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タキガワ視点 失くした希望


 私、滝川潘菜がドラゴロアオンラインというVRMMORPGをプレイしようと思ったのは、友達である寒沢拓斗に誘われたからにすぎなかった。


 ドラゴロアオンライン。

 約5年前に発売した自由な冒険がテーマのVRMMORPG。

 ドラゴンに乗って見て回れる仮想世界の美しさに、私は瞬く間に魅了された。気がつけば毎日のようにプレイするほどのめり込んでいたのである。


 嫌なことがあった時はその日のうちにログインしていた。

 恋人に浮気されたとか、父親の会社が倒産して借金したとか、道路で犬の糞を踏んだとか、せっかく買った車が3日で盗まれたとか色々あった。そんな時、広大な景色を見るといつも心が癒やされる。


 プレイヤー名は本名からとってタキガワ。

 最低限のレベル上げをしながら世界を周る日々。

 ゲームのプレイスタイルは人それぞれだ、私はストーリーとかより美しい世界を見て楽しむタイプ。だからか景色に見惚れて敵に殺された回数は数え切れない。


 楽しかった思い出がいっぱい詰まったドラゴロアオンライン。

 まさかそれが私の人生を壊すとは想像していなかったし、今でも信じられない。


 ――ゲームの世界に閉じ込められたなんて。


 発端は5日前。現実への帰還に必要なログアウトボタンの消失。

 初めはすぐメンテナンスで直るバグかと思っていた。考えが甘いと知るのは翌日になってからであり、1日経ってもログアウトボタンは消えたまま。もはや帰る術は残されていないんじゃないかと思う。


 2日も経つと希望を持てなくなった。

 もう家族にも友達にも恋人にも会えず、この仮想世界で本体の餓死待ち状態。持ちドラのクイックドラゴン、クィルに顔を舐められても反応出来ないくらいショックだった。


 ゲーム内に閉じ込められて3日目、イエ村へ辿り着く。

 もしかしたら私と同じ状況のプレイヤーがいるかもしれない。そう思って捜したけど情報なし。やっぱりこんなことになっているのは私だけなのかもしれない。


 仲間はいない。現実に戻る術もない。

 そんな現実に絶望してしまった時、イエ村の現状を耳にした。


 イエ村ではモンスターに対抗するべくロックドラゴンの助力を借りている。対価として若い女性を定期的に生贄として運んでいるらしい。……私にとっては好都合だった。


 どうせこのまま帰れず死ぬだけなんだし、少しは誰かの役に立って死にたい。あっはっは、NPCのために死ぬとかアホらしいわ。アホらしい死に方でも私は早く死にたいんだわ。栄養不足で餓死するのには時間がかかるだろうし、辛い状況からは一刻も早く解放されたい。


 ロックドラゴンに食べられちゃえば即死でしょ、たぶん。痛みを感じるまでもなく一瞬で死ねる。いいじゃん生贄、もはやNPCの代打だとしても何も思わないよ。


 ――そして、ゲーム内に取り残されて5日目。


 村長に頼んで生贄にしてもらってから時間だけが過ぎていく。ベッドの掛け布団に包まってひたすらその時を待つ。


 一応毎日ログアウトボタンは確認しているけど変化なし。

 死ぬのはやっぱり怖い。けど、生きる希望もない。


 どうして私がこんな目に遭うのかなあ……。

 どうしてなのかなあ。私何かした?

 悪いことなんて何もしてない、普通に生きてきただけなのに……。

 お母さん、お父さん、会いたいよお。


 薄暗い部屋の中で、現実で親しくしていた人の顔を思い出す。

 今頃私のことを心配しているのかな。それとも私のことなんて……。


 絶望のスパイラルに陥っていると部屋に誰か入って来た。

 ついに生贄に出されるの? 私、死ねるの?


 入口を見てみると期待は裏切られた。

 入って来たのは村長じゃなくて女の子2人。

 白髪ボブカットの可愛い子はバニアと名乗り、もう1人の長い銀髪で赤と青のオッドアイの子はカオスだと紹介された。


 名前を教えてほしいと言われたけど私は教えない。だって教える必要がないんだもん。私、これから死ぬんだよ? そんな奴の名前なんて知る必要ないでしょうに。


「私達はこの村の人間じゃないんです。あなたには残念かもしれませんけど、生贄はもう必要なくなりましたよ。あなたが死ぬ必要なんてないんです」


 ……は……は?

