恋する兄の様子がおかしい
「おかしい。なんで急にあんなに可愛くなったんだ……。なあまひる、何か聞いてないか」
夜、お茶を飲みにキッチンに行ったら、真っ暗なリビングに兄が座っているのが見えた。キッチンからの明かりでぼんやりと見えるシルエットが恐ろしく、つい「ぎゃあ!」なんて可愛げもない声を上げてしまったのは不可抗力と言っていいだろう。
深夜一時。普段であれば、もう寝ている時間のはずだ。
「……シンくん、まるでそこに居るのが当然みたいに私にいきなり話しかけるのやめてよ。びっくりしたんだけど」
「まひるー、頼りなのはおまえだけなんだよー……。はぁ、おかしい。絶対にあれは、恋をしてる……俺のことなんか眼中になくて、どっかの男に可愛く見られたくて頑張ってるんだ……」
兄は一つ年上で、今はこんなふうにへたれているけれど、大学ではそれなりに人気がある。なんでも「顔がいい」らしく、私の同級生の間でもよく話題にされているほどだ。
だけど私は、これまでずっと兄の顔を見続けてきたからか、はたまたへたれな部分を知っているからか……どうやっても周囲の評価と兄の印象がちぐはぐで、いまだに納得できていない。
告白されているのを目にしたこともあるけれど、そのたび、相手の子に兄のこの姿を見せてやりたくてたまらなかった。
「もー、そんなの麻美ちゃんに直接聞けばいいじゃん。シンくんいつも一緒に居るんだからさあ」
「ばか、目の前で『実は好きな人がいて』とか言われてみろ。おまえの兄ちゃん死ぬぞ。いいのか」
「うっわ面倒くさっ。だからって毎回麻美ちゃんの動向私に聞くのやめてよ」
「おまえたち仲良いだろ」
「シンくんの密偵するために仲良くしてるんじゃありませーん」
――と、いうか。
麻美ちゃんが可愛くなっているのはそもそも、私の助力のおかげである。
(なんでシンくんてこんなに馬鹿なのかなぁ……)
兄が幼馴染の麻美ちゃんを好きなのは誰の目にも明らかだった。だから告白をする女の子たちも、断られてもすんなりと身を引く。しつこくしないし、一縷の希望さえ抱かない。そう思わせるくらいには、兄は麻美ちゃんにまっすぐに恋をしている。
(麻美ちゃんだってシンくんのこと好きなのに……何やってんだろこの二人……)
『超絶美少女な幼馴染のまひるちゃんに、一生のお願いがあるの』
そんなとってつけたようなお世辞を吐いて、麻美ちゃんが私の元を訪れたのはひと月ほど前だった。
『わ、私、実はその……慎也くんのことが好きで……えっと、だから、可愛くなるには、どうしたらいいかなって……』
え、何その言いにくそうな感じ。もしかしてその恋、バレてないとでも思ってたの……?
