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91 PK


「お、ラッキー。クリティカルヒット。うっわ顔面凹んでね? 痛そ」


 なんだこの人……。まるで、遊んでいるみたい。

 大人のはずなのに玩具を前にした子供みたいに思える。

 この男の人、気になるけど今はバンライの怪我の方が重要。


「バンライ大丈夫!?」


 よく見えなかったけど、とんでもないスピードの石が顔面にぶつかったはず。バンライを心配してミレイユが既に駆け寄っていたけど顔色が悪い。


 目を凝らしてみると……見えた。

 う、嘘、か、顔が潰れてる。酷すぎる。


 鼻が1番酷い怪我だ。潰れて陥没していることから石は鼻に当たったんだと思う。鼻を中心に顔の表面が凹んじゃって、意識は朦朧となっていそうだ。さっきから「う」とか「あ」しか声が出せていない。目の焦点も全然合ってない。


「い、今すぐ治しますから! 〈ヒーリング〉!」


 ミレイユの手から薄緑色の光が広がってバンライの顔を包んでいく。

 そうか、ミレイユのジョブはウィザード。魔法は幅広く習得出来る。

 攻撃魔法が得意なジョブだけど回復魔法も一応使えるんだ。


 でもあの潰れた顔面、下級の回復魔法じゃ治療に時間が掛かりそう。私にも〈応急処置〉っていう回復のスキルはあるから手伝いたい。……けど、今は戦力が少ない。私とタキガワさんであの男の人を撃退しないと。


 待った。回復なら、凄いのがあるじゃん。

 さっき羨望の泉から飛び出したエリクサーならすぐ怪我を治せる。


「ミレイユ、エリクサーだよ! そこの赤い液体の入った瓶! 飲ませればすぐバンライを治せる!」


「そんなに凄い物だったのですか!?」


 ミレイユが一旦治療を中断して、泉の傍に落ちている小瓶へと走る。


「へえ、エリクサーか。良い物あるじゃん」


 まずい、いつの間にかあの人の手元に石がある。

 手がブレた。投げっ……!


 パァンと大きな音が隣からした。

 恐る恐る見てみるとタキガワさんが左手で石をキャッチしていた。でも痛そう。石を持っていられず地面に落とした。おそらく手が痺れている。


「ちょっとアンタ、なんてことすんのよ!」


「石ってさあ、固定ダメージ効果だったはずなんだよ。1ダメージしか与えられないゴミアイテム。メタルモンスターも強い奴は生命力高いからマジで使い道ないわけよ。でもさあ、どう見ても1ダメージには見えないよな」


 何言ってるんだこの人……いや、待って、もしかしたら。

 私はタキガワさんと顔を見合わせて頷き合う。


「アンタ、まさかプレイヤーなわけ?」


 タキガワさんの言葉に男の人はピクリと反応する。


「……へえ、同類か。居たんだな俺以外にも」


 やっぱりこの人、ぷれいやーだ。

 正体に辿り着くヒントは言動だった。石について語っていたやつ。

 固定ダメージなんて言葉、ぷれいやー以外に使うとは思えない。今までの経験からすぐこの人が『げえむ』の話をしていると気付けた。


「「「〈アナライズ〉」」」


 考えることは同じか。3人同時に相手のステータスを調べる。

 敵と会ったら戦う前に〈アナライズ〉ってタキガワさんに教わったからね。

 同じぷれいやーであるこの人がやってきても不思議じゃない。



 【名 前】 大丈夫、僕、最強だから

 【レベル】 74

 【ジョブ】 アルティメットファイター

 【熟練度】 ☆☆☆☆


 【生命力】 880/880

 【魔法力】 410/410

 【攻撃力】 799

 【守備力】 490

 【聡明力】 1

 【抵抗力】 316

 【行動力】 484

 【ラック】 221


 【持ちドラ】 なし


 強い……けど、なんだ、私の目がおかしくなったのかな。

 持ちドラがいないのはまあいいとして本人の強さ。

 攻撃力がすっごく高く、聡明力が低すぎる。世界で1番頭悪い人?


 あと名前、見間違いじゃなければ『大丈夫、僕、最強だから』って表示されてるよね? え、それ本当に名前なの?


