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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
42/55

第42話「アイドル旭ちゃん♡」

 たった一週間で本当に一時間ぶっ通しで歌うという旭。正直半分ぐらい冗談で、二曲ぐらいいつか歌ってもらおう程度に思っていたのだが、どうもやる気らしい。マイクに見立てているのかはわからないが、箸を手に持ってポーズを決めた。

「みんな―今日はボクのライブに来てくれてありがとー!」

 みんなって誰だよ。行儀悪く肩ひじついて寝っ転がって(肘にクッションを敷いてみた)いると、なんか文句を言ってくる。

「ちょっと!こういう時はうおおおお!って歓声上げるんだよ。千明君が観客役なんだからしっかりしてくれよー!」

「そこまで再現しろとは言ってないっての。」

「ちょっとは付き合ってよ。今日は千明君の好きな曲全部覚えてきたんだから、この世界にボク以上に千明君の好みなアイドルはいないんだよ?もっとアイドルみたいに敬って!」

「ええー。」

 確かに好きな曲は伝えたけれど、あれ確か二十曲ぐらい好きに選べって送った気がする。一曲六分で計算して十曲、選択の自由としてさらに十曲という普通の人なら五曲聞いたらあとは聞こうとすらしないだろうに。本当ならよく覚えたものだ。

「じゃあもう一回やるからしっかりやってよ!今日はボクのライブに来てくれてありがとー!」

「おー。」

「早速一曲目を始めるよ!最初は松〇聖子の「青〇珊瑚礁」!」

 旭はパソコンのところへ駆け寄ると日本で有名な動画サイト「ようつべ」で伴奏を流し、歌いだした。

「あー私の恋はー♪…」

 正直驚いた。いい声なのである。歌というのは結構筋力が必要なのだ。しっかりと音圧のある声を出すには鍛錬が必要だ。ひょろそうな彼女がそれも歌をあまり歌ってこなかったようである彼女がここまで歌えるとは思っていなかった。そのうえ容姿は確かにアイドル出来そうなレベルであるし、持っているものが箸でなければアイドルに見えなくもなかった。

「切って走れ!あの島へ―♬」

 歌い終わると旭はこちらに笑いかけた。別にときめいたわけではないけれど、ドキッとした。いつもの仮面がない。いや俺がこの空気にあてられているだけかもしれないけれど、とても自然な笑顔に見えた。

「乗ってきたから二曲目もいっちゃうぞ!中森〇菜の「ミ・ア〇ーレ」!」

 俺はアイドルとか歌手などのライブとやらに行ったことはないし、見たこともない、興味がなかったからだ。だがこうして歌うことを楽しみながら、美しい作品を生み出す彼女をもっと見ていたいと思った。そして俺は俺は彼女が歌いやすい音域など知らないので高めの音域の曲も今歌っているようなちょっと低めのかっこいい曲も送ってみたのだが、どうやらどっちもいける口らしい。アルトの土台のしっかりとしたような歌声まで出せるというのは一種の才能だろう。…もしかして本当に天才なのだろうか?

「アモーレー!………ふひぃ…。」

 二曲目をうたいきると旭がふらついて倒れた。

「お、おい大丈夫か?」

 箸で体突き刺してはいないようだ。どちらかというと故意の転び方だったので大して心配はしていないが、倒れること自体あまり楽観できることではない。

「あはは…いやー酸欠。歌い続けるのってつらいね。」

「あーお疲れさん。まあそうなっても仕方ないわな。今まで歌ってなかった奴がいきなりぶっ通しで歌ったら。運動してなかった奴がいきなり二百メートル走全力で走り切るようなもんだ。」

「それを僕に一時間ずっとやれなんて千明君鬼畜だなあ。」

「本当にやるとは毛ほども思ってなかったんだよ。まあ二曲でつぶれるのはそれはそれで想定外だったけど。」

「ボクも自分で思ってたより万能じゃなかったってことだね。あー疲れた!」

 その割には息切れはあまりしていないようだけどね。旭はこちらを向いて透明な壁に手を当てた。

「歌うっていいね。すごく晴れ晴れとした気持ちになる。」

「気分悪くなるならだれも歌なんて歌わないよ。そりゃ当然だ。」

「でも千明君って昭和の曲ばっかり選んでるね。歳ごまかしてるんじゃないの?」

「今時の曲も送ったろ?ボカロとか。確かにあんまり今の曲に興味が引かれないのは確かだけどな。」

「そっか。それで、ボクの歌はどうだった?何点?」

「三十点。」

「えーなんでさ!?あ、」

「百「三十点満点中。」」

「ちょっと待ってなんでそこに百付けるのさ!?」

「どこかの替え歌専門の歌い手の歌詞のまま行くとでも思ったか?」

「そういう流れでしょ今は!そんなにひどくはなかっただろう?」

「まあ、まだまだだろ。」

「えー。」

 旭はぶーぶーとなぜかクレームを言ってくる。まあ残念ながらまだ初心者レベルだ。それは仕方がない。けれど彼女がこれからも歌い続けるならば、きっとすごくうまくなるのだろう。

「何点かはいいからさ、ちょっとくらい感想聞かせてよ。」

「…そうだな、音域が広さは正直驚いた。歌いなれてないのに声も出てたのはよかった。逆にまだ抑揚とか基本的な声の出し方がいまいちだからまずは発声練習をして基礎体力をつければもっと良くなると思う。」

「ものすごくリアルな感想ありがとう。でもボクはまだまだ伸びしろがあるってことか。」

「そうだな。」

「じゃあ、時々こうして歌おっか。まだ千明君の好きな歌全部歌ってないし。」

 そうって彼女は微笑んだ。どうも今日は彼女のアイドル的な空気に酔ってしまったらしい。それが演技かどうか全く分からない。とても自然だ。

「俺は歌わないけどな。」

「えー!?一緒に歌おうよーデュエットとかしようよ!」

「嫌です。」

「そんなー。」

 歌は人の心を豊かにする。この何の彩もない真っ白な部屋に見えない虹を添えてくれる。だからたぶん今日のこの出来事はとても良いことだったといえるだろう。もしかなうなら、彼女の人生は白だけでない鮮やかなものであってほしいものだ。

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