34 今やるべきこと
ゴマとの嫌な再会から1時間弱。
日が暮れ始めた時間帯、私達は王都に戻って来た。
バンライさんのお見舞いに行きたいところだけど、イエ村の依頼で起きた出来事を報告しないといけない。報告するのはミヤマさんがいいかな、ギルドマスターだし。多忙だって言っていたから会えるか分からないけど、会えなかったら受付嬢さんかな。職員の誰かに報告すれば問題ないはず。
私、カオス、タキガワさんの3人でギルドへ入り、受付嬢さんにギルドマスターが居るかどうか確認する。結果、滞在していたと分かったので取り次いでもらう。
会える許可が出たのでギルドマスターの執務室……私が色々ミヤマさんと話した部屋に通された。懐かしいな……そういえば私が今喋れるのは彼女のおかげなんだっけ。
「やっほー新人バニアちゃん。何か重要な報告があるって聞いているけど何かにゃん? ま、まさか、退職!?」
猫の形をしたソファーに座っている黒髪の美女。
髪を掻き分けて頭から生えている黒い猫耳、お尻から生えている黒い尻尾。彼女が猫の獣人であることの証だ。
「違いますよ! ギルドは辞めませんから!」
「それは良かったにゃん。……で、報告っていうのは?」
彼女の向かい側にあるソファーに私達は座る。
猫の可愛らしい顔が描かれている目前の机にお茶が置かれた。誰も運んで来ずに、勝手に湯呑が移動してきたのだ。何かのスキルなら私もやってみたい。
「実は――」
私はミヤマさんに今日あった出来事を話した。
イエ村からの依頼が生贄のためであったこと。
村を守っていたロックドラゴンが去ったこと。
憎き仇、ゴマと再会して殺されかけたこと。
さすがにぷれいやーの話やタキガワさんの事情は話さない。普通の人は中々信じられないと思う。私はケリオスさんやゴマと会っていたから、彼女の話を信じられたのかもしれない。
「――というわけなんです。イエ村をモンスター達から守るのに、ギルドの力を貸してあげられませんか? 無理にとは言えませんが」
ギルドはボランティアじゃない。きちんとお金っていう対価を得て、誰かを助けるために動いている。それを捻じ曲げてまで引き受けるのは難しいはずだ。
ギルド側からすれば損するだけの話。新人の私が頼んだところで大した意味がないかもしれない。……だけど、頼んでダメだったのと最初から頼まないのでは違う。大丈夫、答えがどちらでも私は後悔しない。
「私からもお願いします」
タキガワさんが頭を下げてそう告げる。
「……生贄を用意しなければと思うほど、とても追い詰められていた村です。少し前まで自分のことしか考えていませんでしたが、今は違う。お願いします。助けてあげてください!」
「オレはどっちでもいいけど、助ける余裕があるなら助けてやれよ。このままじゃあそこに住む奴らが可哀想だし」
顔を上げたタキガワさんに続いてカオスも頼みだす。
私達3人はイエ村が救われることを望んでいる。
生贄にされかけても関係なく、ただあそこで暮らしている人達を救いたい。このまま放置したらきっと後悔するから、私に出来ることはやっておかないとね。
「ふーむ……ギルドも人手不足だしにゃあ。依頼を受けるにしても報酬がないんじゃあね……。君達がやるにしてもこれから忙しくなるでしょ?」
ギルドって人手不足なんだ……。
それは置いておき、私達で守るのは現実的じゃない。
単純に時間が足りないんだよね。私には他にケリオスさんの息子捜索、ゴマ捜索目的があるから仕方ない。他の2人が何も言わないのは他に目的があるからだと思う。
「……まあ、新人ちゃんのハジメテだしー、お願いは聞いてあげるにゃん。時間はかかるけど国に話を通して、国からの依頼ってことにすれば万事解決。準備が終わったら特定の数チームに声を掛けておくから大丈夫だよん。あなた達がやりたいんなら、また私に声を掛けてくれればいいからさ」
「「ありがとうございます!」」
