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25 新たな依頼


 オーガとの遭遇から2日後。

 あの日、私はクリスタに乗ってエルバニアに戻って来た。重傷で動けないバンライさん、魔法を多用して疲労が溜まったミレイユは共に持ちドラであるウィンドドラゴンに乗せてもらっていた。


 ゴブリン退治の依頼は達成したものの私達3人は満身創痍。

 慌ててギルドに戻ったら予想通り、特にバンライさんは出血が酷かったから心配された。冷静な人達が治癒院へ連れて行くのを私達も追いかけてたっけ。


「心配だけど、仕事しないとお金がなくなっちゃうし……。あー、今日もお見舞い行きたかったなあ」


 私は宿屋『小さな栄光』で休んでから、クリスタを迎えに行ってギルドへ向かう。

 今もミレイユは治癒院に行っている。実は未だにバンライさんの意識が戻ってない、体は回復していってるらしいけど。……今日には起きてくれればいいな。


 私もお金に余裕があれば今日も見舞いに行ったはず。そう、余裕があれば。

 3人で分けたゴブリン退治の報酬があるとはいえ、分けているからこそあっさり宿代に消える。もっと仕事をこなして収入を安定させないと。


 服とか小物とか買いたいものは山ほどあるのに今のままじゃずっと買えない。近い内せめて服だけでも買いたい。今の私って今日着てる薄緑のブラウスと、昨日着てた水色の花柄ワンピースを着回している状態だし、スカートも同じく二枚のみ。


 これ女の子として終わってるよね私。みんなもっとお洋服持ってるよね。


 服が多すぎると荷物になるから王都移住の際には置いてきた。だけど考えてみれば私の家はなくなったわけじゃない、いつでも今まで着ていた服を取りに行けるんだ。新しいお洋服も着てみたいけど金銭問題が解決しない内はしょうがない。今度服を取りに帰ろう。


「お金、お金か……。1人で暮らすって大変だなあ。ね、クリスタ」


 横にいる丸みを帯びた青白い体のドラゴンが「クルウ」と鳴きながら頷く。

 1人でお金を稼いでいたママは凄かったんだ。道ですれ違うあの人も、あの人も、あの人も自分で稼いで暮らしているのは凄いし尊敬出来る。私も頑張ろう。


 これからに向けて奮起しながら歩いていると、エルバニア北東に聳え立つ塔が見えてきた。横に広い円柱状の建物こそがギルドだ。最初は何度も迷いそうになったけど今はもう道憶えてるから大丈夫大丈夫。


 あれ、ギルド前で……女の子が男の人と言い争ってる?

 可愛い娘だ。腰まで伸びた長い銀髪がキラキラしてる。左右で眼の色が違う、赤と青なんて初めて見た。苛ついている表情でもまるでお人形さんみたいに綺麗。


「だーかーらーオレもこれから依頼だっつってんだろ! テメエらみてえな野郎と仲良くするつもりはねえし、雑魚の男と組むこともねえんだよ! 消えろ!」


 言葉遣いは全然可愛くなかった。

 何か、想像してたのと違う。もっとこうお嬢様っぽい……ああそうだ、ミレイユっぽい喋り方を想像していたのに。見た目と言動のギャップが激しすぎるよお。


「うーん、困ったな。ソロじゃ絶対に壁にぶち当たるよ?」


「雑魚ならな。オレは強い、最高に強い、壁なんざねえくらいに強い。超絶美人であるこのオレとお近付きになりてえ気持ちは分かるが、チームにはゼッテー入んねえかんな! 下心透けて見えんだよバーカ!」


 すっごい自信家。見習いたい、あの自信。

 銀髪オッドアイの女の子が「来い、ブラド!」と叫んだら赤い体のドラゴンが急降下してきた。着地と共に地面が揺れる。瞳も体も赤いドラゴンに飛び乗った女の子は、そのままどこかへ飛び去ってしまった。


 か、かっこいい……。なんて言うドラゴンなんだろう。

 大きさはクリスタと同じくらいか。雄々しいって感じでかっこよかったなあ。一回でいいからあんなドラゴンにも乗ってみたい、あの女の子とは今度会ったらお話してみよう。上手くいけばお友達になれるかもしれない。


