108 VSゴマ
ガネシアが協力してくれるから〈共闘倍化〉によりステータスはさらに2倍。
これが今の私のフルパワー。ここまで強くなったんだ、絶対に負けられない。
「ほっほっほ。あの時と同じ状況を再現するとはね、面白い」
「私と戦いたいんでしょ、なら付いて来い! クリスタ、エルバニアから離れて! トップスピード!」
クリスタに頼んでエルバニアの町から離れてもらう。
町の上空とはいえここで戦ったらまずい。
攻撃が下にいっちゃったら大惨事になる。
万が一を考えて戦闘は町から離れて行った方がいい。
さすがにクリスタのトップスピードは速いな。もう城下町が拳サイズだ。
よし、ゴマもガネシアもちゃんと付いて来ているな。
町からは十分離れたしそろそろいいだろう。
……クリスタ、止まる気配ないな。
森を越えてもクリスタは止まらない。どこまで行く気なんだろう。
もう止まっていいよって言った方がいいのかな。行き先指定していないし。
考えているとクリスタがやっと止まってくれた。
真下には見覚えのある風景が広がっている。
草木一本生えていない少し暗めの赤い大地。横幅500メートルくらいはありそうな亀裂があり、視界の先まで伸びている。この場所はまさか、あの時と同じ場所。
「おや? ここは終末の谷。なるほど、ケリオスの死したこの場所を墓場に選んだわけですか。こういう展開も好きですよ私は」
「クリスタはそんなつもりでここへ来たんじゃないよ。見せたいんだケリオスさんに、お前を倒す瞬間を。そうだよねクリスタ」
「クルルゥ?」
うん? いや、クリスタ自身もここへ来た理由が分かっていないっぽいな。
そうか、クリスタは記憶を奪われてケリオスさんのことを覚えていない。仮に私が言った通りの理由でここへ来たとしても、それは何となくでしかないんだ。魂に刻まれた想いが体を無意識に動かしたのかもね。
「さて、では始めましょうか」
ゴマが突進して来た。速い。
「クリスタ上昇! ガネシアは隙を見てサポートお願い!」
一先ず上に逃げる。あの速さに対抗するには距離が必要だ。
「〈マグマボール〉」
ゴマの傍に巨大な火球が生まれて、指を動かせばその方向へ飛ぶ。
巨大火球が真っ直ぐ私達の方へと来ている。
逃げても逃げても追って来る。追尾は厄介だな。
「クリスタ、ブレス!」
大きな水晶をクリスタが大量に吐き出す。
巨大火球に水晶が当たっては一瞬で溶けて、水蒸気のような煙が出る。
何度も水晶がぶつかって巨大火球を削っていき、間近に迫る頃には消し飛ばせた。……だけど、煙邪魔だな。ゴマがどこに行ったのか分からない。
げっ、煙からゴマが出て来た! 目の前!?
まずいよ殴られる。ゴマは魔法メインで戦うジョブのはずなのに攻撃力が高い。私の守備力をかなり上回っているから、私とクリスタどちらが喰らっても大ダメージ確実。
「〈プロテクト〉、〈心身金剛〉! ぐうっ!?」
殴られた、けど大したダメージはない。
まずは〈プロテクト〉で味方のダメージを全て私に、今の場合はクリスタのダメージを私に移す。そして〈心身金剛〉で受けるダメージを8割カット。これならどんな攻撃が来てもダメージを最小限に抑えられる。
「〈ディフェンスアタック〉!」
「スキルの使い方をよく分かっていますね。お仲間からの知恵でしょうか」
くそっ、躱された。やっぱり速い。
「ブレス!」
クリスタのクリスタルブレスを至近距離から放つ。
「当たってあげませんよ」
むぐう、優雅に躱してくれるな。
クリスタの援護でガネシアも黄金のキラキラしたブレスを放つ。
行け、躱されたなら当たるまでブレスを吐き続けるんだ。
2種類のブレスから逃げ回らなきゃいけないゴマは疲れるのか、時々ブレスが掠っている。当たる、当たるぞ、もう少しで直撃する。よし挟み撃ちで逃げ場が少ない。
「〈物魔防壁〉」
くっ、透き通った青色の壁にブレスが防がれた。
「ほぅわ! 〈デスフレア〉!」
黒い炎が私達とガネシアの方に飛んで来る。
広範囲を燃やす炎みたいだけど距離が開いていれば余裕で躱せる。
「〈聡明力覚醒〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉、〈デスフレア〉」
なっ、連発!? いやそれよりも明らかにさっきより炎がでかい!
逃げ場がない。ここは受けて耐えるしかない。私ならやれる。
「〈プロテクト〉、〈心身金剛〉! うわああああああああああ!」
「おやおや、全てを受けるとは愚かな」
熱い、肌が焦げる、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
息が上手く出来ない。苦しい。死んじゃう、かも。
うう、ようやく黒い炎が消えてくれた。とんでもない威力だった。
「スキルの選択を誤りましたねバニア」
ゴマっ、目の前!? そうか、黒い炎は視界を遮る役目もあったのか!
「心身金ご――」
「手遅れです」
「ごふっ!?」
いっだい……私、蹴り飛ばされたのか。
それよりもまずいぞ、クリスタからどんどん遠ざかっていく。
真下は終わりの見えない谷。飛べない私は落ちたら助からない。
「死なせんよ」
「ガネシア……!」
谷に落ちる前にガネシアが助けに来てくれた。
よし、ガネシアの背に乗って戦いに戻ろう。
「〈デンジボルト〉」
上空から無数の雷がクリスタへと降り注ぐ。
あ、暴れている。クリスタが苦しそうに暴れている。
「クリスタあああああああああああああああ!」
「いかん、瀕死だぞ!」
落雷は終わったけどクリスタからは力が抜けちゃっている。
ゴマがクリスタの顔を鷲掴みにしたから落ちずには済んだ。
助けてくれた……そんなわけない。
もっと酷いことするつもりに決まっている。
「突っ込むよガネシア。〈超突進〉!」
スキルによる急加速の突進。ゴマへと直進して突っ込む。
さすがのゴマもこの攻撃スピードには対処出来ない。
ガネシアの頭でゴマを突き飛ばしてそのまま突進し続ける。
勢いが消えるまで、どこまでも行けえええええええええ!
