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28 予想だにしていない事態


「ああ? 何言ってんだ、オレ達が何の嘘を吐いたって? なあバニア、こいつバカだぜ。よく分かんねえけど難しい言葉使って気取ってんだ! ドラゴンがオレ達より頭良くなったつもりかよ!」


「いいか、お前達は麓の村の者が困っていると言ったな。確かに困っているだろう、困っているだろうさ。……ただし鱗が不足しているからではない。不足しているのは鱗ではない、吾輩へ渡すための生贄だ。そしてお前達は残念なことに生贄として送り出された」


 ……生……贄。い、け、に、え。

 ちょっと待ってよ。ねえ、ロックドラゴンは何言ってるの? 鱗じゃなくて生贄って……だって、それって……。本で読んだことがある。神様とか偉い人への捧げものとして人間を用意するやつ、だよね。私が考えている通りならやっぱりおかしいよ。だってそんなこと誰にも言われていない、村長は何も言ってくれなかった。……まさか、わざと。


「バカ野郎、生贄って何だ! もっと分かりやすく言えや!」


 いくらなんでも察しが悪すぎるよカオス。

 生贄は生贄。つまり私達は――。


「イエ村の者は1月に1度、村を守る対価として生きた人間を吾輩に献上している。お前達はあの村の者に騙され、わざわざ死ぬために山を登ってきたのだ」


「……送られた人はどうなるの?」


「腐る前に食った。意外と人間は旨いぞ」


 驚きで声が出ない。

 腐る前に食ったって……何だ。


 人間とは私のようなヒューマンだけじゃなく、ミレイユのようなエルフ、バンライさんのようなドラゴニュート、マヤさんのような獣人など、言葉で意思疎通可能な人型の種族全てを指す。

 この世界、ドラゴロアで人間はドラゴンと共存しているものだと思っていた。ドラゴンが人間を食べるなんてありえない。昔の物語ならそんな話もあったけど、どうせ作り話だと思っていた。


 呆然としていたのはカオスも同じだったみたいだ。

 彼女は我に返った瞬間叫び出す。


「ざ、ざけんなテメエ! 宇宙の帝王みたいな極悪じゃねえか! それならこっちも遠慮なくぶっ飛ばせるぜ!」


「吾輩も本気にするとは思わなかったのだがな。ただ、村を凶悪なモンスターの手から守りたいと思う覚悟を示してほしかったのだ。しかし献上されたものは吾輩の所有物。食えと言うのだから食っても吾輩は悪くないだろう」


「……確かに?」


 さっきの怒りはどこにいっちゃったのさカオス。

 ロックドラゴンも最初は食べるつもりなかったんだ。生贄の話を鵜呑みにした村長が生贄を差し出しただけで……でも、冗談だとしても差し出せって言ったのはロックドラゴンなんだよね。


 誰が悪いんだろう。

 村を襲うモンスター?

 生贄を差し出した村長?

 差し出されたからって食べたロックドラゴン?


 誰が悪いのかもう分かんないよ。

 怒りというより、ただただショックを受けている。

 こんなことが起こってしまう世界がただただ悲しい。

 

「人間に多く関わり、吾輩は既存の関係に疑問を抱いた。なぜドラゴンと人間は対等な関係なのか。人間が優れている部分を探したが未だに見つからない。力、知恵、技、多くのものはドラゴンの方が上だ。独自の言語を操るのは吾輩にも出来た。……お前達は吾輩の疑問に答えられるか?」


 私達は首を横に振る。


「……やはりないのだ、ドラゴンと人間は対等な存在ではない。今の世界は間違っている。どちらが上の存在か周知させた方が良いだろう」


「違う部分は多いけど、友達になれるのは素敵なことじゃないかな。私は今の関係が1番いいと思う。どっちが上とか、そんなの気にしない」


 上の存在だってはっきりさせた先に何が待っているのか。ドラゴン達はそれでも人間と仲良くしてくれるかな。私には、分からないや。


「お前達は吾輩達を利用しているだけだ。ほとんどの者が自力で空を飛べない人間が、便利な道具としてドラゴンを扱う。友情や愛情がある者は極少数。……利があるのは人間ばかり。互いの関係を壊すと言えば賛同するドラゴンは多いだろう」


 私は自分の何かを奪われるのが1番嫌い。……でも、もしクリスタ自身の判断で私から離れるなら、すんなりと引き下がると思う。当然第三者の影響だったら仕返しする。


 ドラゴン自身が人間を見限るのなら仕方ない。

 ロックドラゴンは悪者ってわけじゃないと思う。人間からしたら悪者にされるかもだけど、ドラゴンからしたら納得出来るんじゃないかな。個人的には納得してほしくないんだけども。……ロックドラゴンの考えを変えるのは厳しい。


「お願い、せめてもうイエ村の人達を食べないでほしいの」


「吾輩は献上されるから食べるだけだ。止めてほしいのなら、お前達が生贄を捧げさせなければいい」


「テメエが説明すりゃあいいだろうが」


「ふっ、なぜ吾輩がわざわざ説明しなければならん。食事を運んで来るのは吾輩にとってありがたいのだぞ。運んで来なければ食べないというだけでも感謝するがいい」


 カオスは疑うような顔してるけど嘘じゃないと思う。ロックドラゴンはきっと、自分から村へ下りて食べるほど好きじゃないんだ。主食は岩や砂利だって受付嬢さんは言っていたし間違いない。


 これ以上犠牲を出さないためには、イエ村から生贄を出さないようにすればいい。一先ず生贄にされる人を助けないと……。

 何だか大変なことになってきたなあ。


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