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100 フラエル祭②


 朝食がまだだった私達3人は祭り定番らしい焼きそばを食べることにした。

 火神楽祭りでも食べたっけ。ソースが絡む麺、濃い味で美味しかった記憶がある。

 あれ、でも待てよ。この焼きそば白いぞ。ソースが掛かっていない!

 嘘でしょ、ソースのない焼きそばなんてただの焼いた麺だよ!


「ねえミレイユ、バンライ、この焼きそばのソース貰ってこようよ」


「え? ソース掛かってるよ?」


「よく見てみなさいバニア」


 顔を近付けて見てみると確かに麺が濡れている。

 これは、透明なソースか。爽やかで良い香り。

 こういう焼きそばもあるんだな。


「ふっ、どんな味かは食べてみてのお楽しみですわね」


「「いただきまーす」」

「いただきマンモス」


 こ、これは、1口目で感じるこの味はレモン!

 ソースは少し酸っぱいレモン味! 意外な味だけど美味しい!

 ところでスルーしたかったけど『いただきマンモス』って何さあ。


「美味しいでしょバニアちゃん」


「うん美味しい! 2日に1回は食べたいくらい!」


「それは飽きるんじゃないかなあ」


 この焼きそば、フラエル祭限定なのかな。

 あ、旗にフラエル祭限定って書いてある。く、くっそー。

 まあ焼きそば屋なんてお祭りの日以外で見たことないしなあ。

 じゃあ普段店主さんって何してる人なんだろう。麺料理の店かな。


「さあ祭りはまだ始まったばかり! 色々と見て回りますわよ!」

「「おお!」」


 お祭りなだけあって普段は見られない光景を見られる。

 3匹の猿がジャグリングや輪潜りなんかの芸を披露していたり、サーカス団も来ているみたいだ。他にも占い師が運勢を占っていたり、露出多めな服を着た踊り子が踊っていたりする。


「バニア。あれ、やりません?」


 ミレイユが指す方向にあるのは射的屋台。


「いいよ、勝負しよっか」


「私の勝ち確ですわ」


 火神楽祭りでも射的はあったけど、この店は銃じゃなくて弓を使うんだな。

 さすがに矢は玩具だ。先端には円状のゴムが付いているから例え誰かに当たっても痛くないはず。私は弓が少し苦手だけどこれは安全な矢だし遠慮無く射れるね。

 この矢、手に強く押し当ててみると吸盤みたいにくっつく。ちょっと面白い。


「3回で200ゴラドだよ」

「「払います」」


 まずは私の番。1本目……あ、店主さんの額に命中しちゃった。

 無表情の店主さんは額にくっついた矢を取って、矢の置き場に置く。


「ごめんなさい」

「気にすんなよ」


「バニア、弓の扱い下手すぎませんか? 仕事の時は弓を持ち歩いていましたよね?」

「……練習中なんだよ」


 2本目。失敗は成功の(もと)! 真っ直ぐに店主さんの方へ飛びまた額に!

 おかしい。おかしいぞ。棚の上にある景品を狙っているつもりなのに、なぜか店主さんの方に飛んでいく。力の入れ方が悪いのかな。思い出せ、『薔薇乙女』のテリーヌさんが弓を射る姿勢や力みを。模倣出来れば矢は真っ直ぐ狙い通りに飛ぶはずだ。


 最後の3本目。3度目の正直! 店主さんの額にくっついた矢に飛び、くっつく!

 な、なんで? 自分でやったことなのに訳が分からないよ。


「逆に奇跡ですわ」


「お嬢ちゃん、俺は景品じゃねえんだぜ」


「バニアちゃん、もう弓使うの止めなよ」


「……いつかもっと上手くなるもん」


 いや、本当に。本当に練習して上手くなるからいつか。

 格好いいから使いたいんだよ弓。遠距離攻撃出来る魔法があっても弓を使いたいんだよ。


「それじゃあ次は私の番ですわね」


 ミレイユは見事に3回とも景品に当てることに成功した。

 おかしい。ミレイユが弓を使うなんて見たことも聞いたこともないのに、こんなに上手いはずないんだ。素人がこれ程の結果を出せるはずがない。私の方が弓の練習しているのに……悔しいいいいいい。


「ふふ、遠距離で正確に対象を狙うのはウィザードなら出来て当然です」


「じゃあバンライも?」


「いやあ、魔法と弓の感覚は違うからねえ。私は下手だよ」


「そうだよね!」


「そうだよね?」


 射的の後は福引きやクジを見かけたので挑戦してみた。

 結果は散々だ。私はハズレしか引けず、ミレイユでもポケットティッシュが1回貰えただけ。ただ、バンライの引きは凄かった。福引きで特等の旅行券を出すわ、クジで商品券10000ゴラド分を引くわ、とにかく凄かった。


