの中だって現実逃避している奴も、死にたがりな奴も、オレは嫌いなんだっつの。あの時テメエが今みたいな状態だったら話していたかもな」
「……あっそ。まあいいわ、過ぎたことだし」
意外とあっさりしているなあタキガワさん。
てっきりもっと怒るのかと思っていた自分が恥ずかしい。
これなら同じチームに入るのも認めてくれそう。
「でも同じチームなんて認めたくないわ」
認めてくれなかった……。
えぇ、カオスも入れてあげようよ。可哀想だよ。
「私とバニアちゃんの愛の巣にアンタは要らないの」
「愛の巣って何!?」
「要らない? はっ、入れられないの間違いだろ。オレが入ったらバニアとのイチャイチャタイムが消えるから。そのイチャイチャタイムがオレのものになるから」
「イチャイチャタイムって何!?」
2人が何を言っているのか理解が追いつかない。
え、チームの話をしているんだよね。何でそこに愛の話を入れたんだろう。恋人になるわけじゃあるまいし。もしかして私が想像しているのと2人が想像しているチームは違うのかな。まさか勘違いしているのは私の方だったりするのか。
「はああ? アンタが入ろうと何にも変わりませんけど」
「じゃあ問題ねえな。今日からオレ達のチーム結成な。リーダーとしてオレがお前らを導いてやるぜ。そうだなあ、仲間7人は欲しいなあ」
リーダーは私じゃないんだね。てっきりこういうのって、言い出した人間がリーダーになると思い込んでいた。まあやりたかったわけじゃないし、私リーダーの座をカオスに譲ってもいいけど。……でも仲間7人は多いと思う。チームは基本4人って聞いたよ。
「何言ってんの、リーダーはバニアちゃん! サブリーダーが私! アンタは役職なし!」
「おいおい、そこはせめてサブリーダーがオレだろうが。この中で1番強く、1番可愛いオレこそ相応しいぜ」
「……ふん、生意気だけど容姿だけは認めてあげるわ。サブリーダーが誰かは一旦置いといて、チームに入るのは許してあげる。もし付いてこれないようなら置いていくからね」
「その言葉、そっくり返すぜ」
あれ、いつの間にかタキガワさんがカオスの加入を許している。
良かったあ、喧嘩にはなっちゃったけどこれで仲間だね。これから楽しくなりそう。私達3人ならきっと上手くやっていけるよね、私信じてる。
「じゃあ次はチーム名だ! ブラッディーカオスでどうだ!」
「ふざけんじゃないわよ。そんな厨二病全開の名前お断りだわ。私達のチームリーダーはバニアちゃん、結成を決めたのもバニアちゃん、ここはバニアちゃんに決めてもらうのが筋ってもんでしょうが」
「え、私!?」
個人的にはブラッディーカオスでも良いと思ったんだけど、タキガワさんはお気に召さないのか。チュウニビョウっていうのはよく分かんないけどダメなんだ。それならまあ、私も考えてみようかな。
うーん、チーム名の参考になるのは『薔薇乙女』くらいか。
女性しかいないから乙女が名前に入っているのかな。……うーん、でも私達がなんちゃら乙女って名前を付けたら真似したみたいだよね。それにカオスは乙女って感じじゃないし却下。
ここは目的から考えてみよう。
ゴマを倒す。ナットウ君を捜す。ぷれいやーの帰る場所を探す。
お、これいいかもしれない。ふふっ、良いの思い付いちゃった。
「――のんぷれいやー」
「のんぷれいやー? バニアちゃん、どういう意味?」
「この世界はドラゴロアだけど、ぷれいやーの知っているドラゴロアじゃないんだよね。この世界にいるのは元ぷれいやーなんだと思う。今はもう私と同じ人間。だから……もう実際、ぷれいやーはいないって……意味、です」
うーんどうかなあ、さっきは良案だと思っていたのに不安になってきた。
一応この名前にした意味はもう1つあって、専門用語を使うことでぷれいやーからの注目を集めるつもりなんだよね。私にしては上手く考えられたと思ったんだけど。うっ、2人共ふーんって顔しているだけじゃなくて何か反応してよお。感想が欲しいよお。
「どうかな、変じゃない? ダサくない? かっこいい?」
「凄いじゃないバニアちゃん! カオスの考えた奴より100倍センスいいわ!」
「へっ、まあまあかっけーじゃん。オレ達は確かにもうプレイヤーじゃねえ、ここはもうゲームの世界じゃねえんだ。的を射ているしいいんじゃねえの」
高評価ありがとう2人共。センス100倍は言いすぎだけど嬉しいよ。
「よーし、じゃあ今日から私達はチーム『のんぷれいやー』だね!」
早速ギルドにチーム結成を報告しに行こう。
治癒院の傍で待ってもらっていたクリスタ達と合流すると、クリスタが頬擦りしてきた。ツルツルだしヒンヤリしていて気持ちいい。急にどうしたんだろう。甘えているのかな。
クリスタと一緒に居ると思い出すな、あの人のことを。
……ケリオスさん。お空の上から見守ってくれていますか?
あの日から、あなたと出会ってから色々ありました。
ずっと乗ってみたかったドラゴンに乗れたり、初めて友達を作れたり、ケリオスさんと同類の人とも会ったんだよ。もちろん楽しいことばかりじゃなくて辛いこともあったし、ギルドで働くのも大変です。それでも私は人生を楽しめている気がします。
これからも、ずっとずっと見守っていてくださいね。
* * * 後書き * * *
プレイヤー邂逅から始めるドラゴンライダー、完……的な空気。
実は書くのここまでにしようかなと思っていた時期がありましたが、今は真に完結するまで続けていきたいと思っています。
ぶっちゃけた話、初めから考えていた部分がケリオス殺害までです。そしてミレイユとかカオスとかは登場直前まで存在していませんでした。これに関しては他の作品でも似たようなこと多いんですが。……今一番深刻なのはあれですね、明るい話が書きたくてギャグ展開に引っ張られる現象。
とりあえず次の章の話はふわーっとしていますが考えてはいます。
ここまで読んでくれた方にはお礼申し上げます。作者のモチベーション向上に繋がるので、出来れば評価や感想をお願いします。