 どういう、こと?


「何でよ、ドラゴンが食べてくれるんじゃないの!?」


「ロックドラゴンは最初から求めていなかったので」


「知らないわよそんなこと! ああもうどうして……! 何でよお……何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよお。もう嫌、嫌よおお」


 ちょうどよく生贄として求められたと思ったらこれだ。

 このまま私だけが生きる世界で、いつか現実へ戻れる日を夢見て待ち続けるのかな。

 ……寂しい。胸が痛い。こんな気持ちのまま生きるの嫌だよ。


「そんなに死にたいなら自殺すりゃあいいだろ」

「カオス!」

「……自殺は、嫌。……痛いのも苦しいのも嫌だし。ドラゴンに食べてもらえれば即死かと思ったのに」


 自殺するとなるとどうしても苦しみを避けられない。

 舌を噛むのも、自傷するのも痛いから無理。


 何ていうか、ドラゴンに食べられるってのは現実離れしているからイメージが湧かないんだよね。苦しむイメージが何一つ湧かない。なんとなーく即死しそうだし。


 私が思う即死は痛みを感じる前に死亡するということ。

 牙でグチャグチャにされても即死なら……そう思っていた。生憎ともう叶わない話になっちゃったけど。


「どうしてそんなに死にたがるんですか? 親から貰った命、粗末にするなんて酷いと思います。何か辛いことがあったなら聞きますよ」


「は、はは、アンタに話して何になんのよ。アンタもどうせNPCなんでしょ!? NPCに話したところで私の辛さなんて伝わるわけないじゃない!」


 そうよ、どうせアンタもNPC。システムに動かされているだけの、設定通りにしか動けない存在。アンタが私を心配するのもゲーム内のイベントとかでしょうが。


「ねえ、お姉さんはもしかして……ぷれいやー?」


 え、今なんて……。プレイヤーって……。

 NPCがプレイヤーのことを知っているなんてあるのかな。

 もしかして私は勘違いしていた? この子はNPCなんかじゃなくて本当は仲間だった? 分からない、分からないけど希望が見えた。


「知ってるの!? あなたもそうなのね!?」


「……ごめんなさい。私はぷれいやーって人じゃない。その言葉が何を意味するのかも分からないの」


 ……何よ、結局アンタはただのNPCじゃない。

 希望を持った私が馬鹿みたいじゃない。ふざけんじゃないわよ。


「は、はは……やっぱり、私は1人なんだ……」


 予想していた通り他にプレイヤーなんていない。

 私だけ、私だけがこの世界に取り残されている。


「1人だから死にたいなんて……」


「あなたに、たかがNPCに何が分かるの!?」


「分からない。何も、分からない。だから教えてください! あなたがそんなに打ちのめされている理由を知りたいんです! 話してくれないと、何も分からないままだから!」


 ……何よ、そんな必死になって……何なのよ。

 アンタはNPCなんでしょうが。こんなイベント用意した運営は凄いわよ、ええ凄い凄い。こんなに感情的になるNPCを作れるなんてね。プレイヤーからの評価も高いんじゃないの。


 この子の青い目、綺麗だなあ。

 作り物だとしてもすごく澄んだ目をしている。


 この子からしたら真剣なのかな。NPCってだけで雑に扱うのもどうかと思うし、少しくらいこの子に付き合ってあげるのも悪くないよね。話してあげてもいいかな。


「……はあ、NPC相手になーにムキになってんだか。言いよ、話してあげる。どうせ伝わらないだろうけど……誰かに話すだけでも気休め程度にはなるかもしれないし」


 話すまで居座りそうだし話してあげよう。この子なら本気で私の為に悲しんでくれる気がするし、知りたいって欲求が伝わる目をしている。NPCにこんなこと思うなんて我ながら馬鹿だなあ。

 ま、死ぬまでの暇潰しとでも思えばいいか。


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