 ああいう福引きやクジって、ステータスのラック値も関係するのかな。

 私、レベルアップしてもラック値の伸びが異様に低いんだよね。

 ふう、気持ちを切り替えて次だ次。何か勝負出来るものないかな。


「ところで、バニアちゃんは明日の予定あるの?」


 明日か。フラエル祭は2日間開催だから明日もお祭りを楽しむつもりではいる。

 誰と回るかを考えていなかったけど、2日目も2人と一緒だったら楽しいだろうな。誘ってみよう。ダメだったらタキガワさんやカオスと一緒に回ろうかな。


「ないよ。明日も3人でお祭り回る?」


「ごめんなさいバニア。私、明日はお父様と過ごすつもりなので断りますわ」


「そっか。じゃあバンライは?」


「ごめんね。マヤさんとテリーヌさんの3人で回るって約束しちゃったんだあ」


「じゃあ私もチームの仲間と回ろうかな。明日も楽しもうね!」


 ちょっと残念だけど2人には2人の都合がある。

 宿屋に帰ったらタキガワさんとカオスに予定を確認してみよう。




 * * *




 フラエル祭2日目。今日はタキガワさんとカオスの3人でお祭りを回る。

 エルバニア城下町全体がお祭りの範囲だから2日あっても全部は見て回れない。

 昨日は夜まで楽しんだけどそれでも見て回れたのは全体の3割くらいだと思う。

 昨日は勝負出来るお店ばっかり行ったし、今日は美味しい物でも食べ歩きたいな。


 今日はしっかり待ち合わせに間に合うように起きた。

 まあ待ち合わせ場所は宿の入口だし遅かったら部屋に来るだろうけどね。

 でも、こういう待ち合わせの約束は守るのが大切だ。昨日は寝坊したけど。

 寝癖を直したら持ち物チェック、完璧だ。早く入口に行こう。


「ああ君、少し話せるかな?」


 部屋を出たら誰かに呼び止められた。誰だろうこの男の人。

 黒い執事服を着ているし、どこかのお金持ちの家の執事さんかな。


「あの、何でしょうか」


「僕はメテオラ。君の名前は?」


「バニアです」


「姓は?」


 ……姓? 私の姓って何だ?

 ママの名前はイオラで、姓は……知らないな。

 うーん、でもタキガワさんはタキガワさんだし、カオスはカオスだ。

 2人が〈ぷれいやー〉だからかもしれないけど、姓がなくてもおかしくはないよね。うん私はおかしくない。


「分かりません」


「分からない? では、君の母親の名前は?」


「イオラですけど……あの、なんでそんなこと訊くんですか?」


 私の名前はともかくママの名前は関係ないでしょ。

 ひょっとして、カオスがよくやっているナンパってやつかな。自分で言っちゃうけど私の顔は可愛いからなあ。お祭り気分で盛り上がって声を掛けたくる気持ちは分かるよ。


「イオラ……間違いありませんか?」


「間違えるわけないじゃないですか。あの、用事がないなら私もう行きますよ」


「ええ、構いません。またお会いする日はあるでしょう」


 構わないんだ。何だったんだいったい。

 私よりもママの名前に興味津々って感じだったな。

 もしかしてママの知り合いだったのかな。

 いやでもそれならそうと言えばいいのに。

 またお会いする日はあるとか言っていたよね、誰なのか気になる。気になるけど今は考えても分からないか。気分切り替えよう、せっかくのお祭りなんだから。


 宿屋の入口へ行くとカオスとタキガワさんが既に待っていた。

 私今日は寝坊していないし、今は待ち合わせ3分前だから何も問題ない。

 2人が早いだけだ。まさか昨日のミレイユ達みたいに1時間も前から待っていないと思いたい。


「タキガワさん、カオス、お待たせ」


「大丈夫だよバニアちゃん、今来たとこだから」


「あ? お前3時間前から待ってただろ」


 ……余裕で超えてきた。待ち合わせ8時だから、5時から居たのか。


「そういうアンタだって2時間前に来たでしょ」


 カオスまでそんな長時間待ってたのか。もう1回寝てもいいんじゃないの。


「なあバニア、今日はスペシャルゲストを呼んだぜ。もう宿屋の外に来てるはずだ」


「スペシャルゲスト?」


 誰だろう、私が知っている人かな。ミヤマさんとか?

 宿屋の外へ出ると茶髪の男の子とケンタウロスの女性、そしてブラッドドラゴンが居た。


「ああああ! ナットウ君にリエットさん!」


 カオスが言ったスペシャルゲストって2人のことだったのか。

 納得だ、確かにスペシャルゲストだよ。ザンカコウで出会って以来会うことはなかったけど、別れる時にまた会おうって約束したっけ。会えて良かったな。久し振りに見る2人が元気そうで嬉しい。ブラッドドラゴンのラディンも元気そうだね。


「……よお、久し振りだな」


 お、視線をずらして挨拶とはナットウ君め、照れてるな。


「皆さんお久し振り。カオスさんの招待を受けてナットウとお祭りを見に来たんです」


「お元気そうで良かったです。カオス、アンタにしては良いサプライズじゃん」


「ふっふっふ、もっと褒め称えろ」


「調子乗んな」


 ナットウ君とリエットさんが居るなら、今日は2人にエルバニアを案内してあげよう。エルバニアは広いし案内する場所は沢山ある。こりゃ忙しくなるぞ。朝ご飯を食べたらどこへ案内するか考えておかないと。


「約束通り遊びに来たぜ。観光の案内、してくれるんだろ?」


「うん。まずは焼きそばでも食べに行こうか」


 なんだか楽しくなってきたな。自然に笑えてくる。


「……距離近くない?」


 タキガワさんの方が近くない? 今耳元に顔近付けてるじゃん。


「近くないよ。あ、ナットウ君、はぐれないように手繋ごう」


「なっ、バカにすんな! ガキ扱いすんじゃねえよ!」


「……やっぱ距離近いって」


 近くない。普通普通。さあ昨日も食べた焼きそばを紹介しなくっちゃ。






 ___________________________________



 これにて予定していた日常回が終了。

 次回から終わりへ向けてシリアスな話が動きます。



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