98 天空竜の短剣
私は……どうすればいいんだろう。何か出来ることないのかな。
ゴマを早く倒す? いや、ゴマを倒しても戦争の動きは止まらない。
あいつが国のトップだったらそれで止まるのかもしれないけど、女王はアメジストだし。じゃあアメジストを倒せばいいってのも厳しい話だ。私なんかが一国の女王と会う機会なんてあるわけない。……あれ、その理論だとゴマとも会えないんじゃ。
そもそも倒すって言ったってまだ私にそれ程の力がない。
ケリオスさんでも敵わなかった相手がリュウグウには居るんだ。
私はもっと強くならないと戦いすら成立しない。
結局私は今より強くなる必要があるって考えになるのか。
「……すまない。戦争の話をされても困るよね。君達に何かをしてほしいから話したわけじゃないんだ。僕がきっかけで起ころうとしていることを知ってほしかった。それだけなんだよ」
「きっかけって言ってもピースさんは悪くないですよ。偶然の不幸が重なっただけです」
タキガワさんの言う通りだ。
行く宛のない子供を引き取って育てただけだもん。
アメジストだって最初から悪いことをする人だったわけじゃない。
きっと誰にだって過程があるんだ。
悪事を考え、行動に移すまでの理由がある。
「偶然も重なれば運命さ。君の気持ちは嬉しいけど僕にも責任がある」
ピースさんが抱えた罪悪感は私達の言葉で消えるようなものじゃないか。
消せるとしたら、それはきっとアメジストからの言葉だ。
「大変なことになりそうだし、私達ももっと強くならないとねバニアちゃん」
「うん。もし戦争が起きたら私も戦わなきゃ」
「となるとやっぱり新しい武器……あああああ、天空鉱石さえあればなあ」
「天空鉱石? あんな石を何に使うつもり……もしかして錬金かい?」
さすが〈ぷれいやー〉話が早い。
「天空竜の短剣を作るために天空鉱石があと1個だけ足りないんですよ。ああ、私がゲームやってる時にもっと集めておけば困らなかったのに。てか天空竜の短剣を作っておけば良かったのに」
「そういうことなら僕が持っている天空鉱石をあげるよ」
今なんて言った……あげるって、聞こえた気がするぞ。
「も、貰っても」
「い、良いんですか!?」
「同じプレイヤーのよしみだ。遠慮せず受け取ってくれ」
「「ありがとうございます!」」
ピースさんがアイテムボックスという異空間から天空鉱石を出してくれた。
真っ白な石。手に持ってみると……驚いた、軽い。
石だから確かに硬いのに重さはほぼ感じない。紙と勘違いしそう。
「よし、じゃあ早速錬金よ!」
今度はタキガワさんが異空間から錬金釜って物を出して机に置く。
驚いた、錆びている。めっちゃ汚い。これちゃんと使えるのかな。
「道具は点検と清掃が大事だよ」
「わ、分かっていても面倒でやらない人って多いじゃないですか。実家のヤカンもこれくらい汚いけどお湯沸かせるし、錬金釜も汚れてたって機能は生きてますって」
たとえ使えても見た目が悪いんだよなあ。
使い終わった後で私が錬金釜掃除しておこう。
しかし、錬金釜って意外と小さいんだな。大鍋くらいか。
天空鉱石を150個も入れるんだしもっと大きいと思っていた。
こんなサイズじゃ入っても10個くらいのはず。どうするんだ。
「気を取り直して錬金よ! まずは雨天の剣!」
そういえば必要な素材は他にもあったんだよね。
雨天の剣。鮮やかな青い長剣で、剣身の部分に細かい縦線がいくつも描かれている。
「快晴の剣!」
快晴の剣。鮮やかなオレンジの美しい長剣だ。
うーん、長剣を入れた時点で錬金釜は蓋が閉まらないと思うんだけど……え?
き、消えた!? 剣が2本共ない!
釜の中を覗き込んでみたけど剣の代わりに小さな玉が入っている。
まさか、剣がこの玉に変わったってことなのか。
「どういう仕組み!?」
「さあ、私は知らない。錬金釜はこういう物として納得しているから」
「僕も知らないね。ミヤマさんなら何か知っているかもしれないけど」
「あの人何なの? さあお次はドラゴンの牙150個!」
うわあ、空間の穴から大量の牙が滝みたいに錬金釜へと落ちていく。
やっぱりドラゴンの牙も小さな丸い玉に変わっている。本当にどうなってるんだか。
「最後に天空鉱石150個!」
ドラゴンの牙同様、天空鉱石も滝のように錬金釜へと落ちていく。
最後に私が持っている1個を入れて必要な素材は全て錬金釜に入った。
タキガワさんが蓋を閉めた瞬間、錬金釜がゴトゴトと煮込むような音を出して小刻みに揺れ始める。な、なんだか緊張しちゃうな。ちゃんと天空竜の短剣が生まれるのかな。
20秒程経った頃、錬金釜の揺れが収まって静かになる。お、終わったのか。
タキガワさんが蓋を開けると、中から赤い玉を取り出す。……赤い玉?
うわっ、赤い玉が変形して短剣の形になった! 本当にどうなってるんだ。
「出来たよバニアちゃん。これがあなたの新しい武器、天空竜の短剣」
「これが……」
タキガワさんから天空竜の短剣を受け取って眺める。
鞘は純白。柄は白い鱗模様でドラゴンの頭を模した飾りが付いている。
鞘から抜いてみよう。剣身は透き通る白で綺麗だ。当たり前だけど汚れ1つないし、これからも汚れる気がしない。こんなに美しい剣は見たことがない。凄い、本当に凄い。凄い凄い凄い凄い。
「その顔、気に入ったみたいね」
「天空竜の短剣を持っていれば状態異常を無効化することが出来る。便利な武器だ、大事に扱ってね」
「はい! ありがとうございますピースさん、タキガワさんも!」
エルバニアに帰ったらミレイユとバンライに見せてあげよう。2人共驚くぞ。
しばらく天空竜の短剣を眺めていると部屋にカオスが入って来て、自分が居ない間に錬金しちゃったことを怒ってきた。一緒に見たかったんだ。ごめんねカオス。
……でも不機嫌なのはお菓子をあげたら直った。ちょろいねカオス。




