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最終話 因縁の決着、新しい目的


 水晶が、黄金の光が、岩石が、マグマが、2本の水流が一斉に放たれてゴマを襲う。

 凄まじい威力のブレスは1つとなり、大地を大きく抉りながらゴマを吹き飛ばした。


 とんでもない威力だ。し、死んでないよね。

 ケリオスさんの仇とはいえ人殺しは嫌だから殺すつもりないんだけど。


 ブレスで大地に刻まれた破壊の痕を辿っていくと……居た。

 瀕死で動けないっていうか気絶しているな。

 起きたら回復アイテムを使うだろうし、クリスタに手足を押さえてもらう。


 私、勝ったんだな。

 倒れているゴマを見下ろしていると実感が湧く。

 ケリオスさんを殺されてからずっと、ゴマを倒すことを考えて夢にまで見ていた。私の目標だった。それも、もう終わったのか。


 あ、誰か来たな。2人の男女。あれはピースさんとアメジストか。

 私の傍に下りて来た2人はとても驚いて目を丸くしている。


「……信じられない。まさかゴマを倒せる人間が居るとは」


「バニア、君がやったのか?」


「はい。集まってくれたドラゴン達のおかげで勝てました」


「そうか、ライダーの特性〈共闘倍化〉。この世界だと制限なく強くなれる。しかし絆は必要不可欠。良い友達を持ったようだね」


「はい!」


 みんなが来てくれなきゃ私は死んでいた。感謝してる。

 私は本当に良い友達を持った。今回の勝利は友情のおかげだね。


「ヒューマンの小娘、この男を殺さなくていいのか?」


「正直、殺した方がいいのは分かっているんです。こいつはこの世界から消えた方がいいって。……でも、私はもう誰も殺したくないんです」


「なるほど、其方の考えは理解した。ゴマの処遇は妾に任せてくれ。この男にはまだ、やってもらうことがあるからな」


 やってもらうこと? 何のことだろう。

 まあ、何でもいいや。私のすべきことは終わったんだから。

 ゴマのことはアメジストに任せよう。


「私、エルバニアの町に戻ります。争いを止めないと」


「其方の出番はないかもしれぬぞ。この男が居るからな」


 ……ゴマにやってもらうこと、分かったかも。

 作戦が上手くいけば確かに私の出番はないや。


 私はクリスタ以外のドラゴンと別れて、ピースさんやアメジストと一緒にエルバニアへ戻った。攻めて来たドラゴニュートとドラゴンのリーダーであるゴマは私が倒したけど、戦いは終わっていない。


 町は酷い有様だ。あちこち破壊されていて、多くの人間が倒れている。

 タキガワさんもカオスもきっとまだ誰かを助けるため戦っている。

 2人だけじゃない。ギルドや兵士団の人達が必死に戦っている。

 こんな争い、早く止めなきゃいけないよね。


「アメジスト」

「分かっておる」


 ピースさんが名前を呼ぶと、アメジストは掴んでいたゴマを高く持ち上げた。


「聞けえええリュウグウの民よ! 其方達はもう戦わなくてよい! この通り、ゴマは敗北した! この争いはリュウグウの敗北、即刻戦いを止めよ! 妾達の国に帰るのだ!」


 リュウグウから来たドラゴンとドラゴニュートが戦いを止める。

 もしかしたら彼等はゴマを恐れて従っていたのかもしれない。もしくはゴマに打ち勝つ人間が居るとは思わず、驚愕と絶望で動けなくなったのかもしれない。どちらにせよ、ゴマが倒れたとなれば彼等が戦う理由はないんだ。


 想像通り、アメジストの言うゴマにやってもらいたいことはこれか。

 始まってしまった戦いを終わらせることこそ役目。

 すぐ終わらせられる可能性を持つのは、集団を率いるリーダーだけだもんね。



 *



 リュウグウから来たドラゴンとドラゴニュートはアメジストに従い、国へ帰っていった。争いは終わり、あと今日やるべきことといったら、首謀者の処遇を決めることくらいだ。


 今、エルバニアの王城前でチーム『のんぷれいやー』、ピースさん、アメジスト、エルバニアの王族でゴマをどうするか話し合っている。でも、どうするべきか意見が分かれてしまい中々決まらない。


 王子様やカオスはゴマを即刻処刑派。

 私とタキガワさん、そしてアメジストは牢に捕らえる派。

 ピースさんとギルザード様は中立で答えを出していない。


「なぜ生かす必要がある! この者のせいで町も民も甚大な被害を受けたのだぞ!」


「そうだぜ。世の中には死んだ方がいいやつだって居るんだ。こいつみたいにな」


「妾も其方等と同じ考えだが、ゴマに勝利したのはこの小娘よ。決める権利はこの娘にある」


 話し合っていると、今まで気絶していたゴマが目覚めた。

 まずいんじゃないかな。大ダメージを負っているとはいえ力は出せる。魔法を1発でも放てば辺り一帯を消し飛ばすことも出来るんだその男は。ピースさんが対策として手錠を掛けているけど不安だよ。手錠なんて壊されちゃうんじゃないかな。


「……ここは? む、これは手錠? ああそうでした、私は負けたのでしたね。まさか生かしてくれていたとは驚きましたよ。私を殺さなかったことを後悔させてあげましょう」


 やっぱりゴマは手錠を壊そうと腕に力を入れている。

 あいつの強さなら鉄なんて簡単に千切ってもおかしくないぞ。


「おや?」


 あれ? おかしい、手錠は壊れそうにない。

 あの手錠は鉄製じゃなくてもっと頑丈な素材で作られているのかな。


「……まさか、まさかこの手錠は……『縛りの錠』では!?」


「バニアちゃん、あいつのステータスを見てみなよ」


 ステータスを? まあ、タキガワさんが言うなら見てみるか。


「〈アナライズ〉」


 【名 前】 ゴマ

 【レベル】 1(縛り中)

