27 ロックドラゴンとの話
イエ村から出発して1分もかからず山に到着。
山、たっかいなあ。
麓のイエ村からでもそう思っていたけど、もっと近くから見るとさらに高く見える。ここを今から登るんだよね私。
昔から高い所は好きだった。
どこまでも高く飛ぶドラゴンの気持ちを少しでも味わいたくて、もっと子供の頃は森で木登りとかよくやっていたな。一度だけ山にも登ったことがある。とにかく高い所に行きたいからママに頼んで連れて行ってもらったっけ。標高は低い山だったけど、初めて辿り着いた山頂からの眺めが綺麗だったのは今でも鮮明に憶えている。
山の頂上目指して私は山登りを開始。
……クリスタに乗って飛んでるから厳密には違うかもしれない。普通に登山したら疲れるし時間かかるんだもん、しょうがないと思う。いくら高い所が好きでも今は時間が大事だしね。村長も早くしてほしそうだったし、私も王都で治療中のバンライさんが心配だから早く帰りたいし。
「で、依頼の内容は? どんな依頼でもオレの活躍でパパッと達成してやるぜ?」
隣で赤いドラゴンに乗って上昇し続けている女の子が笑いながら言う。
結局この子は付いて来ちゃったな。まあ、心強いといえば心強いか。
「それより私、あなたの名前知らないんだけど。あ、私はバニア」
「悪い悪い。オレはカオス! よろしくな!」
カオス、か。どっちかって言うと男の子っぽい名前に聞こえる。
元気で自信家な子なのかな。
ナンパ師みたいな言動さえなければ完璧に可愛いのに、何だか勿体ない。
彼女に依頼内容を話す。
山の頂上に居るロックドラゴンから鱗を1枚貰い、村長に渡す。想像より簡単だったのか彼女は大きな笑い声を上げる。
彼女曰く、ロックドラゴンなど楽勝らしい。
倒したいわけじゃないんだけど……。本当に分かっているのかな。一応動きには注意しておこう。もしこっちから襲ったらそのまま戦闘になっちゃうかもしれない。
「カオスは何で協力してくれるの?」
「バニアが可愛いし仲良くなりたいからだ! それにお前弱そうだし、ロックドラゴンにやられちまいそうだ。俺が助けてやるよ!」
「もう、ロックドラゴンとは戦わないんだってば!」
この子ちゃんと話聞いてるのかな。
「倒して鱗剥ぎ取るんじゃねえの?」
「しないよそんな物騒なこと! 話し合うの!」
もーう、どんな生活してたらこんな性格になるの?
剥ぎ取るなんて……。魔物を殺した際は解体してもらうけどさ、今回は討伐依頼じゃないんだからね。カオスも殺すつもりはないんだろうけど……ないよね? 不安になってくる。私はまだ彼女と会ったばかりで何にも知らないし。
「ふーん。ま、交渉で済んだ方が楽か」
意外とあっさり納得してくれた。
話せば分かってくれるんだ、素直さんなのかも。
「……あのさ、さっきから気になってたんだけど。バニアさ、そんな服装で寒くねえの?」
「確かにちょっと寒いかも」
はあ、意識したら急に冷えちゃったな。マフラーとか欲しくなっちゃうや。
高い所は寒いって言うし防寒具を持って来るべきだったかもしれない。
あー、エルバニアの服屋にはまだ行っていないのか。この依頼が終わったらお金に余裕が生まれるし、防寒具とか買うのもいいかも。出来れば可愛いやつ。
「カオスは寒くないの?」
「平気平気。オレの装備してる腕輪、暑さと寒さを感じなくなる効果あるし。そうだオレが温めてやろうか! 肌と肌が触れ合えば温まるぜ!」
「遠慮しとく」
腕輪か、言われてみれば付けているのが見える。
赤と青の2色で綺麗な腕輪。暑さも寒さも大丈夫になるなんてすっごいものなんだなあ。エルバニアに……さすがにレア物っぽいし売ってないかな。売ってたとしても高そうだし今はいいか。
そうこう話をしているうちに山の頂上へ着いたみたい。
頂上は50メートルくらいの平地になっている。そして、お目当てのロックドラゴンがいる。睨まれた気がするけど鱗1枚貰えればいいな。
ロックドラゴンはクリスタよりも遥かに大きい体。鱗は滑らかじゃなくて岩みたいにゴツゴツだ。まるで巨大な岩が生きているみたいに見えてくる。受付嬢さんから聞いていた通りの見た目だけど、実際に目で見るとやっぱり違う。……何ていうか、迫力が凄まじい。
「おお、いたいた間違いねえ。ロックドラゴンだ」
「少し怖いかも。迫力、凄い」
「――ヒューマンと吸血鬼か」
大きな開いた口から重低音が発された。
喋った! ロックドラゴンが喋った!
