103 VSジミー
紫髪のモヒカン。筋肉が発達した肉体。毛皮の腰巻きをした灰色肌のドラゴニュート。あのゴマに従い、あのゴングと共にケリオスさんを痛めつけた憎いドラゴニュート。
「辿り着けたか、バニア」
「なんでこんな所に居るのさ、ジミー」
私が倒そうと思っている敵の1人であるジミーとこんな所で会うなんてね。
この場所はエルバニアの王族しか入っちゃいけない掟……なんて、言っても無駄か。ジミーには掟を守る理由がない。でも本当になんでこの迷宮に、しかも最奥の部屋に居るんだ。目的はなんだ。
「ここへ来たのはゴマからの命令?」
「いいや、独断だ。俺は貴様を葬る。ゴマ様は貴様を殺す必要はないと言ったが俺はそうは思わん。バニア、貴様の成長は賞賛に値する。あの日、ケリオスというヒューマンが死んだ日、まだ普通の少女だった時に始末しておけばと後悔する程に、貴様は厄介な存在になっている」
「だから私の命を奪うの?」
「そうだ。俺はゴマ様を守護する盾であり剣。強大に育つ芽は早めに潰す」
私を殺すために迷宮へやって来たのか。しかも独断行動でわざわざ。
動機は違うみたいだけど、ゴングを殺した日から誰かに襲われる可能性は考えていた。誰かを殺せば恨みや怒りを買う。ジミーだって少しは私に怒っているはず。それに加えて大切な主の命を奪おうとしているんだから殺しに来て当然か。
「どうして私がここへ来るって分かったの」
「貴様を始末したがっているのは俺だけじゃないのさ。人間は、生きているだけで誰かから恨まれる。貴様も俺もそれは変わらん。俺は貴様を葬りたい者と手を組んで情報を得た」
私を、始末したがっている人間が他にも居る?
誰だ? 全く心当たりがない。考えるのは後にしよう。
今は目の前の敵に集中しないとダメだ。生き残らなきゃ未来はない。
「〈アナライズ〉」
【名 前】 ジミー
【レベル】 75
【ジョブ】 ゴッドハンド
【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆
【生命力】 613/613
【魔法力】 330/330
【攻撃力】 460
【守備力】 386
【聡明力】 235
【抵抗力】 327
【行動力】 465
【ラック】 258
【持ちドラ】なし
レベルはゴングと同じくらい高い。今の私よりもレベルは上、だけどステータスの数値は私の方が上。ジョブはカオスと同じゴッドハンド。物理攻撃特化だから、守備力や行動力が高い私との戦闘では不利。ゴッドハンドの戦いは何度も見ているから警戒しなきゃいけないスキルも理解している。勝てない相手じゃない。
「〈スピードアップ〉、〈オールガードアップ〉、〈気分上々〉」
天空竜の短剣を構えて能力値アップのスキルを使用した。
これで私の行動力と守備力は五割増し。クリティカル率も上昇。
敵が物理攻撃特化で魔法は使わないから、抵抗力を上昇させる〈オールレジストアップ〉を使う必要はない。さあ準備は終わった。いつでも掛かって来い。
「〈アタックアップ〉、〈ガードアップ〉、〈研ぎ澄ます〉」
当然そっちも使うよね。これでジミーの攻撃力と守備力は五割増し、クリティカル率も上昇した。私の守備力なら問題ないけど……マズいな、私の攻撃力ってかなり低くないか。攻撃してダメージちゃんと通ったとしても倒すのは苦労しそうだ。
まあ、ステータスに表示される数値は装備品の数値が加算されていないし、本当の差はマシなものかな。天空竜の短剣の攻撃力は250もあるし大丈夫だろう。
「弱者を甚振るのは好きな俺だが、これから幼い少女を殺すと思うと気分が悪い。継承の迷宮はモンスターを発生させる装置があるから利用したが、貴様は全てのモンスターを駆除してしまった。そのせいで俺が自ら手を下すはめになった。行くぞ! この場所を貴様の墓場にしてくれる!」
モンスター発生装置、そんなものがあったのか。
つまり、モンスターとの戦いという苦難を乗り越えた者こそ王になれるってことか。本来の数は分からないけど戦いは避けられないんだ。王子様には頑張ってもらおう。
「〈ポイズンブレス〉!」
紫の霧がジミーの口から勢いよく広がっていく。
霧を吸い込めば毒状態になるんでしょ。ドラゴニュートだけはドラゴンのようにブレスを吐けるって、バンライから教えてもらったよ。普通なら毒は厄介だけど今の私には無意味だ。
「天空竜の短剣!」
「何!?」
天空竜の短剣が白い光を放つと紫の霧が消えていく。
この武器を使えば毒にはならない。状態異常全てを防げる。
「そりゃあああ!」
驚いているジミーに私から動いて攻撃。殺さないけど殺す気で行く。
お腹を刺そうとした短剣は脇腹を掠めた。くそっ、躱された。
まだまだ行くよ。短剣での連続攻撃、躱しきれるものなら躱しきってみろ。
「くっ、素早い奴め。増長するなよバニア!」
「〈ディフェンスアタック〉!」
私の短剣はジミーのお腹を斬った……けど傷は浅い。頑丈な皮膚だ。
渾身の攻撃をして隙が生まれた私は脇腹を蹴られて吹き飛ばされる。
「〈ゴッドハンド〉おおお!」
そのスキルはまずい!
「〈心身金剛〉!」
ジミーの真横に黄金色の巨大な腕が現れて、ジミーが拳を突き出すとそれも同じ方向へ動く。ドラゴンの飛行速度くらい速いから避けることは困難……だけど、動くまでに一瞬のタメがあった。ダメージカットのスキルが間に合う。
巨大な腕に殴られたまま私は壁に激突した。壁には亀裂が入る。
想像した通りだ、やっぱり痛い。しかもすぐには消えないでググッと押し付けられたからちょっと壁にめりこんじゃったし。もし〈心身金剛〉が間に合わなかったら大ダメージだったな。
スキル〈心身金剛〉はダメージを8割カットしてくれる。
さっき使った〈ディフェンスアタック〉は10秒ダメージを半減してくれる。
2つ合わせて使ったから受けたダメージは大したことなさそうだ。これなら勝てるぞ。
「元気そうだな。俺の〈ゴッドハンド〉に直撃したというのに」
「うん、まだまだ元気だよ。そしてこの戦い、必ず私が勝つ」
それからの戦いは似たような展開が続いた。
私はこまめに〈ディフェンスアタック〉を使いつつ短剣で攻撃。
ジミーが大技を繰り出してきたら〈心身金剛〉でダメージカット。
ジミーからの打撃は基本防御と回避。行動力は私が上だから難しくはない。
まるで作業のように、どちらかが倒れるまで同じことが続いた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「……ぐうっ……限界、か」
先に倒れたのはジミーだった。
私は息を整えながらジミーを見下ろす。