 【ジョブ】 アルティメットメイジ

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【生命力】 14/180

 【魔法力】 228/228

 【攻撃力】 120

 【守備力】 80

 【聡明力】 153

 【抵抗力】 76

 【行動力】 64

 【ラック】 2


 【持ちドラ】 なし



「レベル1……? な、何が起きたの?」


 おかしいぞ、ゴマのレベルは100を超えていたはずなのに1だなんて。

 ステータスの数値も低い。これなら私、指1本で勝てちゃうかも。


「あの手錠は『縛りの錠』って名前でね。自分じゃ外せない呪いの装備品なの。身に付けたらレベルは1で固定されて、当然ステータスもレベル1の時のもの。ジョブの熟練度は変わらないけどね」


 なるほどね、そんな便利な装備品があるとは驚いたよ。

 レベル1に固定されるってことはレベルアップもなく、ステータスは変動しないってことか。これなら暴れても無意味だね。手錠も簡単には破壊出来なさそうだから安心出来る。


「あ、ありえない。弱いゴマなどありえてはいけない。……く、くそお。くそおおおおおおおおお!」


 ショック受けてるなあ。でもそれが報いだよ。

 悪いことをしたら、いつか自分にとって悪いことが起きるんだから。


「バニアよ」


 ギルザード様が呼んでいる。


「はい」


「この者を生かし、牢に捕らえておく。本当にそれでいいのだな?」


「はい。自分のためですけど、甘くはないと思います。ゴマにとっては死ぬより辛いでしょうから」


 強さに自信を持っていたゴマからすれば、弱体化した状態でずっと囚われの身なんて最悪なはずだ。最悪な拷問だ。きっと反省はしない。死にたくなるほど辛い思いをしながら過ごすだけだ。今まで苦しめてきた誰かの辛さを味わい、少しでも理解してほしいな。


「まさか父上」


「うむ。余はバニアの意見に賛成……いや、アメジスト女王の意見に賛成する。この者を捕らえられたのはバニアのおかげなのだ。この者の生死はバニアに委ねようではないか」


「……分かりました」


「兵士達よ、この者を牢へ連れて行け」


 意気消沈したゴマは兵士に牢へと運ばれていく。

 強大な敵だったのに最後は情けない姿だったな。




 * * *




 ゴマとの因縁が決着した翌日。

 私達チーム『のんぷれいやー』は町の復興作業に勤しんでいた。

 今はギルドで働くよりも、町の人達を手伝って町の修復を急がなきゃね。

 ミレイユ達も、他のギルドの人間も復興の手伝いをしている。

 みんな早くエルバニアの町を元の風景に戻したいんだ。


「そういえば、バニアちゃんって今後の目的とか決めてるの?」


 瓦礫を運びながらタキガワさんがそんなことを言う。


「ほら、ゴマを倒すって目的は達成したわけじゃない。大きな目的を達成したら燃え尽きちゃう人が居るし、次の目的を考えた方がいいと思うのよ」


 燃え尽きるって……怖いな。


「ギルドで働く理由がなきゃやる気出ないでしょ」


「え、バニア、ギルド脱退したりしねえよな?」


「ないって。安心してよカオス」


 確かに私がギルドで働いていた理由はゴマの情報収集、ナットウ君の捜索、そして自分が強くなるためだ。既に全ての目的を達成している。


 ただ、目的を達成したからといってもギルドを辞めることはない。

 お金を稼ぐのは大事だし、ギルドでの仕事は好きだからね。


「実はね、あるんだよ。やりたいこと」


「あるの?」

「何だよ教えろよ」


 まだ森に住んでいた頃、私は夢を持っていた。


「この世界にある色々な国に行ってみたいの」


 世界を旅したいんだ。色々な国、素晴らしい景色を見て回りたい。この世界に存在するドラゴン全てに会ってみたい。ギルドの仕事は遠くへ行けるから、私の目的を達成するのに丁度良いんだよね。


「今までに行った町、ザンカコウ、スイリュウ、ゴールドス、フォレスディア。どこも楽しい場所だった。私とクリスタ、出来るなら私達全員で世界中を見てみたいな」


「いいね、私もバニアちゃんと色々な場所へ行きたいよ」


「オレもオレも」


「ありがとう2人共。よーし、早く復興終わらせて世界を見に行こう!」


 純粋に世界を楽しむ。今生きている、この世界を。

 思えばケリオスさんとの出会いが全てを変えてくれたんだな。

 あの人に会わなかったらきっと私はまだ森に1人で暮らしていた。

 当然今傍に居る仲間や、今まで関わった人達と会うこともなかった。

 あの人との出会いこそが私を旅立たせてくれたんだ。


 もし天国から見ているのならずっと見守っていてね。私の旅、私の夢を。














 ついに最終話。ここまで見てくれた方、ありがとうございます。

 元々はVRMMOが流行っていた時に書き出したもので、でもMMOとか経験ないから上手く書けないし、ゲーム内転生もありきたりだなと思った結果、この作品が生まれました。


 実は当初バニアとケリオスの出会いと別れ、最後にゴマを倒すってことしか決まっていない状態で書き出していました。最初の時点だとミレイユも存在していなかった。なんなら重要ポジションのナットウ君やピースさんすら存在していなかった。バニアが王族? 何それ? リュウグウがゲームにはなかった国とか土壇場の思いつきでしたね。そんなんでよくここまで書けたなと思っています。


 バニア達にはこれから自由に仕事しながら他の国に行って、のんびり過ごしてもらいたいな。

 それでは皆様、またどこかでお会い出来ることを祈っています。


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