という言葉は、賢明にも飲み込んだ。そんなことを言えば、恥ずかしがり屋な麻美ちゃんが泣き出してしまうかもしれないと思ったからだ。
(可愛くなりたい、ねえ……)
確かに麻美ちゃんは「普通」である。特別目立つわけでもないし、すれ違っても印象に残るかも分からない影の薄さもある。いつも声をかけられるのは隣にいる私の方だし、そういう時は決まって、影の薄い麻美ちゃんは綺麗に忘れられてしまう。
相手があの「顔がいい」と言われる兄だからこそ、余計に可愛くなりたいと思うのだろうけれど……麻美ちゃんがそんな努力をしてしまったら、兄が卒倒するのではないだろうか。
(ま、いっか。面白そうだし。いいかげんこの二人くっつけないと、面倒くさいことが増えそうだし)
『いいよ、メイク教えてあげる。シンくんのこと、メロメロにしてやろー』
私は兄が必ずメロメロになると分かっていてそう言ったのだけど、麻美ちゃんは「頑張る」と不安そうにうなずいただけだった。
そうして、メイクからファッションまで、麻美ちゃんにあったものをひたすら教えて、時には髪型も変えてあげた。
そんな麻美ちゃんの変化に、兄が気付かないわけもない。このひと月ずっと悶々としていたのか、今日とうとう爆発してしまったらしい。
「……いったい誰だ……誰が俺の目を盗んで……」
「そんなこと考えるくらいならさあ、いっそ告白しちゃった方がいいんじゃないのー?」
「はあ!? ばかおまえそんなことできるか! フラれたらどうするんだ! おまえの兄ちゃんが死ぬんだぞ!」
「何回死ぬつもりなの……てか本当面倒くさーい。から、言っちゃおうかなー」
「言う? な、何を……?」
「麻美ちゃんの好きな人」
途端、そわそわとしていた兄の体がびしりと固まる。
「……す……好きな、人……?」
あ、そうだった。兄にとっては、麻美ちゃんに好きな人が居ることすら衝撃の事実で……。
(私にとっては当たり前すぎたからついころっと……)
兄の顔が引きつっていた。冗談のように言っていた「兄が死ぬぞ」という言葉が、やけにリアルに思えるような表情だった。
「なんだ……やっぱり、居るのか……そうか……」
何度も何度も「やっぱり」だの「そうか」だのと呟いて、兄はふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りだった。私が止める間も無く、兄はふらふらと部屋に戻って行った。
「あー……どうしよ。ごめん、麻美ちゃん」
正直、あの状態の兄がこのことを知ってどういう行動に出るのかが分からない。変に拗れる可能性を思えば、この場にいない麻美ちゃんに無意識のうちに謝っていた。
*
「やっぱりおかしい……なあ、まひる。麻美ちゃんは俺以外に誰とも深く関わってないんだよ」
「いやだからさあ! なんでいっつも電気つけないで座ってるわけ!? そんでなんでいっつも当たり前みたいに声かけてくんの! 超怖いんだけど!」
夜中に目が覚めて、トイレに行くかと部屋を出たのは少し前だ。ついでにお茶でも飲んで戻ろうと思ったのがいけなかったのか、キッチンに行けばいつかのように、真っ暗なリビングに兄がいた。やっぱり、薄ぼんやりとしたシルエットがどこか気色悪い。本当にどうしてこの兄に人気があるのか、まったく理解不能である。
「夜中だぞまひる。静かにしなさい」
「急に常識人ぶらないでよムカつく。……何、落ち込んでたのにもう復活したの?」
お茶を飲んでそちらを見ると、やけに真剣な顔をした兄が何かを考えるような間をおいた。
黙っていれば確かに、顔は整っているのかもしれない。
とはいえ、兄がおかしくなるのは麻美ちゃん限定だし、外では麻美ちゃんと一緒だから安定しているし、おのずと変な様子になるのは家の中だけなのだけど……だからこそ、みんなを騙して人気を得ているみたいで、なぜか私の胸が痛い。
もう何度、告白している女の子たちに暴露してやりたくなったことか。いっそ麻美ちゃんにも言ってやりたいくらいである。
「転んでもただでは起きないのが俺だ。……俺はあれから、麻美ちゃんの観察をしていた。朝起きてから夜寝るまで、何をしたのかを事細かに麻美ちゃんに聞いては教えてもらったり、俺自身が麻美ちゃんの後ろをつけたり……誤差なんて生じないようにと、綿密な調査を行った」
「うっわ気持ちわる」
「二週間のデータをとった結果、麻美ちゃんは朝は洋食派、ジャムならイチゴ、パステルカラーが好みで、どちらかと言えば辛党だと言うことまで分かった」
「趣旨変わってない?」
「麻美ちゃんの部屋に行った時に部屋も少し調べたけど、特に怪しいものは出てこなかった。……携帯もチェックした。男とのやりとりはなかった」
「……シンくんって本当、麻美ちゃんのことに関しては馬鹿だよね。大馬鹿」
これでなんでこの二人、まだ付き合ってないんだろう。
麻美ちゃんの努力もまったく伝わっていない。いや、間違った方向で伝わってしまった、と言うのが正しいのかもしれない。
何も言わない私が悪いのだろうか。
だけどこういうのは、第三者から伝えるのは野暮というものでは……?