私とタキガワさんが揃って礼を言う。
良かった、ミヤマさんが良い人で本当に良かった。
彼女が選ぶ複数のチームが護衛をしてくれるらしいし、これでイエ村の人達はロックドラゴンが居なくても安心して暮らせるね。お金についても国から出るなら心配要らないし。
「ふふ、困っている人のためのギルドだからね。どんな場所だろうと、どんな種族だろうとギルドは助けるために動くよ」
カオスが「ふーん、お優しいこった」と呟く。
「本当に優しいよ。私が今喋れるのもミヤマさんが助けてくれたからなんだもん」
「あ? 喋れるのがこいつのおかげってどういう意味だよ」
「そっか、カオスにもタキガワさんにも話していなかったよね」
私は2人に喋れなかった時のことを伝えた。
何か言おうとしても相手に伝わらないのは辛かったな。普段から当たり前に使っているものが使えないと、あんなに不便なんだと思い知らされた。治してくれたミヤマさんにはとても感謝している。
もしあのままだったら今頃どうなっていたんだろう。
ロックドラゴンと話せないし、タキガワさんに何も伝えられない。今回の依頼で最悪な結果を残すことになったかもしれない。骨も残さず焼殺されていた可能性すらある。
「……カオス、ちょっと」
怪訝な顔になったタキガワさんがカオスの肩を掴む。
「あん? 何だってんだよ」
「いいから! 耳貸しなさい!」
2人の顔が近付いてコソコソと話し出す。
えー、内緒話とか仲間外れにされた気分。
「普通に考えて猫騙しで治るわけないわ。回復魔法で病気が治るか不明な以上断言出来ないけど、声帯をピンポイントで治すなんてほぼ不可能よね」
「……声を治すってことは喉だよな。まあ、聞いたことはねえけど」
おーい、聞こえちゃってるよ2人共。
何言ってるかバッチリ聞こえてるよ。内緒話になってないよそれ。
確かに手を叩いただけで治ったのは不思議だけど、深く考える必要ないんじゃないかなあ。魔法みたいなものって感じに思っておけばさ。
一応ミヤマさんの様子を窺うとニコニコ笑ったままだった。
「色々おかしいのよ、違和感が消えないの。……ゲームのギルドマスターはこんな人じゃなかったし。ねえアンタさ、ちょっとあの人のこと調べてみてよ。〈アナライズ〉くらい使えるでしょ?」
「ステータスから分かることもあるってか?」
タキガワさんから顔を離したカオスがミヤマさんを見つめる。
「〈アナライズ〉」
「やーんエッチー」
「うぎゃああああ! 目がああああ!」
気がつけば彼女の両目にミヤマさんの指が刺さっていた。血は出ていない、怪我をしたわけじゃなさそう。
あんまりな光景を目の当たりにした私は彼女の名を叫ぶ。
「な、何しているんですかミヤマさん!」
「他人の情報を勝手に見ようとしたおバカさんに、軽うくお仕置きしただけにゃん。怪我はないから安心してね。……でも、次に同じことしようとしたら失明しちゃうかも。タキガワちゃんもこうなりたくなかったら詮索し、な、い、こ、と」
「わ、わわわ分かりましたもう詮索しません!」
恐ろしい光景を目にしてしまった。
優しかった笑顔がまるで修羅のように見える。
気のせいかドス黒いオーラが放出されているような……。
「私は多忙な身。報告を終えたら退出するように」
「し、ししし失礼しましたあああああああああ!」
悲鳴に似た叫びと共に、タキガワさんが私とカオスの腕を掴んで執務室から出て行く。咄嗟のことに驚いていたから抵抗出来ない。
まあいっか、イエ村の問題は解決出来そうだし。
……あ、ロックドラゴンが向かったリュウグウって場所を訊くの忘れちゃった。そこにゴマも居るかもしれないのに。
忘れたものは仕方ない。次の機会に訊いてみよう。
今の私じゃあゴマには到底敵わないし焦る必要はない。今やるべきことは自分を強くすることだ。最低でも彼と戦いが成立する程度に、ケリオスさんのように強くなることだ。