「なっ、お前喋れんのか!? ドラゴンなのに!」
「人間達の言葉を覚えたからな。ある程度の知能は必須だが3か月もすれば覚えられた。吾輩のように物好きな輩は少ないだろうが、人語を話せる者は他にもいるだろう」
「すっげ! すっげえ!」
私も驚いたけどカオスの驚きようには負ける。
言葉を話せるなんてすっごい珍しいよね。隣でこんなに騒ぐのも分かる。ドラゴンとは会話が成り立たないってのが常識だもん。
もしドラゴンと話せるって広まったら常識は壊れる。クリスタとだって話せる日が来るかもしれない。持ちドラが自分のことをどう思っているのか気になる人は多いはずだ、私だって気になっているしね。
「呑気なものだ。貴様等、なぜこんな場所に来た?」
う、睨まれているみたいで怖い……。
「えっと、私はバニアといいます。イエ村の村長から依頼を受けたギルドの一員で……その、あなたの鱗をせんしぇふ――」
噛んじゃったあああああ! 途中まで完璧だったのに!
ああもう、ロックドラゴンの顔が怖いせいだ。心臓がバクバク鳴っていたし緊張していたのが自分でもよく分かっていた。薄々こうなる気はしたけどさあ、13歳にもなって緊張で言葉を言い間違えるなんて自分で自分が恥ずかしいよ……。
「なんか麓の村の奴がお前の鱗欲しいんだとさ。鱗くれよ」
「……なるほど、理解した。悪いが鱗は与えられん」
「えーケチ臭いやつだな。いいじゃんか1枚くらいよー」
「あ、あの、何とかなりませんか? 鱗がないと困っちゃうみたいだし人助けだと思って! 痛いかもしれないけど、1枚あげるだけで村の人は助かるはずなんです!」
鱗1枚、されど1枚。
剥がすのは痛いはずだ、人間で言うなら爪を剥がすようなものだと思う。想像しただけでも手が痛くなってきた。……とにかく、ドラゴンにとって鱗も体の一部。そう気軽にあげられるものじゃないのは分かっている。カオスはたぶん分かっていない。
「人助け? 吾輩の鱗で?」
「はい。……ダメ、ですか?」
真剣に頼んでからロックドラゴンは無言で俯く。
やっぱりダメなのかな……。
ママが言っていたけどエルバニアの王都には鱗のアクセサリーが売っているらしい。つまり親切に、痛い思いをしても剥がしてくれるドラゴンがいるってことだ。私の頼みは非常識な頼みじゃない。きっと応じてくれる……と、思っていたんだけどな。
「ふふ、ふふふふふふ」
いきなりロックドラゴンが笑いだす。
笑いは長引いて高笑いへと変わる。心が動いたのかも。
「お前達は本気で言っているのか? 無知というのは、人間というのはこれだから悍ましい。妬み、恨み、平気で嘘を吐く。やはり人間とドラゴンが対等な今の世は間違っている」
え、どういうこと? ごめんなさいちょっと意味が分からないです。