「あのドラゴン、かっこよかったね」

「クルルル……」


 目を輝かせて横を見るとクリスタがしょんぼりしていた。

 え、ちょ、もしかして落ち込んだ!? 私が他のドラゴンをかっこいいって言ったから落ち込んだの!? ミレイユ達の持ちドラにも言ったけどあの時はいなかったしなあ……っていやいや思い出している場合じゃない。


「だ、大丈夫だよクリスタ! クリスタは、か、か、可愛いから!」

「クウ……?」

「ほんとに可愛いってば! 戦う時はかっこいいし!」


 凄い、言語は分からないのに何思ってるのか分かっちゃった。

 ま、まあ、かっこいいって言葉を聞いて元気出してくれたみたいだし良かった。クリスタがしょんぼりしたまま飛ぶのはちょっと、落ちたりしないと思うけどやっぱり怖いし。


 そういえば結局何を言い争っていたんだろう。

 ソロだと危ない、チームを組まないって言ってたっけ。あの銀髪オッドアイな女の子がソロでいるから危ないって話かな。もしよければ私が組みたいな。……チーム、チームか。今まで思い付きもしなかったけど自分で作るってのも楽しそうだ。


 とりあえず今は依頼依頼。仕事仕事。

 ギルド内に入ったら真っ先に向かうは右奥側のカウンター。顔が怖い人達が多い中では目立つ長い黒髪の美人女性がいるため、依頼受注専門受付嬢である彼女の前に立つ。

 未だに視線を感じ続けるギルド内は若干居心地悪いな。


「あの、Dランクで受けられる依頼ありますか?」


 受付嬢さんが「それでしたら」と言って紙束を渡してくる。

 依頼書だ、たぶん私が受けられるやつ全部。カウンターの上だと私が見辛いから直接渡してくれたんだ。早速見ていこう。


 討伐依頼は聞いたことのないモンスターばかり、採取依頼も知らない物を持って帰ってこなきゃいけない。共通しているのはどちらもエルバニア領内ってところか。領内ならクリスタに乗れば一時間しないで行ける。


 うーん、ワイドウルフとかゴブリン退治もいいけど報酬がなー。

 今の私なら1人でも何とかなると思うし、危ない時はクリスタがいる。ただ報酬は精々宿屋代数日分ってところだ。どうせ受けるならもっとお金が貰える仕事がいい。……となれば採取は論外。上のランクは知らないけど、Dランクの依頼だと基本的に討伐系の方が報酬は高い。やっぱり命の危険があるからだろう。


「……ん? あの、これってやけに報酬がいいですね」


 えっと、ロックドラゴンの鱗一枚の採取……若い女性限定?

 場所はエルバニア北西にあるイエ村。近くに高い山があって、その頂上を住処としているロックドラゴンから鱗を一枚貰い、依頼人に渡す。それだけなのに討伐依頼より遥かに高い報酬。女性限定なんて気になる条件はあるけど魅力的な仕事だ。


「はい? ああ、そちらですか。達成報酬はCランクの依頼を超える額なんですが人気ないんですよ。若い女性限定なんて怪しい条件を警戒して誰も受けないのです。もう少し待って誰も受けなかったら条件の見直しを依頼人にお願いしようと思っていたのですが」


「私が受けます! 出来ればロックドラゴンについて教えてください」


「そうですか、こちらとしてもありがたいです。では説明を」


 ロックドラゴンは岩山に好んで住む体の硬いドラゴン。

 主食は主に石や砂、肉食でもあるから過去に人間が食べられたケースも存在。普段はメノッカ地方にあるケノルボ王国付近に生息している。性格は大人しめな個体が多い。水属性攻撃に弱いらしいけど私は使えないから関係ない。それに討伐しに行くわけじゃないんだ、弱点や耐性なんてどうでもいい。


 ふふふ、これを達成出来たら新しいお洋服も買える……余れば他にも。

 いやいや、やっぱりバンライさんへの見舞い品でも買おう。昨日とか何も持って行けなかったし見舞い品はあった方がいいでしょ。よし、パパッと終わらせて早く帰ってお見舞いに行こう。


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