95 新しい武器
エルバニア城下町のギルド本部。
多種多様な姿をした人間達が集まり賑やかな一階で、席に座りながら私は『のんぷれいやー』の仲間達や持ちドラ達と朝食を取っていた。飲食店もギルド内にあるからそこで買える。
私は和食セット。鮭の切り身や野菜の浅漬けなど美味しい料理が種類多め。
カオスは大きなハンバーグとライス、サラダちょっぴり。
タキガワさんは大盛りサラダとフルーツ盛り合わせ。
持ちドラ達は基本的にドラゴンフーズ。ほぼ全てのドラゴンが美味しく食べられるって宣伝してる食品。形は球体のチョコみたいだけど、味は飽きないよう色々種類があるらしい。
当日の予定を話し合ったりしながら私達は毎日チーム全員一緒に食べている。
「今日は仕事休みにしない?」
タキガワさんの提案にカオスが「いいぜ」と乗り、自分のサラダをタキガワさんの皿に入れようとする。……けどすぐにバレて押し返された。そりゃそうなるよ。なんでバレないと思ったんだ。量がちょっとなんだから嫌いでも我慢して食べればいいのに。
「こら、野菜もしっかり食べなさい。栄養がいっぱい入っているんだから」
「わ、分かってるって。い、今のはあれだ。手が滑ったんだよ」
「はいはい。ちゃーんと食べるまで見ているからさっさと食べなさいよね」
ママかな? 確かタキガワさんって20歳だから、子供が居ても不思議ではない。
そうなるとカオスは赤ちゃ……本来の年齢よりかなり下の子供扱いだな。
まあ好物ばかり食べたくなる気持ちは分かる。ただ1日3食肉料理となると、タキガワさんが心配する気持ちも分かる。善意で分け与えてあげたんだからやっぱりカオスは野菜食べなきゃね。
「話戻すけど今日仕事休みにしない? バニアちゃんの武器まだないしさ」
「え、弓はあるよ?」
「実戦で使える程に上達していないでしょ」
ま、まあ確かに、弓はまだ下手糞ですけど。
矢を放つと何度やっても曲がっちゃうんだよね。
動かない的にすら当てられないし、動き回るモンスター相手となればそりゃ役立たない。練習がもっと必要だって分かってる。さすがに1メートル以内に近付けば当てられるけどね。私のジョブがアーチャーだったら練習なんか必要ないんだけどな。
「だから、今日はバニアちゃんの武器を作りましょ」
「作る? 買うんじゃなくて?」
私、鍛冶の技術なんてないよ。
「そ、作る! この世界はゲームじゃないけど、ゲームやってた時のアイテムは持ち込めているから私持ってるのよ。錬金釜を! レシピなら沢山持ってるから欲しい武器作りましょうよ!」
「錬金、釜? 何それ?」
「錬金釜っつーのはよ、2つ以上の材料を入れると違うアイテムが作れる便利アイテムだ。素材もレシピも自分で集めなきゃなんねえから、面倒でオレはあんまり使ったことねえけどさ」
野菜以外を完食したカオスが教えてくれた。
ほへえ、そんな便利なアイテムがあるのか。羨望の泉とは似て非なるものだな。
私の武器、愛剣だった短剣は一昨日に折れて今はない。武器屋で新しい短剣を買おうかと思っていたけど錬金かあ、自分で作るってのも面白そうだなあ。自分で作った自分だけの武器なんて特別感あるし。
よし、今日は初錬金の日だ! 頑張ってお気に入りの短剣を作ろう!
* * *
新しい、私だけの短剣を作るため、私達は天空都市フワリアに向かっている。
錬金する武器はもう決めた。タキガワさんが持つレシピを見せてもらった時、見た瞬間に心臓が高鳴ったものがある。これにしろと本能が告げているような感覚だった。
名前は天空竜の短剣。
レシピには名前と素材しか記されていなかったから見た目は知らない。
早速錬金したかったけど残念なことに素材が足りなかった。
必要な素材は4種類。
雨天の剣1本。
快晴の剣1本。
ドラゴンの牙150個。
天空鉱石150個。
タキガワさんとカオスが殆ど持っていたから良かったものの、天空鉱石が1個だけ足りなかった。だから私達は今、天空鉱石が採れる場所、天空都市フワリアに向かっているのだ。
持ちドラであるクリスタルドラゴン、クリスタに乗って飛んでいると見えてきた。
空に浮かぶいくつもの大地。1個1個の大地を繋ぐように虹が架かっている不思議な場所。あの浮かぶ大地全てを総称して天空都市フワリアと呼ぶらしい。どういう原理で浮いているのかは今でも解明されていないのだとか。
「凄いや……本当に空に浮かんでる」
「さあフワリア到着ね。早いとこ天空鉱石を手に入れましょ」
1番下に浮かぶ最下層大地にある受付で入国手続きを済ませる。
ギルドカードは見せれば身分証明出来るから便利だよね。
それにしてもこの場所……雲よりも高いから空気が薄く、若干胸が苦しい。なんだっけ、酸素っていうのが薄いから苦しくなるんだっけ。しばらく居ればたぶん慣れるかな。
「じゃ、目指すはフヨール山のある中層大地ね。行きましょ」
「そうだね……ってええ!? タキガワさんが宙に浮いてる!?」
あ、ありえない。地面のないところに立ってるよ。
足下には虹があるからまるで虹の上に立っているように見える。
「え? ああ説明してなかったよね。フワリアの大地同士を繋ぐ虹はなぜか歩けるんだよ。虹の橋って呼ばれてる。普通は持ちドラに乗って渡ればいいだけなんだけどさ、虹の上を歩けるってここでしか出来ないことだし、つい徒歩で移動したくなっちゃうの」
「ほ、本当だ、立てる。虹の上に立っちゃえる!」
信じられないけど現実だ。私は今、虹の上に立って歩いている。
フワリアに住む人達はこれが常識だから驚かないんだろうなあ。
不思議な場所で暮らせるのは羨ましいんだけど、この感動を味わえないなんて少し損してる気がする。逆にフワリアの住人が地上に下りたら何かに驚くのかな。
さて、天空鉱石が入手出来るのはフワリアの鉱山、フヨール山だ。
フヨール山があるのはこの最下層大地から2つ上にある中層大地。
入国手続きの受付と市場があるだけの最下層大地より他の大地はかなり広いみたい。下層大地は住宅街と飲食店が主に存在している。生活するだけなら下層と最下層で十分ってことか。
さあ、虹の橋を渡ってやって来ました中層大地。
フヨール山は鉱山だから大きいし目立つ。迷うことなく目的地へ辿り着いた。
「あれ、様子が変じゃねーか? 入口塞がってね?」
カオスの言う通り鉱山の入口がいくつもの岩で塞がっている。
他に入口は……ないみたいだ。土砂崩れでもあったのかな。
入口付近では大人の男の人達が岩をピッケルやハンマーで叩いたり、小さめの岩を入口横へと運んでいる。
「ああ君達観光の人? 悪いけどここには入れないよ。見ての通り、最近山の一部が崩れて入口が塞がっちゃってね。俺のようなおっさんが大勢で岩をどかす羽目になったのさ」
「なんだそんなことか。オレ達あの山に入りてえし手伝うぜ」
「え? いや、一般人は立入禁止だから」
「……あ、そうなの?」
一般人は立入禁止? タキガワさんやカオスは普通に入っていたみたいなのに……ってそれは『げえむ』での話だもんね。寧ろ入れる方が凄い。鉱山なんて普通は危ないし一般人は入れないもんね。来る用事もないだろうし。




