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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
3/55

第3話+α 「You can make friends with strangers, just because…」

 さて、咲と出会ったあの日から一週間ほどが経過した。あれから先は毎日ここに通っては一緒に本を読んでいる。彼女はあまり本を読むことに慣れてはいないらしく、一日に半冊ほどしか読んでいないが、そのおかげか飽きずにずっと本を楽しんでいる。自分はというと昔から速読しかしないのですぐに読み終わってしまう。見習った方がいいかもしれない。そして最近では本だけではなく話す回数も増えてきた。薄々感じてはいたが、人見知りなだけでコミュ障ではないようだ。今日もいつも通り二人で本にふけっていた。

「ねえ、千明。」

「この字なんて読むの?」

「えーっと、これは「鬱」だな。」

「これは?」

「フム、「髑髏」だな。」

「これってなに?」

「んー、「分裂病」?精神病の一種だな。人によっては幻聴が聞こえたり、幻覚が見えたりするとかいうな。」

「ふーん。じゃあこれは何?」

「これは「MDMA」簡単に言うと合成麻薬で…って、おい。」

「何?」

「さっきからきいてくる単語が不穏すぎるんだけど。俺そんなの出てくる小説貸したっけ?もっとハートフルな奴だった気がするけど。」

「そこに置いてあったやつ。」

「ああ、俺が昨日読んでいたやつか。まだ咲には早いんじゃないですかね。」

「別に。千明が呼んでたから興味が出ただけ。私のせいじゃない。」

「ううむ…。」

 会話も続くようになって、以前のような気まずさはなくなっていた。スポンジのように知識を吸収していくので、小説談義もできるようになってきた。ちょっとうれしい。が、このガキンチョ、おそらく11、12歳くらいだと思うが、自分の読んでいるようなアンダーグラウンドな小説を本当に見せて大丈夫なのだろうか?教育的に良くないのでは?

「ねえ千明。」

「どうした?」

「死ぬって怖い?」

 また暗い話になった。恐らくあのダークな小説のせいだろう。やっぱ取り上げたほうがよいだろうか?

「そりゃな。息ができなくなるって苦しそうだし、その後どうなるかわかんないからやっぱ恐い。」

 死について考えることは今まで何度もあった。かといって答えが出ることなどないのだけど。

「私はずっと死にたかった。」

 咲はそんなことを平然と言う。脈絡がないので反応に困るのだが、なんとなく口元が緩んでしまった。

「かったか。ならいい。」

「そ。」

 きっと彼女は昔にそう思うようなつらい出来事があったのだろう。正直自分の頭ではこの子が自分に何を求めているのかそれを推察出来てはいないが、その出来事がもう続いていないことはわかる。

「咲はどうなんだ?死ぬのは怖い?」

「うん。」

 そういうと咲はまた本へと目を落とした。少し経った後、なんとなくいうべきだと思って口を開く。

「なら、さっさと治して生きなきゃな。」

 この病院で本を読み続ける生活も悪くない。けれど世界は本だけじゃない。もしかしたら咲には、そして自分にもそれ以上に素晴らしい世界があるかもしれない。その世界を捜すことが生きることなのではないかと思っている。そんな意図を察したのかどうかはわからないが、

「ん。そうね。」

 咲はそう一言つぶやいた。



登場人物紹介①


白矢千明

目つきの悪い、陰キャラメガネの男子高校生。髪質のせいか朝起きると十中八九寝癖が付いている。一般高校生より背は低めであることが悩み。中学時代は陸上部で短距離走で県大会で入賞までは持ち込んだが、全国大会には出られなかった。趣味は読書と音楽制作、絵を描くこと(うまいとは言っていない。)


霞ヶ丘咲

人見知りな性格の美少女。もみあげあたりが長く後ろは短髪と特徴的に髪形をしている。二年ほど前から入院。鶴田のことを姉のように慕っている。大体の人間には拒絶反応が出るが、初対面の千明の姿があんまりにもアレ(足を吊り上げられてだるそうに寝ている姿)で結構話しやすかったらしい。


鶴田ヒナ

ベテラン臭のある最強の看護師。だが見た目はとても美人で、職場内でのファンが結構いるらしい。千明にお姉ちゃんと呼ばせようとことあるごとに要求している。社交的でいろんなことにおいて躊躇がない。トイレを手伝われた時はふてぶてしいことで定評のあった千明もさすがに死にたくなったらしい。

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