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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
24/55

第24話「 承 煉獄への序章 」

ぺらぺらと本をめくる。ずっと楽しみにしていたマンガの最終巻だ。けれど今は全く内容が入ってこない。これを持ってきた千明は一週間前とは明らかに違っていた。前から強かった寝癖は更に乱れ、目元の隈は誰が見てもはっきりと見えるまでになっていた。それにもかかわらず、彼の口調も仕草もまったく変わっていなかった。三週間前、リハビリから帰ってきた彼の表情はとてもひどいものだった。今にも心臓がつぶれてしまいそうなおびえた顔だ。それからは大して問題中たように思っていたが、今週の変化はあまりにひどいものだった。

「どうかしたの咲ちゃん?」

 鶴田さんがこちらを心配そうに見つめる。きっと自分の態度から分かるのだろう。千明はずっと隠しきっていた。自分とは違う。まるで自分の心をもだましているかのようだ。

「別に。何でもない。」

「そう?ならいいんだけど。」

 自分は何一つ隠せない。どうして自分と千明を比べているのかはわからないが、ひとつだけ今決めたことがある。次に会ったら面に向かって話をしよう。彼は学校にいた話にもならないクズどもとは違う、きっとあそこまでになる理由があるのだろう。なら私はつらい彼の心の支えになりたい。そうすれば、そうすれば…

「一緒に、死んでくれるよね…千明。」


「工藤先生。論文をまとめてきました。」

 まるで大学の生徒と相対しているかのように思えた。論文の文字は決してきれいではないが、彼がどれだけ頑張って書いたのかよくわかる。いくつものしようと論文を用いて作られたこれの題名は「免疫不全動物の免疫の獲得について」というものだ。工藤は三週間前、彼に旭の処分について話した日を思い出していた。

『処分って?…旭の居場所が移動するとか、そういうことですか?』

 頭の回転の速い彼のことだ。すでに言葉の意味は理解していたのだろう。けれど認めたくない、そんな様子だった。残酷だとはわかっている、だが具体的に告げた。

『彼女はもう不要になった。だから殺処分することになったんだ。』

『は…?』

 意味が分からない。そう言いたげに声を漏らした。

『期限は今年の十二月。詳細はまだ決まっていないが…。』

『なぜ殺す必要があるんです?』

 怒りをかみしめ、のどから絞り出すように彼は問うた。ほんの数か月しか会ってから経過していないというのに、そこまで想ってくれるなんて彼は本当にやさしい。本当にうれしい。あの子に彼を合わせて本当に良かったと思った。そして本当に申し訳ない。

『君も知っての通りだが、彼女はあの部屋でしか生きられない。病院としても彼女が不要になった以上、あの部屋の維持費はもう出せないといているんだ。』

 だからどうしようもないというつもりだった。けれど彼は違う結論にたどり着いた。

『つまり旭が、外に出ても生きられればいいってことですね。』

 かれのめをみてくどうはおどろく。先ほどまでの少し眠そうなジト目ではなく、まるで鬼とでも相対しているかのような力強い目だった。

『旭が免疫を獲得し、外で生活できることを証明すればいいんですね。』

『…ぁ…。』

 伝えなければよかったと思った。現実は残酷だ。どうあがいても、どうにもならないことがあるのだ。ましてや十六歳の少年に何ができるというのか。けれど

『必ず方法を見つけてきます。』

 あんなにけなげに娘のことを想ってくれる少年を誰が止められようか。私は何もできなかった、いつもと同じように。いつだって最悪の悪は私だった

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