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35 バンライのお見舞い


 イエ村の出来事をミヤマさんに報告した翌日。

 私はタキガワさんを連れて治癒院へやって来ていた。

 理由はバンライさんのお見舞いだ。重傷だったし、前に来た時は意識がなかったけど、今日は目覚めているといいな。


 バンライさんとミレイユには伝えたいことがある。

 2人が傍に居て話を聞ける状態ならいいんだけど……。


「しっかしいいのバニアちゃん? 面識ない私がお見舞いなんて」


「問題ないよ、誰だって最初は面識ないんだし」


 最初は他人。誰だって話してから友達。

 仲良くなれるかは分からない。ただ、私が伝えたいことを伝える時、タキガワさんが傍に居てくれた方が伝えやすい。


「ここだ、バンライさんの名前が書いてある」


 通路には扉がいくつもあって、扉には治癒院に入院している人の名前が書いてある。全員個室らしいからすぐ満室になりそうだなあ。短期間で治療が終わるとは聞いているけどどうなんだろう。


「――ねえバニアちゃん」


 バンライさんが入院している部屋の扉を開けようとしたら、タキガワさんが話し掛けてきた。


「ここに入院している子さ、ドラゴニュートなんでしょう? あの化け物と重ねちゃったりしないの? 無理して付き合っているわけじゃないんだよね?」


「今は大丈夫だよ。胸を張って友達だって言えるから」


 ゴマと重ねてしまった最初は苦手意識が強くて、仲良くなるなんて無理だと思っていた。けど、関わって話すうちに苦手意識が薄れていった。

 正直な気持ちを伝えたらタキガワさんが笑みを浮かべる。


「なら呼び捨てにしてみたら? 私は歳上だからさん付けだけどさ、その子は同年代なんでしょ? 同年代の友達にさん付けしていると相手は距離を感じると思うよ」


「ふふ、そうだね。今日から呼び捨てにしてみる」


 ノックしてから扉を開けると中には2人の少女。

 ベッドに座っている薄緑色の肌のドラゴニュート、バンライさん。その親友である金髪のエルフ、ミレイユだ。


 入院服っていう服をバンライさんが着ているけど、あの水色の服は傷付いたりしないのかな。ドラゴニュートの人は鱗で傷付けそうだけど。


「バニアちゃん……と、どちら様ですか?」


 私達に気付いた2人が目を丸くする。


「あーどうも、私はタキガワだよ。バニアちゃんのお友達かな。今日は彼女に誘われたから来てみたんだけど、迷惑なら帰るよ」


「ぜ、全然迷惑なんかじゃないですよ! 寧ろその、あの、お見舞いに来てくれてありがとうございます!」


 よかったあ、迷惑には思わなかったか。

 バンライさんならそう言うと思っていたよ。……あ、呼び捨てにするなら心の中でも呼び捨てにしないとね。どうも癖になっちゃっているから呼べるかどうか怪しい。


「バンライさ……バンライ。目が覚めたんだね」


「うん、もうすぐ退院出来るって……え? 今、私のこと呼び捨てに……。ねえバニアちゃん呼び捨てにしたよね? ミレイユちゃんも聞いたよね!?」


「ええ、この耳で確かに」


 何やら興奮した様子で問いを投げかけるバンライ。

 えっと……怒っているのかな。ミレイユは若干笑っているけどバンライは笑っていない。呼び捨てにした方が仲良さそうだと思ったのになあ。


「だ、ダメだったかな……」


「全然いいよ嬉しいよ! 壁みたいなの消えた感じするし、とにかく嬉しいよ!」


「ふふふ、バンライったらあなたに呼び捨てにされないこと、かなり気にしていましたのよ。自分の種族が悪いんだーなんて言っていたくらいですもの」


 そうか、そうだったんだ。

 私がバンライだけ呼び捨てにしなかったのを気にしていたんだ。ゴマの仕打ちを聞いたからこそ、彼女はドラゴニュートの自分を責めた。私のせいで苦しめちゃったんだね。


 あなたのことが嫌いなわけじゃない。

 余所余所しく思ったならごめんね。これからは呼び捨てだから安心してねバンライ。私達は友達なんだから。


 ……さて、あのことはいつ言おうかな。

 今日はお見舞いがメインだけど伝えたいことがあるのも事実。こうして言いたいことがある時に限って、言い出すタイミングが分からないんだよなあ。


「バニア。何か、話したいことがあるのではありませんか?」


「え、どうして分かったの!?」


「顔に出ていましたし、お友達も連れて来ましたしね。あなたの話したいことにそちらの方が関わっているのでしょう?」


「うん、そうなんだ。話しておきたいことがあるの」


 話すタイミングをミレイユが作ってくれた。

 話すなら今しかない、私が心に決めたことを今伝えるんだ。


「実はね、私――このタキガワさんとチームを組むことにしたの!」


 タキガワさんが「ええ!?」と驚愕した。


「なぜあなたが驚くのですか」


「いや、私も今聞いたし! 本当にチームを組むつもりなのバニアちゃん!? 私と!? 私と組んでくれるってことだよね!?」


 興奮したタキガワさんに抱きつかれて、力が強すぎるせいで「むぎゅうう!?」と声が出る。強く抱きつきすぎだよタキガワさん。

 せ、背骨折れる……折れちゃうってば……。


 イエ村で抱きついてきた時もちょっと痛かったし、抱きつくなら優しくしてよお。ママがやってくれた時は全然痛くなかったんだけどな。


「あ、ごめん。……で、本当の本当に私とチームを組むつもりなの?」


「うん。理由は後で話すね」


 タキガワさんとチーム組もうと思ったのは、当然会って話してからだ。つまり昨日、彼女の事情を知ってから決めている。実はそれより前、入るなら『薔薇乙女』がいいなと思っていたけど。今は違う。もう決めたんだ。


「……そっかあ、残念だなあ。あ、ごめんねチーム結成はおめでたいのに残念なんて言って。でもね、あのね、バニアちゃんは私達のチームに誘おうってミレイユちゃんが言っていたから」


 私が「ミレイユが?」と呟くと彼女が頷く。

 まさか彼女がそんなことを思っていたとは思わなかった。もしチームを作ると決める前に誘われていたら、私は『薔薇乙女』に入っていたかもしれない。でもごめんね、今でも十分魅力的だけど『薔薇乙女』には入らない。

 タキガワさんと組むって決めたから後悔なし。


「……ええ。是非バニアには『薔薇乙女』の一員になってほしかったですけれど、1番大事なのは当人の気持ちですもの。加入を無理強いするつもりはありませんわ。可能なら、また合同で依頼を受けに行きましょう。今度は楽しい思い出を作るために」


「楽しい思い出……。うん、いつか行こうね!」


 同じチームに所属しないからって会えないわけじゃないし、同じ依頼を受けられないわけじゃない。私もまたミレイユ達と依頼を受けに行きたいよ。今度は『薔薇乙女』と私のチームで行ってみたいな。


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