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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
23/55

第23話「生きる意味」

 夢に出てくる黒猫。もう見飽きるほどであるというのになぜこんなにも同じ夢を見るのだろう?真っ暗な世界であるのに輪郭がはっきりと見える黒猫は今日も問いかける。

「生きる意味とは何だろうか?」

 たくさんの物語で問われ続けている疑問だ。きっとなん百何前年も前から考えられてきたことだろう。よく言われるのは、幸せになるためとか。

「あっはっは。別に幸せになること自体に何の意味もないじゃないか。いつだって幸せになりたいのは人に都合さ。」

 なら…世界を変えるためとか?

「あははははは!大きく出たね。でも世界を変える必要なんてある?」

 ったく、ならさっさと言えよ自論を。結局それが言いたいんだろ?

「今日はそうさ。」

 体を伸ばして、顔を洗うようなしぐさをしながら猫は言う。それにしても、どおうして自分はこんな夢を見ているのだろう。ここでの会話と疑問と答え、論理的に見えて無茶苦茶だあることもある。同時にすっとのどを通るものもある。自らの夢にしては鮮明すぎて、神との対話としてはくだらなすぎた。ならばこれはいったい何なのか。

「答えは、「意味なんてない」だよ。」

 黒猫の目が自分をとらえる。鋭い獣の目ではない。人の目でもない。ただしっかりと自分を映している。疑問の全否定に困惑しながらも理由を聞きたくなった。

「人がいなくても地球は回るし、地球がなくても宇宙は存在できる。人は別に神からの使命をもって生まれてきたわけじゃないし、君が生まれたのは君の父母の気まぐれ。もっと言えば君の父母が生まれたのだって君の祖父母たちの気まぐれだ。要はすべて具体的な意味を持っているわけじゃない。偶然なんだよ。」

 つまり人間はありもしない幻想を求める馬鹿者と?

「そういうこと。人が生きているのは神が与えた使命を果たすとかそんなものはないんだ。生きることに絶対的な意味はない。もし生きる意味を求めるならば、人がつけるしかない。他人が、君自身が後付けするしかない。」

 ああわかった。こいつは俺の状況を知ったうえで言っているのか。そして嘲笑している。

「自他ともにその人生を否定してしまえば、その生は全くの無意味ということだね。」

 自らが価値のある存在だと思える人間はどれほどいるだろう?他人の人生に価値を感じる人がどれほどいるだろう?少なくとも、今だ俺は自分の人生に価値を感じられ

ない。


「千明君は将来何になりたいの?」

「は?将来?…まだ決まってない。」

 旭の突然の質問はよくあることだ。だが今日はどちらも少しぎこちない。

「高校はもう決めなきゃいけない場所なんだろう?大丈夫なの?」

「…別に、総合学科行けば関係ないし…。」

「あ、もしかして千明君東大狙ってるの!?」

「狙ってない。」

 苦し紛れの言い訳も失敗し、机に片肘をついた。

「やりたいことなんてそうそう決まらないだろう…。」

 もともと自分は中途半端な人間なのだ。運動はできるが、体力がない。勉強はできるが、探求心もない。能力のどれをとっても平均以上だが一番じゃない。進学校へ行けば、県大会に行けば、中の上だ。ならばそうそうやりたいことが見つからないのは仕方がないだろう。どれをとっても俺以外にもっと優秀な者たちがいるのだから。

「お前はないのかよ。」

「え?ボク?」

「ああ。」

「うーん、ボクは…。」

 わざとらしく腕を組んで長い白髪を揺らしながら彼女は考える。その声は誰よりも明るいが、余りに下手な演技だと思った。

「星が見たい。」

「星?」

「そうそう、星。」

 彼女は両手を広げ見上げる仕草をする。ただの白い壁しかないというのにまるで天井のさらに上にある空を見ているかのようだ。

「この建物の外には空があって、夜になると星が見えるんでしょ?写真はいくつも見てきたけど、やっぱり本物を見てみたい。」

「本物ね。」

 目が悪いと星も見づらい。だからあまり夜に空を見ようと思わなかった。俺が全く気にも留めなかったことに彼女は憧れているのだ。

「青い空もいいけど、ロマンチストな旭ちゃんはやっぱり星が似合うのですよ。」

「はっ!…なーにがロマンチストだよ。」

「あ、あと着物も来てみたいし、花火もみたいし、美味しいものも食べたい。」

「増えたな急に。」

「でも一番は、なんだと思う?千明君。」

 彼女は透明な壁に手を当てて訊いてくる。その答えはわかりゃしない。終えは昔から人の心などわからない人間だったから。

「言わなきゃわからないっての。…花火ぐらいなら何とかなるかもな。」

「え、ほんと!?期待していい?」

「ああ。」

 それだけじゃない。お前の願いくらい俺が全部かなえてみせる。根拠のない全能感にとらわれた哀れな俺は本気でそう思っていた。

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