106 動き出したゴマ
「と、突然の話なのですが、とある者達がギルザード様への謁見を求めています。天空都市フワリアの長老会一員であるピース様と……リュウグウの女王、アメジスト様が城の前に現れました」
ピースさんと……アメジスト!? リュウグウの女王!?
どうして2人が一緒に、エルバニアの王城へ来ているんだ。
予想外の事態と組み合わせで玉座の間に居る全員が困惑している。
「ピースってフワリアで会った奴だよな。偉い奴だったのか」
「そうみたいね。様付けされてるし」
「ただの訪問ではなさそうだな。父上、バニア達を下がらせますか?」
えっ、それは困るよ王子様! 私だって話を聞きたい。
ピースさんとアメジストの関係は知っているんだ。
疎遠になった事情も聞かされている。
私だって関係者と言っていいんじゃないかな。
何が起きているのか私にも知る権利はあるはずだ。
ギルザード様、お願い。私だけでもいいからこの場へ残らせて。
「……いや、同席させよう。ただし部屋の隅でだ。バニア、それで構わないな」
「ありがとうございます。問題ありません」
よし、私の意思が伝わったみたいだね。見つめる作戦成功。
「お2人を連れて参れ」
「はっ」
門番の兵士さんが大慌てで玉座の間から出て行き、2人を連れて来る。
白い翼が背中から生えた翼人の男性、ピースさん。再会は早かったな。
隣に居る女性がアメジストか。薄紫色の肌に紫の鱗、オレンジの長髪。
目にするのは初めてだ、綺麗な人だな。
あの人がリュウグウの女王。あの人の国にゴマが居る。
今日はアメジストがどういう人物か見極めるチャンスになるな。
女王だろうが何だろうが地位は関係ない。
もし悪人だった場合は倒して……メテオラさんのように牢屋へ送る。
「おや、失礼。先客が居たようですね」
あ、ピースさんが私達に気付いて軽く手を振ってくれた。
「先程話し終えたところだ。それよりもピース長老、アメジスト女王、珍しい組み合わせだが何の用件でやって来られたのか。重要な用件なのではないか?」
「ええ。アメジスト、君から全てを話してくれ。僕は付き添いだからね」
「分かっておるわ」
ピースさんはただの付き添いなのか。でも、どうしてだろう。
「まず、ギルザード王。妾は既に女王の立場を奪われた身、もはやリュウグウの女王ではない。今はただのアメジストと呼ぶがいい」
とんでもない発言に全員が驚いて目を丸くする。
女王の座を奪われたって……誰に。ああ疑問が次々出て来る。
「……女王の立場を奪われた、か。リュウグウで何が起きたのだ」
「ゴマという男の企みで妾の味方は消え、妾は殺されかけた。ピースが貴重な薬を使ってくれなければ今頃死んでおっただろう。奴は世界中の国々に戦争を仕掛けるつもりだ。放置すればエルバニアも他の国も奴が奪い取る。妾はそのことだけ伝えに来た」
……ゴマ、派手に動き出したな。
目的はいったい何だろう。国の支配? 人間の虐殺?
はっきり言えるのは絶対碌でもない目的ってことだ。
やっぱりあいつは許せない。早めに誰かが、私が倒さないと。
「貴重な情報提供感謝する。やはり戦になってしまうか」
「ふん、何を被害者ぶって話しているんだ元女王」
強い口調で王子様が言い放つ。
「父上、感謝などする必要はありません。リュウグウに不穏な動きがあるのは以前から分かっていたことでしょう。王の座を奪われていなければ、この女が軍を率いて攻め込んで来たに違いない」
「止さぬかローゼウル。本人の前でそのようなことを言うな」
まあ、王子様の言う通りではあるね。
殺されかけたといってもアメジストは完全な被害者じゃない。
元々戦争の準備をしていたのはアメジストなんだから。
……そう考えると、アメジストはなんで戦争のことを教えてくれたんだろう。
自分が主導していないとはいえ、自分のやりたかったことはゴマが引き継ぐんだよね。わざわざ戦争の情報を教えてもメリットはないんじゃ。寧ろ、自分の目的の邪魔を自分でしているんじゃないの。
「あの、1つだけ訊いてもいいですか」
「……何だ小娘」
小娘って。いや今はそれについて何も言わないでおこう。
「どうして戦争のことを教えてくれたんですか? 黙っていればあなたの望み通りになるのに」
「妾の望みは愚かな種族の束縛からドラゴンを解放すること。その目的は誰が果たしても良かった。しかし、ゴマはドラゴンにも同族にも優しさがない。奴は妾から女王の座を奪うために、妾の味方で居続けたドラゴンとドラゴニュートを殺したらしい。ゴマを自由にさせておくのは妾にとって害にしかならぬ」
ドラゴンを殺した? そうか、殺したのか。
あいつ、越えちゃいけない線を踏み越えたな。いや既に踏み越えていたのか。
人間だけじゃなくドラゴンすら殺すなんて絶対に許されない行為だ。
あいつを自由にさせたら害になるっていうのは完全に同意だね。
「愚かな種族っていうのは?」
「ドラゴニュート以外の人間だ。ドラゴンを傷付ける、愚かな存在。妾は――」
突然、ズゴゴゴゴンと凄く大きな音がした。
え、天井に亀裂が入って……崩れる! 逃げ場はない!
「クルルルウ!」
瓦礫となって落下してきた天井からはクリスタが守ってくれた。
咄嗟に庇ってくれるのは嬉しいけど大丈夫かな。
瓦礫の量はかなり多い。背中が痛くなっているはずだ。
ドラゴンは頑丈だと分かっているけど一応回復スキルを使ってあげよう。
「〈応急手当〉。クリスタ大丈夫? 背中痛いでしょ」
「クルルル!」
「そっか平気か。でも一応回復ね」
クリスタの協力もあって私は無傷のまま瓦礫の山から脱出する。
瓦礫を退かして出てみれば真上に見えるのは綺麗な青空。
天井がない。酷い有様だ。どうしてお城がこんなことに。
「はっ、み、みんなは!? みんな無事!?」
「オラアアア! このオレが潰れると思ったか!」
瓦礫からカオスとブラドが出て来た。元気そうで良かった。
他のみんなも次々と瓦礫から出て来る。
タキガワさんは私同様持ちドラに守られたみたいだね。
ギルザード様と王子様は兵士さん達に、アメジストはピースさんに守られたのか。
庇った人や持ちドラは少し怪我をしているみたいだけど軽傷だ。
お城は半壊しちゃったけど……って、いったい誰だお城を壊したのは。
半壊とか絶対に事故じゃないでしょ。お城を攻撃した犯人が絶対どこかに居る。
「えー、エルバニアに住む皆さん聞こえますか? 私はゴマという者です」
ゴマ!? どこから声が!
「みんなあそこを見て!」
タキガワさんが指す方向に目を向けると、大勢のドラゴンとドラゴニュートの集団が空を飛んでいるのが見えた。エルバニア城下町の入口上だ。
遠いから小さくて見えづらいけどあの集団の中にゴマも居るのか。