「へえ、2人共かなり強いじゃん。タキガワにバニアね。タキガワは魔法剣士レベル79。バニアはライダーとガーディアン、レベル48。ジョブ2つ持ちとかズルいな。ステータスもレベル65相当だし、数値の伸び率も足されてるのかね」


「タキガワさん、あの人の名前」


「好きな台詞ってところかな。ゲームにはたまに居るのよ、あーいう変な名前の奴。私達は石野郎とでも呼びましょ。それよりもあの石野郎の攻撃力、強すぎる。まともな攻撃を3発でも喰らったら死ぬかも。聡明力が1なのはたぶん、聡明力の数値を攻撃力に乗せる効果の装備を付けているからね」


 そんな効果の装備品もあるんだ。

 ジョブのアルティメットファイターっていうのは、名前からしてファイターの強化版って感じかな。素手などの近接戦闘を得意とするファイターなら、聡明力が低くなるデメリットなんてあってないようなものだ。攻撃魔法なんて使わないだろうし。


「持ちドラがいないのは……アンタ、持ちドラに逃げられたんでしょ」


「よく分かったね。そうなんだよ、俺のサンドドラゴン逃げちゃってさ」


 やっぱりそうか。話を聞く限りぷれいやーで持ちドラを持っていない人は居ない。妙な話だけど『げえむ』では最初に貰えるらしいからね。それなのに居ないってことは逃げられたのかなと思ったよ。カオスも前に逃げられたしおかしなことじゃない。


「逃げるもんだからさ、殺しちゃったよ」


 ……は? 持ちドラを、殺した?

 理解出来ない。何なんだこの石野郎。

 ドラゴンを殺すなんて重罪だぞ。しかも自分のパートナーだったドラゴンを殺すなんて、頭がおかしいとしか言いようがない。


 私、ドラゴンが好きなんだよね。

 私は今、過去で2番目くらいに激しく怒ってる。


「そしたらビックリ、なんと経験値を得られたんだよ! しかも大量! 超級職になってからレベル上げ面倒だなと思っていたんだけど、ドラゴン1匹で一気に14レベルも上がっちゃって最高だったなあ。でさ、今レベル上げ中なわけよ。この世界、どんな生き物でも殺したら経験値手に入るじゃん。ドラゴンだけじゃなくて……人間でもさ」


「まさか、レベル上げのために人間を」


「うん殺したよ? ま、PKなら何度もやってるから慣れたもんっすわ」


 間違いない。この人が危険人物。

 テリーヌさんを追いかけた殺人者。


「タキガワさん、PKって?」


「……プレイヤーキル。ゲーム内でプレイヤーを殺すこと」


 そんな酷いことをやってきたのか、この石野郎は。

 タキガワさんの表情が苦いものになっている。

 そのPKに嫌な思い出でもあるんだろう。


「で、アンタ、私達も殺す気よね」


「うん。君達結構強いし、経験値が多く手に入りそうだから」


「でしょうねこの人殺し! バニアちゃん戦い準備! 〈サンダーフォース〉、〈オールアタックアップ〉、〈オールブレインアップ〉、〈スピードアップ〉!」


「〈スピードアップ〉、〈気分上々〉、〈オールガードアップ〉!」


 最初は自分達の強化。〈スピードアップ〉などの自己強化スキルでステータス数値を1.5倍にする。さらに〈気分上々〉でクリティカル率を上昇。タキガワさんは〈サンダーフォース〉で攻撃に雷属性、麻痺を付与した。私達はこれで準備万端。


「うわ、バフ掛けか。いい判断だな。でも……〈スピードアップ〉、〈アタックアップ〉、〈ガードアップ〉、〈レジストアップ〉。ほら、こっちだって使えるんだよ。さあ、俺の糧になってくれ」


 石野郎が消えっ……違う微かに横切るのが見えた。

 後ろに回って攻撃、いや違う。ターゲットは私達じゃない!


「くっ、この瓶、中々開かない」


「ミレイユちゃん危ない! 敵がそっちへ!」


 石野郎の貫手がミレイユへと伸びる。

 あいつ予想以上に速い。ダメ、間に合わない……!


「ぐぼあっ!?」


 石野郎の手が体を貫通した。ミレイユ……の前に割り込んだモデンさんの体を。



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