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104 強い忠誠心


 私はこまめに〈ディフェンスアタック〉を使いつつ短剣で攻撃。

 ジミーが大技を繰り出してきたら〈心身金剛〉でダメージカット。

 ジミーからの打撃は基本防御と回避。行動力は私が上だから難しくはない。

 まるで作業のように、どちらかが倒れるまで同じことが続いた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「……ぐうっ……限界、か」


 先に倒れたのはジミーだった。

 私は息を整えながらジミーを見下ろす。


「ふうううぅ……私の、勝ちだね」


「……ああ、俺の、負けだ。やはり脅威だな貴様は」


 勝ったのはいいとしてジミーをどうしよう。

 ゴングの時は憎しみのあまり殺しちゃったけど、もう誰かを殺すのは嫌だ。

 生かしたままギルドへ引き渡す……いや、兵士団の方がいいのか?


 いやでもジミーが犯罪者って証拠はないしなあ。人殺しだって証明出来れば牢屋へ入れられるけど、ケリオスさんを殺したのはゴマであってこいつじゃない。だいたいあの時のことを知っているのは私くらいだ。私1人の証言で投獄出来そうにないよなあ。


「ぐっ、ううっ」


 ジミーが右手を動かしている。体は限界だろうに無茶をする。

 ああほら、体中にある裂傷からの出血が酷くなってるじゃん。


「無理しないで。死ぬよ」


「おかしなことを言う。俺が死んだ方が、貴様にとって好都合だろう」


「敵でも死なせたくないの」


「ゴングは殺したじゃないか」


「……だからだよ。少し後悔してるから」


 たとえ憎い敵だとしても、殺したら私は嫌な気分になる。

 復讐って憎い相手を殺すのが殆どだと思うけど、私はそれで心が晴れない気がする。ゴマを殺したとしても心に気持ち悪さが残り続ける。ゴングを殺したことだって未だに引き摺っているからね。


「温いな。俺は違う。ゴマ様のためなら、誰だろうと殺す覚悟がある」


「……どうしてゴマなんて最低な奴のために頑張るの。赤ちゃんだったあなたやゴングを拾って育ててくれたから?」


「なぜ知って……そうか、ゴングの記憶を見たのか。分かっているじゃないか。ゴマ様が拾ってくれなければ、俺の人生はないにも等しかった。あの御方は、俺に生きる時間を与えてくれた恩人。ならば、あの御方の助けになりたいと思うのが自然だろう」


「気持ちは理解出来るよ。でも、それはゴマがまともな人間ならの話だ。あいつは誰かを殺すことを何とも思わない極悪な奴だよ。恩人だとしても、間違った行動を止めるべきなんじゃないの?」


 私だったらそうする。ママが罪を犯すと知っていれば必ず止める。


「恩人だからこそ、どんな悪に染まろうと助けたかった」


「……そっか。分かってあげられないな、私は」


 もし、ジミーやゴングがピースさんのような善人に拾われていたら、全く違う人生を歩んでいたはずだ。やっぱり全部ゴマが悪い。ゴマさえ居なければ幸せになれる可能性があったかもしれない。


「もうお喋りは終わりだ。少しは体が言うことを聞くようになってきた」


「まだ戦う気なの? 止めてよ。これ以上戦えば殺しちゃうかもしれない」


「俺は貴様の糧にはならん。ゴマ様の枷にもならん。あの御方のためならば己すら殺す!」


「……え」


 ジミーが右手を自分の胸に突き刺した。心臓あたりを貫いた。

 吐血したジミーの体からは力が抜けたのか、右手が胸から抜けて床に付く。

 死んだ。確認するまでもない。ジミーは自分で、自分を殺した。


 なんで、自分から命を捨てるなんて真似どうして出来るの。

 私は死んでほしかったわけじゃない。こんな結末望んでいない。

 ……結局、最期までジミーを理解することは出来なかったな。


 帰ろう。あなたも連れて行ってあげる。

 冷たい地下に1人残されたら寂しいだろうから。


 ジミーの遺体を背負ったまま迷宮を出るとタキガワさん達が待っていた。

 タキガワさん、カオス、持ちドラ達、そして今日は王子の執事のメテオラさんも来てくれている。はは、みんなジミーの遺体を見てびっくりしてるなあ。当然か、迷宮内は本来私以外誰も居ないはずなんだもんね。


