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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
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第51話「約束」

ブックマークとご評価宜しくお願いします。

 十一月になるともう昼でも肌寒い。木々の葉は落ち蟲は地に落ち死に、動物たちは冬を越すために食べ物をあさる季節だ。死が近くに感じるこの時期の寒風は今はどうも気味が悪く感じる。咲の起きている時間は前よりもずっと短くなった。病室に着くと俺はいつものようにできるだけ優しくその左手を握った。

「…。」

 ドナーはまだ見つからない。抗がん剤も効かない。確か父が言っていた。抗がん剤がなぜがんに効くのかは全く分かっていないのだという。たまたまそのがんにある薬が効いただけ、当たることもあれば外れることもある散弾銃だ。当たらなかった弾丸は体全体を蝕んでいく。肌は荒れ、髪は抜け、目はその生気を全く失ったかと思うほどだ。何故ちょうど俺の血が適合するとか、そういう夢物語じゃダメなのか?どうしてラノベのようなご都合展開がないのだろう?

「…千明?」

「お、起きたか。」

「千明…だ。」

「おう。」

 咲は頬を緩める。きっと体中気怠くてつらいだろうに。だがその笑みが少なからず俺に安らぎをくれた。数分の間、咲は俺の手をもてあそんだ。人の温度を求めているのか、きっと寒いのだろう。発熱があるというのに彼女の手はひどく冷たいから。

「千明…。」

「ん?」

「お泊り会…しよ?」

「お泊り会?」

 咲は突然そんなことを言った。寝ぼけているのかとも思ったが彼女は話を続ける。

「鶴田さんがね、千明なら、ここに泊まっていいって。。ベッドも用意してくれるって…いうから。」

 咲は俺の手を自らの頬にあてた。こちらは熱い。なのに青白い彼女の顔はなぜかうれしそうだ。

「だから…今度でいいから、しよう。」

 なるほど、拒否権はないのですね。いつものように断る気などさらさらないのだけど。

「わかった。また来週な。」

「ん。待ってる。」

 そういうと咲はまた目を閉じた。きっと来週もこんな感じだろう。咲が目覚めるわずかな時間俺が手を握るだけ。意味のないことかもしれない。だが、俺もインフルエンザとか症状の重い病気になった時、母の手を求めていた気がする。俺はまだ大人ではないが、咲はもっと子供なのだ。だからきっとこれにも意味があるはずだ。俺は咲が完全に眠って手を放すまでその手を握りしめていた。

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