89 もう一度お友達に
唯一羨望の泉の場所を知るタキガワさん案内のもと、私達は森を歩いていた。
来た時も思ったけど、この森はモンスターが他の場所よりも少ないな。
さらに言えば襲って来るモンスターの数も少ない。
モンスターだって全部が人間を襲うわけじゃないしね。
こういう静かで住みやすそうな場所って他にもあるのかもしれない。
「……バンライ、その、ごめんなさい」
歩きながらミレイユがバンライを見つめる。
フォレスディアを出た時から何か言いたそうにしていたけど、謝罪だったのか。
「いいんだよミレイユちゃん。私、全然、気にしてないから」
それは嘘でしょ。バンライ泣いてたじゃん。絶対気にしているはずだ。
大好きな友達と喧嘩しちゃったんだから気にしていないわけがない。
「バンライちゃん、優しいのは分かるけど今は要らないと思うよ。仲直りするなら気遣いなんて要らない。本音で語り合わなきゃ、きっと本当の仲直りじゃないから」
「……はい。そうですよね。気持ち、抑え込んだままじゃ、ダメですよね」
本音で語り合うことがきっと人間関係で大事なことなんだ。
いや、もちろん全員に心の内を曝け出せってわけじゃないけどね。
友達とか、家族とか、親しい人達に本音を誤魔化して伝えたら、相手はずっとその嘘を本音と勘違いしちゃう。仲良しなようで、ずっと嘘を本音と勘違いしたまま付き合っていく。それは、嘘を吐いた人が苦しくなる。
「傷付いた」
「え?」
「とっても傷付いた! 関係ないって言われて、部屋追い出されて、胸が苦しかったよ! 私がミレイユちゃんにとって、ミレイユちゃんの悩みに関われない程度の人間だって、言われた気がしたから。仲が良かったなんて私の勘違いだったのかなって……悲しくて、いっぱい泣いちゃったよ」
「それは本当に」
「だいたいミレイユちゃんは大事な時にいっつも1人で抱え込むよね! それだけじゃない。挑戦的なのはいいけど考えが足りなくて、無理しすぎて怪我してる。いっつもいっつも周りに迷惑掛けてるんだよ! あの時だって私やバニアちゃんが止めたのにオーガに挑もうとしたもんね! 私の意見を聞いても、自分の意見を押し通す。自分勝手だよ! さすがモデン様の血を引いているだけあるよ!」
「え、ええ、ですから」
「そんなんだから友達が少ないんだよ! ギルドの人達みんなミレイユのお守りは大変だろって声掛けてくれるよ! それくらいミレイユちゃんは問題児扱いされてるんだよ! 最近マシになったと思ったけどやっぱりダメ! 自分自身を見つめ直して反省してよ!」
はあ、はあ、はあ、とバンライが息を切らしてしまった。
私達は呆然としている。叫び終わったバンライ自身も「あ」と、やってしまったというように呟く。うん、確かに本音で喋れとは言ったけど言い過ぎじゃないかなあ。
「ご、ごめんねミレイユちゃん! わ、私、言い過ぎちゃって」
だ、大丈夫かな? これ、本音を出し過ぎて友情崩壊するんじゃないの?
うわっ、ミレイユが震えてる。さ、さすがに怒ったかな。
「……ぷっ、は、はっはっはっはっはっはっはっはっは!」
え、笑ってる。今の言葉で笑うってことは……ミレイユは、マゾヒスト?
「謝らないで。謝るのは私の方ですわ。私は、私が思っていた以上におバカさんでしたのね。あなたにそれ程の不満を抱えさせていたことにすら気付けませんでした。確かに私は自分のことばかり考えていたようです。友達失格ですわね」
「と、友達失格なんて、そ、そんなことないよ」
「いいえ失格です。今まで友達でいてくれてありがとうございました。迷惑掛けてごめんなさい」
ミレイユが丁寧に頭を下げて笑いながら謝る。
え、本当に友情崩壊? それにしてはミレイユの表情が晴れ晴れしてるな。
「これから私はダメなところを直していきたいと思います。これからはおニューな私ですわ。で、もしよろしければ、おニューな私ともう1度お友達になってくれませんか」
「……も、もーう。もーう! わざわざ訊かなくてもなるよお!」
良かった。2人の友情崩壊なんてことにならなくて。
本音で語れなんて言ったもんだからタキガワさんの顔が苦しそうだったもんな。本音で語った結果2人の友情ぶち壊れましたなんて、タキガワさんが責任感じちゃうよ。私だってどうなるのかハラハラしちゃった。
「本当に今までごめんなさい。そしてありがとう」
「もう違うでしょミレイユちゃん。昔みたいに謝ってよ」
「え、昔のように? あれは若気の至りであって……恥ずかしいですわ」
「いーいーかーらー」
「アイムソーリーヒゲソーリー」
「うん、許す」
仲直りが済んでわだかまりは無くなったね。2人共笑顔が眩しいよ。




