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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
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第56話「どうか…」

あの日からは早かった。あの人の主導で進行していくプロジェクト。その方法は俺程度に理解できるものではなかった。旭は免疫細胞を打たれ、薬を使って大量生産する。これを咲に投与するのだというが、それが本当かどうかなど俺にはわからない。ただ、咲は確実に助かるとそう言っていた。早いことですでに三週間。十一月も終わろうとしていた。

「千明。」

「ん。」

 両手を広げる咲。

「ん?」

「これからしばらく会えないから。ん!」

「ああ、そういうこと。」

 咲はあの日から何度もハグを求めるようになった。調子がいい日でも悪い日でもどうやら真正面から抱きしめられる方が好きのようで会えばいつもしていた。約束があったとはいえ不安なものがあるのだろう。いつものように俺は咲を抱きしめた。

「そういえば、十二月は咲の誕生日だったんだっけ?」

「十二月二十四日。イブ。」

「ふむふむ。じゃ、プレゼント用意しておくから楽しみにしておけ。」

「ん。期待してる。」

 そういって咲の背中を撫でた。これがまたいいさわり心地で困る。今日で終わりかと思うと名残惜しい。

「さっきちゃーん!そろそろいっく…ごめんお邪魔しました。」

 びくっと咲の体が跳ね上がる。急にドアを開けてきたのは鶴田さんだ。

「お邪魔ではありませんが、あんまり咲を驚かせないでくれませんか?まだ重病患者なんですから。」

「ごめんごめん。…でも本当に大丈夫?カブトムシは交尾中を見られると死ぬっていうし…。」

「してませんから。っていうかあんた子供の前で何つーこと言ってんだ。」

 咲が真っ赤になって固まっている。鶴田さんの下ネタは困ったものだが、ちょっとは緊張がほぐれただろうか?

「咲。頑張ってこいよ。必ず治るから。」

「ん。またね千明。」

「おうまたな。」

 咲は今日から放射線措置の後無菌室へはいる。そしてドナーの移植を受けるのだそうだ。そこには対話スペースもあるらしいが、俺はいくことを許されなかった。鶴田さんに車いすを押され遠ざかる背中をみて俺は言った。


「どうか咲をよろしくお願いします。」

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