「ば、バニアちゃん、何があったわけ? そのドラゴニュートは……死んでるの?」


「うん。ジミーって名前でね、ゴマの仲間なんだ。私は殺すつもりなかったのに……死なせちゃった。自殺させちゃったんだよ。せめて、お墓くらい作ってあげたいな」


「ゴマの情報を守ろうとしたのでしょう。生きていれば拷問されて、情報を吐かされる可能性がありますからね。立派なものです。忠誠心高き者でなければ自殺なんて出来ないでしょう」


 そうか。メテオラさんの言葉でジミーを少し理解してあげられたかも。

 でも、立派なんかじゃないよ。自殺したから立派なんておかしいよ。

 情報を守るために自殺したとしても褒めるべきじゃない。

 褒めるべきじゃ、ないんだよ。


「バニア、色々あって疲れただろ。今日は帰って休もうぜ」


「うん、そうさせてもらう。あ、メテオラさんが居て丁度良かったです。迷宮内のモンスターは全部倒したと王子様に伝えてください。今日で依頼をやり遂げました」


「おおそれはめでたい。ローゼウル様には私から報告しておきましょう」


 私は仲間と一緒にメテオラさんの横を通り過ぎる。

 ……この人、なんで今日だけ迷宮の入口に来ていたんだ?


 疑問はまだある。ジミーは誰かから情報を得て迷宮に来たと言っていた。

 ジミーに情報を渡した人物は、私が迷宮に行くことを知っていたってことだよね。今回の依頼については関係者しか知らないはず。私のチームメンバー、ミヤマさん、メテオラさん、王子様、この中に情報を渡した人物が居るってことになるんじゃ。


 タキガワさんもカオスもそんなことはしない。ミヤマさんも違う。

 王子様は今回困っていたから依頼を出してきたわけだし関係ないだろう。

 じゃあ関係者の中で1番怪しいのは……。


「――本当に、ありがとうございました」


 メテオラさんから話を聞こうと振り返ったら短剣が頭上から迫っていた。

 嘘、このままだと脳天に刺さる。疲れていて体の反応が鈍い。避けられない。


「ぐああああああ!?」


 間一髪。クリスタが突進してメテオラさんを突き飛ばしてくれた。

 危うく死ぬところだったんだ、私。メテオラさんに殺されるところだった。


「ぐうっ、ペット風情に邪魔されるとは! 絶好のチャンスだったというのに!」


「な、何どういうこと! クリスタ何してんの!?」


「おいこいつ武器持ってるぞ! まさか、オレ達を殺そうとしやがったのか!?」


 状況を呑み込むのに時間は掛かるけど少しずつ呑み込めてくる。

 ジミーに情報を渡したのは、私を殺したがっていたのはメテオラさんだった。

 理由は分からないけど短剣で襲ってきたし間違いない。


 クリスタが助けてくれなきゃメテオラさんの目論見通り、私は死んでいたわけだ。でも本当に理由が分からない。出会って数日なのに殺そうとしてくるって……私、何かしたっけ。


「メテオラさんだったんだね。私を殺したがっていた人って」


「……ええ。邪魔なんですよ、あなたの存在が。次期国王の座はローゼウル様のものだ。他の王子は欠陥品だから安心していたというのに、あなたが居た。王族の血を引くあなたは邪魔者でしかない!」


「私は王様になりたいなんて思っていません」


「あなたがどう思っていようと、あなたを国王に担ぎ上げる連中が出て来るんですよ。あなたの存在が公表されれば混乱を招く。エルバニアのために死んでもらいますよ!」


 メテオラさんが短剣を持ちながら走って来た。

 私からすれば遅い。体の動きが鈍くても対処出来る。


「「ふざけんなあああああ!」」


 タキガワさんとカオスがメテオラさんを思いっきり殴り飛ばす。

 う、うわあ、2人共もっと手加減しなよ。30メートルは吹き飛んだよ。


「勝手なことばっか言って! 王子様に頼んであいつ解雇してもらいましょう!」


「国のために死ねとかクソ野郎だぜ! オレあいつの顔面にクソ野郎って書いてくる!」


 メテオラさんは多分、ジミーと似ていたんじゃないかな。

 忠誠心って良い言葉のように思えるけど強すぎる忠誠心は良くないんだね。

 襲われたことも依頼結果も報告しなきゃいけないし、宿へ戻る前に王子様に会いに行かないと。メテオラさんへの罰は王子様に決めてもらおう。……ああ、少しでもいいから休ませてもらえないかな。


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