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29 いのちだいじに


 生贄運搬阻止のためイエ村に戻って来た私とカオス。

 本当ならギルドに報告した方がいいのは分かってる。だけどたぶん時間がない。ギルドへ戻っている間にまた犠牲が出ちゃうと思う。犠牲を出さないためには……どうすればいいんだろう。


「ねえカオス、どうすればいいと思う?」


「さあなぁ……生贄だの、人間とドラゴンの関係だの、ややこしい事態になっちまったし。とりま、村長を説得出来るんなら説得が手っ取り早いぜ」


「……だね。まずは村長と話をしてみよう」


 仲間っていいな。こうして一緒に考えられる相手がいるのはやっぱりいいものなんだな。自分では思いつくのに時間がかかっちゃう案も、頼もしい誰かと一緒なら短時間で目的を決定出来る。……いや、まだカオスとは仲間じゃないけども。


 村長は村のトップ。生贄を出すと決定したのは村長のはずだ。

 一先ず村長宅に戻って話をしよう。


 ここからは慎重に話を進めないとダメだよね。どうして生贄のことを知っているとか、なぜ止めるとか。……その前に生きていることに驚かれるかもしれない。

 会話の始め方がすごく大事なはず。言葉は選ばないと――。


「おいゴラアアアア! テメエよくもオレ達を騙して生贄にしようとしやがったな! ロックドラゴンに全部聞いたぞオラアアア!」


 カオスうううううううう!?

 村長宅の扉を思いっきり開けて彼女が叫ぶ。いきなりのことで中にいた村長も驚いているし……私も驚いている。


 よく考えたらカオスは途中参加なんだし、別に騙されたわけじゃないと思う。騙されたのは嘘の依頼を出されたギルドと、依頼を受けた私だけだよね。


「な、なんじゃね君は!? む、後ろにいるのはギルドの方……まだご出発なされていなかったのですね。彼女は仲間の方ですか? 随分個性的な娘のようですが」


 慎重にいこうと思ったのに全部台無しだよ。

 あーもう、こうなっちゃったら仕方ない。


「……もう山へ行きました。ロックドラゴンが全部語ってくれたから生贄の話も知っています。説明、してくれますよね?」


「か、語った? バカな……ロックドラゴンはあなたを食べなかったというのか。やはり貧相な子供では生贄として認めてくれなかったのか」


 カッチーン。私傷付きました。

 貧相だとか子供だとか好き勝手言ってくれる。私はもう13歳だし立派な大人に近いのに、13歳じゃダメだって言うの? そりゃあ胸も身長も小さいけど精神は大人のつもりだから! それにロックドラゴンは誰が来ても食べなかったと思うし!


「へっ、分かってねえな爺さん。ロリにはロリの魅力があるんだぜ」


 カオスはカオスで何の話してるの……。


「……知ってしまったのなら仕方ありませぬ。説明といっても大して語ることはありませんが」


 村長が事情を語る。

 近年、村の周囲のモンスターが活性化してしまい、村人だけで対処出来る範囲を超えてしまった。ギルドに依頼しても受けてくれる人は限られており、そんなに多くのモンスター討伐を依頼するお金もない。そこで山の頂上に棲むロックドラゴンに頼る術を思い付く。


 村の代表者数名がロックドラゴンに会いに行くと、守る交換条件として若い女性を差し出すことを伝えられた。冗談と気付かない村長達は、少ない犠牲で村を守れるならと承諾。毎月生贄の若い女性を送り出すと決まった。


 何とかロックドラゴンの助力を得て平和に過ごしていた時、潜在していた問題が浮き彫りになる。――村の女性の数だ。村人も無限に居るわけじゃないし女性が少なくなっていく。生贄を送れなければロックドラゴンとの契約は破棄される。ギルドへの依頼は村長達にとって対策の1つだったらしい。


「本当にすまぬことをした……騙して、悪かった」


「事情は分かりました。……でも、同情はしません。私達殺されかけたんですもん。生贄を出すのは止めて、ギルドの人にも謝罪した方がいいと思います」


「依頼は取り消すが生贄は献上し続けるぞ。ロックドラゴンの力を借りなければ、再びモンスターに対処しきれなくなってしまう。そうなればこの村は終わりじゃ」


 そっか、村長は生贄が必要ないって知らないんだった。

 意味がないって教えてあげないと。

 今まで無意味に死んでいった人達に償ってもらわないと。


「ロックドラゴンは生贄を本気にするとは思わなかったと言っていました。運んで来たから食べただけだとも。……生贄なんて、初めから要らなかったんです」


「ひ、必要ない? それでは今までの犠牲は……」


「意味ねえってこった。バカなことしたな爺さん」


 見るからに村長はショックを受けている。

 酷い話だ。分かっていて誤解を解かなかったロックドラゴンも、村のためとはいえ定期的な犠牲を払う村長も、どっちも悪いところが目立つ。


 これまでの不必要な生贄に村長と親しい人がいたのかもしれない。ううん、そうでなくたってショックなはずだ。事実を知った村の人達からの反感も買いそうだしね。


 酷い現実を突きつけて気分は最悪。

 誰かが言わなきゃいけなかったんだろうけど私である必要はない。カオスが言ったって、他の誰かに言ってもらったって結果は変わらない。……でも、どうしてか分からないけど、私が言わなきゃいけない気がした。


「あの、もう生贄を出さないと約束してください」


「……分かっておる。出さないで済むなら出さぬよ」


 よかった、これで一安心。

 イエ村の人達も余所者も誰も死なない。胸を張ってハッピーエンドとは言えないけど、今後は良い方向に進んでいくんじゃないかな。


 良い方向へ行くはず……なのに、村長は困り果てた表情を浮かべる。何か不満でもあるのかな。生贄を出したかったわけないはずなのに……。


「しかし困った……実は宿屋に生贄となる予定だった余所者が居るのじゃが」


「あ? 何で困るんだよ。解放してやりゃあいいじゃねえか。つーか宿屋に泊まれなかった理由はそれだな!?」


 カオスの言う通り解放すればいいだけの話だ、困る理由が見当たらない。


「ふむ、それが……彼女は死にたがっておるのです。丁度いいと思い話を持ち掛けたら承諾してくれましてな。どう説明したものか……」


「死にたい? そんな人が居るんですか?」


 自分から命を捨てたい人がいるなんて信じられない。

 親から貰った命、一生懸命に生きるのが普通だと思っていた。ママからも死に際に言われたんだ。私の分まで長生きしてって。他の家庭もそうじゃないのかな。


 私はケリオスさんに、色んな人達に助けてもらってきた。だからか自分の命を粗末にする人は嫌いだ。誰だって、他の誰かに助けてもらったことがあるはず。きっとその人だって誰かのおかげで生きていられる。


「その人が居る部屋を教えてください。私が説得してみせます」


 個人的な考えだけど、自殺したいなんて人は許せない。


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