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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
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第6話「笑顔の可愛いお嬢様」

 次の日、咲はいつもの時間よりもずっと早く来た。鶴田さんにだいぶごねたらしい。今日は検査があまりないらしく許してもらったようだが…。

「まったく、鶴田さんにもスケジュールってものがあるんだから、あんまり困らせるなよ。」

「昨日予定を狂わせた千明が悪い。」

 受け答えが早い!初めて会った時とは大違いだ。感慨深く思っていると、

「で、千明、命令。」

 忘れてはくださらなかったようだ。

「なんでしょうか?」

 本当に無茶なものにはしてほしくないものだが、大丈夫だろうか?息を八分止めろとか言わないよね?ハードな内容はマジでやめてね?

「私の執事になりなさい。」

 人差し指を立てながら真剣なまなざしでそう言ってきた。最悪を想定しすぎていたためか存外間抜けな声を出してしまった。

「はえ?」


「執事?羊じゃなくて?」

「執事。ていうか私の羊って意味わかんない。そんなのになりたいの?」

「なりたくないなりたくない。ペットはなるより飼うほうが好みだ。」

「きいてない。」

 どうやら執事のようなふり、言動や行動を執事風にしろということらしい。そういえば最近そういう系の小説貸した気がする。

「期限はというと?」

「私がいいというまで。」

 これもしかしたらこれから一生やらされる可能性がある。鶴田さんとかに見られたらどんなふうにからかわれるか分かったものではないが、約束してしまったのだから仕方がない。

「わかったよ。」

「ご主人様にその口の利き方?」

「もう始まってたのかよ…。」

「もう一回。」

 さて、執事風の応答とはどのようなものだろう?少なくとも相手には尊敬語だろう。どう考えても相手は自分より身分が高いのだからため口にはできない。というか咲にとってそれはNGらしい。自分の一人称は「わたくし」がよいのだろうか?「おれ」は論外として、「ぼく」とか「わたし」は少々普通の使用人感が強い気がする。「わたくし」はっぽい気がするが、日常生活では絶対使わん気がする。今までの思考を総括して考えうる正しい返答は…。

「承知いたしましたお嬢様。どうぞ私めに何なりとお申し付けください。」

「ぶふっ!」

「笑うにゃ!」

 噛んだ!こちらは割とまじめにやったというのに失礼な奴だこのチビガキ!

「ごめんごめん、その調子…。」

 いまだ笑いをこらえながらいるこのガキンチョに若干の怒りを覚えるが、子供の挑発にむやみに乗るわけにもいかないだろう。それにしても、こうして楽しそうに笑っている姿を見ると、なぜか怒る気もなくなってしまう。あった時はまるで違う、本当はとても明るい子なのだろう。小動物みたいでかわいらしくて、少々からかいたくなってしまう。

「いつもそうやって笑っている方が愛らしいですよ、お嬢様。」

 咲の耳元でそう囁く。クラスメイトはどころか、家族にさえこんなことはしないだろう。親しい年下の子供ゆえにできうる芸当だ。からかい半分なわけではあるのだが、彼女には思った以上に聞いたらしい。

「な…な…!?」

 真っ赤な顔して固まっている。

「おや?お顔が赤いですよお嬢様。どうかなされましたかお嬢様?お熱ですかお嬢様?」

「うっさい!千明の馬鹿!」

 さらに顔が赤くなっている。先ほど笑われた報復だ。ここまで聞くとは思っていなかったが、なんというか楽しい。だが、

「お嬢様、仮にもここは病院。声を荒げてはなりませんよ。」

「う、うー…。」

 悔しそうににらんでくるが、これでも頭は回るほうなのだ。県の進学校で平均的な俺をなめるなよ?口論は強いのだ。まあ調子に乗って病室のほかの人には悪いことをしてしまった。今度謝っとこう。

 出会ってからまだ数週だというのに、よく考えると親近感がわくのが早いなと思う。この子とこうやって仲良く談笑するなど思ってもみなかった。友達の定義とか知らないから友達なんていないのスタンスをとっている自分だが、案外コミュ力はあるかもしれない。やはり年下の子供だと遠慮しなくてよいからだろうか?自分は末っ子なのでわからないが、妹がいればこんな感じなのかもしれない。

「千明、本!」

 ふてくされた顔で手を差し出してくる咲。

「承知いたしました。お嬢様。」

 袋に詰められた小説を渡す。彼女はいつものようにベッドに体を預けて読み始める。飼い猫みたいで撫でたくなってしまうが、そんなことしたら怒るだろうな。そんなことを考えながら彼女を眺めていたせいで、見回りに来た鶴田さんがにやけてみていることに気づくのはもう少し後だった。

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