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88 悔いのない選択を


 大急ぎで宿屋に戻った私達はミレイユが居る部屋に行く。

 扉の傍にはまだバンライとマヤさんが座っていた。もうバンライは泣き止んでいた。


「おお、そんなに走って来てどうしたの?」


「大変なんです! 森の中に危険人物が潜んでいて、ミレイユのパパが近付いているかもしれないんです!」


「嘘、モデン様が!?」


「なるほど。それじゃ早く知らせないとね。……と言っても鍵掛けられちゃったからなあ」


 ええ鍵いい!? ミレイユ、もう他人を拒絶しかけてる?

 今は時間がない。早くモデンさんのことを知らせないと。

 タイムロスだけど一旦受付に戻ってマスターキーを借りて来よう。


「鍵なんざ知るか!」


 カオスが拳を叩きつけて部屋の扉を破壊した。

 扉。破壊。ちょっ、宿屋の扉を壊しちゃダメでしょ。


「何やってんの!?」


「一刻を争う緊急事態だろ。扉なんて後で直しゃいいって」


 無茶苦茶するな。直しゃいいって、直すのは従業員の人達だよね。

 やれやれ、やっちゃったものは仕方ない。後で従業員の人に謝ろう。


「ミレイユ、居るんでしょ! 大変だよ!」


「……大声でしたから聞こえていましたわ。森に危険人物が居るらしいですわね」


 うお、相変わらず部屋が暗い。カーテンくらい開けてほしいな。


「フォレスディアの人が1人殺されたの。モデンさんも、危ないかも」


「殺された? ……なぜお父様が危ないと分かるのです?」


「大きな荷物を持った誰かをテリーヌさんが見たって。それに……」


 殺されたエルフの人は恋人と羨望(せんぼう)の泉に行っていたらしい。たぶんテリーヌさんが見かけた人物も羨望の泉に向かう途中だったんだ。そしてそれがモデンさんだった場合、1つ、このフォレスディアにモデンさんが滞在していた理由が推測出来た。


 羨望の泉だ。モデンさんはきっと、泉の噂を聞いてフォレスディアに辿り着いたんだよ。泉は何かを入れれば別の何かが出て来るってタキガワさんが言っていた。モデンさんの目的が奥さんを生き返らせることだっていうんなら、もしかしたら、泉に何かを入れて奥さんを出してもらうつもりなのかもしれない。


 自分が滅茶苦茶なことを言っているのは分かる。

 所詮ただの妄想だけど、その妄想が真実だったら危ないんだよ。

 テリーヌさんの話通りなら泉の傍には人間を殺すような危険人物が居るんだから。


「そうですか。羨望の泉、そんなものがあったのですね」


「早く助けに行かないと手遅れになっちゃうよ。行こう、泉に」


「……ですが」


「行かなきゃダメだよミレイユちゃん。何かあってからじゃ後悔する」


 タキガワさんがジッとミレイユを見つめる。


「私ね、最近自分の過去をよく思い出しては後悔してるんだ。もうどうにもならないのは分かっているのに、あの時こうしておけば、こう言っておけばって思っちゃうの。悔いのない人生を歩むなんて難しいけど、自分の心に正直になって動くことが大事だと思う」


「……そうですわね」


 本気の目と言葉。タキガワさん、表情に出さないだけで色々考えていたんだ。

 自分が実は死んでいて、元の世界に戻っても意味ないって気付いて、そりゃ思うことはいっぱいあるよね。友達だって親だって居ただろうし、果たせていない約束だってあったかもしれない。


 もう戻れないからこそ過去を振り返っちゃうんだ。

 もしもの世界を、想像しちゃうんだ。


「ねえミレイユちゃん。お父さんの命が危ないっていうのは私達の妄想だよ。でも、その妄想が真実だったら、お父さんは死んじゃうかもしれない。そんな時、あなたはこんな暗い部屋で引き篭もっていて、未来で後悔しないって断言出来る?」


「ミレイユちゃん行こうよ! モデン様に会って、仲直りしよう!?」


 部屋の外でバンライが叫んでいる。必死の叫びだ。

 隣に居るマヤさんはうんうんと頷いている。


「このまま部屋に居たら、喧嘩別れしたまま一生会えないことだって有り得る。ミレイユ、ずっと会いたかったんでしょ? 喧嘩したままなんてダメだよ。また話してみよう。拒絶を怖がらないで。向き合うことを諦めないで。今度は、私達が傍に居るから」


 生きていなきゃ喧嘩も仲直りも出来ない。

 生きてるってそれだけで素晴らしいことなんだ。

 私はそれを知っている。私はそれを痛感している。

 話せる距離に居るミレイユが羨ましいとすら思える。


「……悩む必要なんてなかったのですね」


 ミレイユがベッドから立ち上がり、歩いて私の横を通り過ぎていく。


「私を見てくれない事実が怖かった。もう耐えられないと思ったから、再び話すのを諦めた。でも、そんな自分に気付いた今、先程までの臆病な私にバイナラですわ。皆さんには感謝感激雨あられ。私はもうだいじょうブイですわ。もう一度、お父様とお話をキボンヌ!」


 暗い部屋から明るい通路に足を踏み出したミレイユはそう宣言した。

 良かった。私達の言葉、ちゃんと届いたんだね。

 言っていることは難しいけどやる気になってくれて嬉しい。

 いや、もう本当に、本当に嬉しいんだけど……キボンヌって何さあ。


「よく言ったミレイユ!」


 マヤさんがミレイユの背中を勢いよく手で叩く。


「私も行きたいけど、危ない奴ってのが町に来ないとも限らないからね。私とテリーヌは町を守るために残るよ。出来ればもう1人くらい人手が欲しいんだけど……」


「ならオレも残るぜ。強さなら自信あるから頼ってくれていいぜ」


 私、タキガワさん、ミレイユ、バンライは羨望の泉行き。

 カオス、マヤさん、テリーヌさんはフォレスディアの守りを固める。

 うん、強さのバランス的に丁度良い編成だね。賛成しておこう。


「ミレイユ、気合い入れて行きなよ」


「はい。ありがとうございますマヤさん。必ず、帰って来ます」


 出発しよう。モデンさんが居るかもしれない羨望の泉へ。


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