「朝起きてから夜寝るまでに麻美ちゃんと多く関わる男は俺くらいだ。他の男の影もない。連絡先もない。それなのに、麻美ちゃんにはアレが居るというし……くそ、麻美ちゃんのアレが誰なのかが分からない……ここまで調査したのに……」
「好きな人って言いたくないのは分かるけどさあ、濁し方おかしいよ」
「二週間でしっかりとしたデータはとれないということか。やっぱりひと月は見ておいた方が良かったのかな」
「嫌だよ、シンくんがひと月もその状態だったら、麻美ちゃんのパンツとか靴下とか盗みそうだし」
「持ってるぞ」
「引く! ドン引き!」
「これは偶然だ! 盗んだわけじゃない! 俺が麻美ちゃんの家に行くと、通りがかったリビングに落ちてたんだ!」
「いやそれたたもうとしてただけだから! 取り込んでそのままおばさんがちょっと離れてただけだからね! 落としてたわけじゃないんだから返してきなさい!」
「知らないのか? 落ちてたものは拾った人間のものになるんだ」
「何その暴論。てか、そもそも落としてないんだって」
もう本当に、大学で「慎也くん素敵!」とか言ってる女の子たちにこの兄の姿を見せてやりたい。思い切り失望されてしまえばいいんだ、こんな変態。
「……もうダメだ。知りたいのに知りたくない。俺の麻美ちゃんにアレがいるなんて考えたくもない」
「いつからシンくんのになったの」
「まひる。ヒントをくれないか。麻美ちゃんのアレが誰なのか」
「……知ってどうすんの」
「完全犯罪もやぶさかではない……」
兄の目が、ギラリと光る。リビングは電気をつけていないからか、暗闇から獲物を狙う獣のようにも見えて、その恐ろしさから背筋が自然と伸びた。
「いやいや……えー、どうしよっかな」
そもそもなんで、自分以外に誰とも関わっていないのだから好きな人は自分だ、という結論に至らないのか。兄は頭は良いはずなのだけど、やっぱり麻美ちゃんに関しては大間抜けである。
しかも、放っておくと変な方向に努力をしてしまうらしい。今回のこの二週間でよく分かった。変な調査を進めて、すっかり変態の仲間入りだ。
ダメだダメだ。兄がこれ以上道を踏み外すのは見ていられない。兄に純粋に憧れてくれているあの女の子たちをこれ以上裏切り続けるなんて、私の良心がぶっ壊れてしまう。
「麻美ちゃんの好きな人はね、身長が高いよ。百八十は超えてる」
「はあ? それなら俺だって超えてる」
「あと頭もいい」
「俺も大学では優秀だ。教授の覚えもいいだろ」
「人気もあるよ。よく告白されてるみたい」
「俺もされる。ふん、大したことないんだな、麻美ちゃんのアレは」
「ねえいちいち張り合ってくるのやめて!? もうめちゃくちゃ面倒くさいしすっごいムカついてくる!」
自信過剰な兄の言葉に否定できないのも腹が立つけど、そこまで一致してるのに「じゃあ俺だな!」とならない鈍感さに一番腹が立つ。どうして自分には自信があるのに、こと麻美ちゃんに関してはそれが一切なくなるのか。
「周りくどいから直接的なこと言っちゃうけどさ! その人、実は一回も染めたことない黒髪で、毎日しっかりセットしててさ、服装も気を遣ってシンプルにお洒落な女の子ウケ抜群な格好してるし、ストリートスナップの撮影されてからは読者モデルもやってるみたいなんだよね! しかも超絶可愛い妹がいて、幼馴染の女の子がいんの! さらに片思い中!」
ここまで言えばさすがに気付くだろう。
いや、言い過ぎたくらいかもしれない。こんなの、名前を言ったも同然だ。
自分に自信がある兄のこと。それって俺じゃん、と、自意識過剰にも気付いてくれるに違いない。
――なんて、思った私が馬鹿だったのか。
「そこまで俺と一緒なら、いっそ俺でもいいだろうが!」
