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97 大きな違いとアメジスト


 屋敷と呼べるような広いピースさんの家。

 家族と一緒に住んでいたとしても広すぎて落ち着かなそうに思えたけど、ピースさんの家族は想像より遥かに大人数。正に大家族だった。子供が沢山庭で遊んでいて、さらに家の中でも読書したり人形遊びする子達も居て、さらにさらに小さな子供達のまとめ役となる10代の子供まで居る。正確に数えてないけど100人以上居る。


「子供が多くて驚きました。孤児院のような施設ですよね」


 客室らしい部屋で椅子に座ったタキガワさんがピースさんに話し掛けた。

 酸素不足で倒れたカオスは数人の子供が様子を見てくれている。


「その通り。親に捨てられたり、早くに親を亡くしたりした子供を集めているんだ。フワリアだけでなく地上からもね。一生面倒を見るわけではないよ。20代、早ければ10代で子供達はここを出て行き、自分の道を歩む。自立出来るまで成長の手伝いをするのが僕の仕事かな」


 当然、この世界の孤児全員は集められないんだろうな。運良くピースさんに見つけてもらえた孤児だけがここに住める。ゴングやジミーも孤児だったらしいけど、もしゴマじゃなくてピースさんに拾えてもらえていたら違う人生を歩んだんだろうな。


「あの、プレイヤーに話したいことというのは?」


 ピースさんがジッと私を見る。え、何だろう。


「その子はプレイヤーではなかったね。事情は知っているのかい?」


「大体は知っています。話にもついていけます、たぶん」


 疑問は尤もだった。傍に〈ぷれいやー〉が居るからって事情を全部知っているとは限らないもんね。実際、関わりのあるミレイユやバンライは何も知らないわけだし。いきなり〈ぷれいやー〉だとか異世界だとか言われても混乱するだけだ。


「なら構わないか。まず伝えなければならないのは、僕達プレイヤーが既に死んでいるということ。事故死か病死かそれとも誰かに殺されたのか、死因は様々だけれどね。因みに僕は病死だよ」


「ああそのことですか。それならギルドマスターから聞いて知っていますよ」


 だね、ミヤマさんが教えてくれた。

 あの時のタキガワさんは辛そうだったけど今は気にしていなさそうだ。


「なるほど、彼女か。じゃあ僕の伝えたいことはほぼ知っているかな。なら1つだけ伝えることがある。リュウグウという国についてだ」


 リュウグウ。ドラゴニュートだけが暮らす、ドラゴンを信仰する国。

 あいつが、ゴマが居る国だ。私もいつかそこへ行く時が必ず来る。


「国民はドラゴニュートのみ。ドラゴンを神として扱い、契約しても乗ることが禁じられている。リュウグウはこの世界で異質な国だ。なぜなら、ドラゴロアオンラインには存在しなかった国だからね」


 存在、しなかった? 確か〈げえむ〉とこの世界は深い繋がりがあって、国の名前も歴史も変わらないはず。もし大きな違いを生むとしたらそれは、この世界の外から来た〈ぷれいやー〉にしか出来ない。


「やっぱり、そうですよね。私よくゲームで遊んでいたけどリュウグウなんて名前、見たことも聞いたこともなかった。バニアちゃんにその国の名前を聞いた時、全く心当たりがなくて疑問に思っていたんです。カオスも同じでした。じゃあ、いったい、どうしてゲームになかった国があるのか。あなたは知っているんですか?」


「良くも悪くも僕がきっかけなんだよ。リュウグウの女王、アメジストは400年程前までここで暮らす女の子だった。僕が彼女を助けたんだ。彼女は17歳の時ここを出て行き、その後、新たな国を作ったんだ。僕は少し後悔している」


「良い話に聞こえるんですけど、何を後悔しているんですか?」


「彼女の歪んだ思想を正せなかったことさ。今、あの国は他の国全てを敵に回そうとしている」


 ピースさんは話してくれた。アメジストさんの話を。

 400年以上も前アメジストは小さな町近くの森に捨てられていた。

 当時こそ小さな町だったらしいけど今はゴールドスと呼ばれている。

 カジノがあった町だ。おそらく生まれはあそこのドラゴニュートになるんだろう。


 驚くべきことにピースさんが初めてアメジストに会った時、既にアメジストは数ヶ月もの間を森で過ごしていたという。身動きもろくに取れない赤ちゃんが数ヶ月、動物の脅威がある森で無事に過ごせるだろうか。ピースさんが調べた結果、アメジストは数体のドラゴンに育てられていた。


 ドラゴンが人間を育てるなんて聞いたことがないけど、もしかすれば同族の子供かと思っていたのかもしれない。

 だってアメジストはドラゴニュートだ。

 ドラゴンと似た鱗が生えているのだから勘違いもありえる。


 ピースさんはアメジストを引き取らず、ドラゴン達が世話するのを様子見するようになった。

 だけどアメジストが森で暮らして2年経った頃、事件が起きる。

 森のドラゴン達が悪い人間に捕まってしまったんだ。


 昔、野生のドラゴンを捕らえて売っていた組織があったらしい。

 今ではそんなことをすれば重い罪になるけど昔は違う。酷い時代もあったもんだ。

 今はないんなら、人間の価値観が良い方へ変わったってことかも。


 育てのドラゴン達が見つかるまでピースさんがアメジストを家で預かり、結局見つからずに15年もの時間が過ぎた。アメジストは育てのドラゴン達を自分で捜すために出て行った。


 旅をしている時に何があったのかはピースさんも知らない。

 ただ、たったの1度だけ、この家に帰ってきたことがある。

 その時にアメジストは『もう捜さなくていい』と言ったそうだ。

 とても悲しい顔をしていたし、1度限りの自主的な顔見せだったこともあってピースさんはよく覚えていると言う。


 それから数年後にドラゴニュートの国リュウグウが誕生。

 ピースさんはリュウグウの女王がアメジストだと少し経ってから知る。


「1度だけ、僕は彼女に謁見出来た。本来ならドラゴニュート以外とは会わないらしいし、2度と顔を見せるなと言われたけどね。その時、彼女の目的を聞いた。ドラゴニュートだけの国で暮らし、ドラゴンにはドラゴンに相応しい扱いをする。そして、相応しくない扱いをする人間からドラゴンを救済するとね」


「良いこと、じゃないですか?」


「昔のままならね。今は、違うんだ。リュウグウは変わってしまった。ドラゴニュート以外の種族へ持ちドラを持つことを禁じ、善悪問わずドラゴニュート以外の種族から持ちドラを奪っている。あの国に潜入してくれたドラゴニュートからの情報だから間違いない」


 同じだ。ゴマがケリオスさんにやったことと、同じだ。

 記憶を消す不思議な道具を使って、持ちドラとしての契約を強制破棄させる。


「後に知ったが、彼女を育てたドラゴンを誘拐した組織はドラゴニュートをも売買していた。彼女は組織のことを多く知ったからドラゴニュートを優遇……いや、他の種族を認めない。このままでは近いうちに、リュウグウに反抗して他の国々が戦争に動き出す。事実として、フワリアは既に戦う準備をしている。もう僕では止められない」


 ピースさんがさっき言っていた歪んだ思想っていうのは種族についての思想か。

 まずいなあ、予想以上に大変な事態になっている。

 タキガワさんも「そんな……」とショックを受けている。

 そりゃそうだ、戦争になるかもなんて話されたんだもん。

 私は……どうすればいいんだろう。何か出来ることないのかな。


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