「ぐおおおおお!? こ、この、小娘がああああ!」
お、押さえ込まれた。ライダーの大技なのにあまり効いていない。
私はガネシアと一緒に投げられて、体勢を立て直す前に殴り飛ばされた。
ぐうっ! 地面に激突した。谷の隙間には落下しなくて不幸中の幸いか。
近くにはクリスタとガネシアが倒れている。どっちも全く動かない。
し、死んでいないよね? 動いて、ほんの少しでもいいから動いてよ。
「……バッドエンドですね。〈マグマボール〉」
巨大火球が落ちて来る。体は上手く動かない。
死ぬ。私、ここで死ぬんだ。ごめんみんな、私じゃゴマに勝てなかったよ。
目を瞑って死を覚悟する。ケリオスさん、あなたと同じ所へ行きます。
……あれ、おかしいな。何秒経った?
とっくに全身が焼けてもおかしくないのに何も変化がない。
恐る恐る目を開けてみると、目の前にはいつの間にか岩が置かれている。
いや、よく見たら岩じゃない。岩のようにゴツゴツな体と鱗……まさか。
「ロックドラゴン!?」
かつてイエ村をモンスターから守っていたドラゴンだ。
ゴマの誘いに乗ってリュウグウへ行ったはずのロックドラゴンが、目の前に立っている。大きな背を向けているし私を庇っているのか。さっきの〈マグマボール〉から助けてくれたのか。……どうして。
「何のつもりです? あなたは侵略に参加しないと言い、リュウグウに残っていたはず。なぜこんな所にまでやって来て、バニアを庇うのです? あなたは人間と関わるのが面倒になったのでしょう?」
「人間との関わりが面倒なのは変わらん。だがな、面倒だからといって人間を見ないわけではないぞ。吾輩がリュウグウで暮らしやすいようアメジストは協力を惜しまなかった。一方貴様はアメジストの味方をするドラゴンを殺した。吾輩は貴様が支配するリュウグウに留まるつもりはない」
「そうですか。で、バニアを庇う理由は?」
「貴様より好感が持てるからだ」
ロックドラゴンはゴマが気に入らないから、ゴマと戦う私を助けてくれたんだね。
「ありがとう、ロックドラゴン」
「ほっほっほっほ。あなたがバニアの味方をしたところで私に勝てるとでも?」
ロックドラゴンが味方してくれたら〈共闘倍化〉により私はさらに強くなれる。
勝てるかは分からない。だけど、今までよりステータスがゴマに近付く。
「この娘を助けに来たのは吾輩だけではないぞ」
どういうことだ。味方はロックドラゴンだけじゃないって。
「……何ですって? む!?」
うわっ、上からマグマが降ってきた!
ゴマは危険を察して避けたからノーダメージだ。当たれば良かったのに。
しかし、このマグマはどこから来たのかな。火山なんてこの谷にはないぞ。谷から1番近くの火山が噴火したとしても、谷までマグマが来ることはない。来ても火山灰だろう。
今度はズドンッと私の傍に1体の赤いドラゴンが落下してくる。
炭のように黒い目。半分溶けかけのような鱗。この姿、忘れるはずがない。
「ああ! ま、マグドラゴン!」
「約束したな、困っている時は力になると。今がその時だと思い駆けつけたぞ。ところで同じ目的なのかは知らんが、途中から我に付いて来たドラゴンが居るのだが」
マグドラゴンの横に新しく水色のドラゴンが降り立つ。
ウォータードラゴンだ。背中にはまだ小さな赤ちゃんが乗っている。
「ミズハ! 赤ちゃん産まれたんだね、元気そうで良かったよ」
赤ちゃんが産まれるまでミヤマさんに預かってもらったけど、無事に産まれたようで本当に良かったな。ウォータードラゴンの赤ちゃんは小さくて可愛いなあ。眺めるだけで癒やされる。
「みんな、力を貸してくれるの?」
ロックドラゴン、マグドラゴン、ミズハが頷く。
クリスタとガネシアが立ち上がって他のドラゴンの横に並ぶ。
「ありがとう、みんな」
【名 前】 バニア
【レベル】 59
【ジョブ】 ライダー・ガーディアン
【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【生命力】 35840/560
【魔法力】 14720/230
【攻撃力】 17856
【守備力】 32320
【聡明力】 14080
【抵抗力】 30976
【行動力】 34432
【ラック】 4160
【持ちドラ】 クリスタ(クリスタルドラゴン)
【仮契約】 財宝竜ガネシア
ロックドラゴン
マグドラゴン
ミズハ(ウォータードラゴン)
ウォータードラゴン
「な、何ですかそのステータスはあ! ありえない! バグ、いやチート!」
「訳分かんないこと言わないで。ドラゴンとの絆だよ」
信じられないくらいの力が湧き上がってくる。
ライダーの特性〈共闘倍化〉により、ステータス……64倍。
圧倒的な強さ。これならゴマを倒せる。負けるはずがない。
「みんな、一斉にブレス!」
水晶が、黄金の光が、岩石が、マグマが、2本の水流が一斉に放たれてゴマを襲う。
凄まじい威力のブレスは1つとなり、大地を大きく抉りながらゴマを吹き飛ばした。