兄には何一つ伝わっていなかったらしく、「俺の方が絶対にいい男だし麻美ちゃんを幸せにできる」とまだしつこく張り合っていた。
「くそ、そんな男が麻美ちゃんの周囲にいたとは……調査をもっと強化しないと……!」
イライラとした様子で立ち上がると、兄はそのまま何かを呟きながらリビングを出ていく。
……なぜここまで言って気付かない。というか、自分で言っていてなぜ理解しないのか。
「あー……なんか疲れた。なんだっけ、こういうの、なんかぴったりな言葉あった気がするのに、疲れた」
今日はぐっすりと眠れる気がする。そんなことを思いながら、今はしこたま惰眠を貪ってやりたい気分だと、私もキッチンを後にした。
*
「どう考えてもおかしい。やっぱり男の影なんかないんだよ」
「もう驚かないよ……。居るだろうなって、そろそろこっちも心構えしてるからね……」
目が覚めてトイレに行き「お茶を飲もう」と思ったあたりから、もしかしたらと兄が居る可能性を考えていた。そのため今日は変な声をあげることもなく、ただただ「うわぁ」と気持ち悪いものを見たときの声だけが漏れた。
そのくらいでちょうどいいのだ。この兄をまともに相手していたら身が持たない。
「……前回の調査からさらに今日までの二週間で、少しやり方を変えてみたんだ。これまでのことは継続して、寝る前には麻美ちゃんのベッドの下に潜んでみた」
「気持ち悪っ」
「そこで分かったのは……ふふ、いや、ふふふ……そうだな。下着の色から、可愛らしい寝言くらいか」
「ちゃっかり着替え覗いてんじゃん! 最低!」
「麻美ちゃんがこの二週間でつけた下着のバリエーションは七つ。だいたい一週間分を所持しているみたいだ。好みはふんわりレース系で、過激なのは持っていないんだろうな。そしてやっぱり、パステルが多い……」
「回想に耽らないで本当に気持ち悪いよ」
「ちなみに、寝言で俺のことを呼んだ回数は五十三回。俺がベッドの下にいるのがバレたのかとヒヤヒヤした回数と同じだ」
「だろうね、ヒヤヒヤしただろうね。てか麻美ちゃんも呼びすぎじゃない……?」
「お! まひるもそう思うか! 俺も思ってたんだよ。寝言にしても、俺を呼びすぎなんじゃないかって」
二週間で五十三回……もはや起きているのではないかと思えるレベルの回数である。
だけどこれはチャンスだ。それだけ呼ばれたのなら、麻美ちゃんが自分のことを好きなのでは、と思ってもおかしくはない。
「だから俺、思ったんだけどさ」
兄の言葉が不自然に途切れる。どこか緩んだその横顔からは、とうとう気付いたのかと、そんな期待すら持てた。
「麻美ちゃんの相手は、やっぱり俺でもいいんだよな」
――と、思った私が馬鹿だった。
そうだ。そうだった。この兄はポンコツだ。期待するだけ無駄だ。私は今更、何を思っているのだろうか。
「ほら、前に話したとき、麻美ちゃんの好きな人、俺とほとんど同じ特徴だっただろ? 麻美ちゃんだって俺のことを寝言で呼ぶくらい慕ってくれてるんなら、俺のことを好きになる可能性もあるってことだ」
「ソウダネ、ソウカモネー」
「俺はもう麻美ちゃんの体や下着まで知ってるんだ。麻美ちゃんのアレよりも、麻美ちゃんに近しい自信がある。いや、もはや恋人と言っても過言ではない」
「過言だよ。シンくんが一方的に知ってるだけなんだから過言だよ」
「夜中にそっとベッドの上を覗く時が最高なんだ……。無防備な麻美ちゃんが可愛くてね……はぁ……チラッと見えるおへそやら背中やらに、俺がどれほど翻弄されたか……」
「目を覚ましてよ犯罪者!」
もうダメだ。これ以上放置しては、兄が本当にダメダメになってしまう。
このままでは、兄に憧れている大学の女の子たちに顔向けどころか大学にさえ通えない。あんなにも爽やかな顔でキャンパスを歩く兄が、実は夜な夜な幼馴染のベッドの下に潜んで着替えを覗き、あまつさえリビングにあったパンツを「落ちていたから」と暴論を振りかざして盗んで所持しているなんて、いったい誰に言えるだろうか。
第三者から伝えることが野暮? そんなもの知るか。これ以上兄をダメにしてしまうのなら、いっそ言ってやることも優しさだ。
「麻美ちゃんの好きな人はシンくんだから!」
言い切ってみれば、やけに心がすっきりとした。
これで兄の暴走が止まると、そんなことに安堵したからかもしれない。あるいは、両者の気持ちを知っている私が一番、今回のことに関して力が入っていたからなのか。
二人のことは大好きだ。兄は馬鹿だしポンコツだけど、すごく優しくて楽しくて、どこに行っても自慢ができる。麻美ちゃんだっていい子だし、いつも相談に乗ってくれるし、優しいお姉ちゃんみたいな存在だ。
だから、二人には幸せになってほしいと思っていた。
それが叶おうとしているために、嬉しいと思っているのかもしれない。
(直接言えば、どんなに鈍感な人だって気付かないわけないし……)
これでようやく、二人は恋人同士に――。
「あ、やっぱり。俺と麻美ちゃんて、恋人だったんだな」
――は? と。つい、そんな声が出た。
「薄々思ってたんだよ。俺たちいつも一緒にいるし、麻美ちゃんのパンツとか靴下も持ってるだろ? それに二十四時間何してるかも把握してるしさ、夜には寝る時だって一緒なんだよね。これって、恋人ってことだもんな?」
「……違うよ?」
「麻美ちゃんだってさ、五十三回も俺を呼んでくれたんだ。夢の中でも会ってるってことは、恋人だよ」
「……断じて、違うよ?」
「ふふ……そうか……そうかぁ……ふふふふ……いやー、どうしよう……これまで生殺しだったからなぁ……そっか、恋人だったから襲っちゃって良かったのかー……気付かなかったなあ、遠慮なんかしなきゃ良かった。……おかしいと思ってたんだよ、腹出して寝たり、名前呼んだり……唸る時なんかやけに色っぽい声出すから誘ってんのかなって思ってたんだけど、やっぱり誘われてたんだな……。でも恋人なんだからな、いいんだよな、そうかそうか……ふふ、あはは、どうしよっかなぁー」
やけに上機嫌に立ち上がった兄が、軽い足取りでリビングを出ていく。遠くからはまだ「楽しみだなあ」だの「どんなことしようかなあ」だのと聞こえてくるが、引き止めることもできなかった。
あれ。もしかしてあの人、麻美ちゃんに関してはもともとダメダメな人だった……?
あーなるほど。それなら仕方がない。私は悪くない。兄は最初からバグってたんだから、私が何をしたって無駄だったのだ。それに何より、麻美ちゃんも兄を好きなのだから、兄に襲われるのなら本望だろう。ロマンチックな兄のことだ、麻美ちゃんの前では格好つけて気取るのだろうから、無理やりするなんてこともないのだろうし。
「いやー、そっか。これがハッピーエンドってやつね!」
もう何も考えたくない。
女の子たちに顔向けできないとか、そんなことも知るもんか。
今はひとまず深い眠りにつきたくて、私もすぐに部屋に戻った。
――麻美ちゃんから「無事恋人になれたよ」と報告を受けたのは、その二日後のことだった。
裏側に何があったのかだけは、絶対に言わないでおこうと思う。
読了ありがとうございました。
今作もTwitterで出していた短編になります。
自分的にお気に入りだったので、こちらにも掲載させていただきました。
それでは、季節の変わり目で体調を崩しやすい時になりますので、お体には充分にお気をつけてお過ごしください。
お時間をくださり、ありがとうございました。