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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
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第21話「リハビリ」

 何日か過ぎた日、そろそろいだろうということでリハビリが始まった。普通医学療法士とか、理学療法士とかそういう感じの人たちが付くと思っていたのだが、なぜか俺のリハビリの講師は鶴田さんだった。どうやらリハビリを続ければ杖つきなら歩けるようになるらしい。今日は手すりにつかまりながら歩く練習をしている。

「おっと。」

 たまにこけそうになりながらも懸命に歩く。ただ数か月歩かなかっただけでこれほど歩行困難になるとは…。うん、やっぱ人間あるかなくなったら終わりだな。寝たきりになった老人が回復しづらい理由が分かった。大変だもんこれ。

「大丈夫?」

「はい。何とか。」

 よろけるたびに鶴田さんが支えてくれるので、すごく安心感がある。っていうか力強くない?若干とはいえ、男子高校生の体重を片手で支えてるんですけど。それにしてもこの人には大分お世話になってるなー。この人が休みの時以外つまり週2日ぐらいしかほかの看護師さんにお世話になったことないんですよね。まあコミュ障なので大体同じ人の方がありがたいんだけど。

 30分ほどのリハビリを終え一息つく。

「疲れたねー。」

「そうですね。」

 歩くだけでこんなに疲れるとは、自分の衰えを痛感する。筋トレとか超辛い。中学時代にやった腹筋背筋スクワット100回とかもうできないよ。やりたくもないけど。

「そうだ、お姉さんが膝枕してあげてもいいんだよ?」

「お姉さんって、鶴田さんいくつですか?」

 いや、見た目はすごく若いけど、さすがにそういう歳ではないだろう。なんか熟練看護師っぽいし。

「千明君。それはデリカシーないよ?」

「そうですね。」

 ま、話がずれたのはいいことだ。公衆の面前で膝枕とか体裁が悪いし、ラノベとかではよくあるけどあんまり憧れない。

「しょーがないな。教えてあげよう。」

 そういって鶴田さんはこちらに顔を近づけてきた。当然ぎょっとする。硬直した体に限界まで近づき、耳元に息がかかるくらいのところで彼女はささやいた。

「23歳。」

 さらにぎょっとする。驚きのあまり目を見開いてしまった。確か大学を卒業するのに早くて22歳。大学院卒業するのに24歳。つまりこの人桑田先生よりも年下なの!?そんなことを考えていると、鶴田さんに頬をつねられた。

「ちょっと、今失礼なこと考えたなー。」

「いたっ痛いです。痛い痛い。」

 つまり自分が小学一年生だった時に中学生だったわけだ。話す機会などほとんどないような年齢層だ。熟練者だと思っていたけど、案外ビギナー看護師だったんだな。

「すみません。すみませんでした!」

 さすがに頬が痛いので話してください。

 それから数秒後やっと手を引いてくれた。

「まったく、千明君に必要なのは歩くためより根性治すためのリハビリなんじゃないかなあ?」

 手をワキワキと動かしながら再度近づいてくる。鶴田さん、俺にだって恐怖を感じる心があるんですよ。この人前科があるからマジで何かしようとしそうで怖いんですけど。逃亡の方法を考えていると、そこに工藤先生がやってきた。

「千明君。まだリハビリ中かな?」

「あ、先生。」

「はい今終わったところであります!」

 まるで軍人のように敬礼する鶴田さん。本当に元気だなこの人。っていうかごまかしたな。

「そうか。なら千明君、少し話があるんだけどいいかい?」

「?ええ。」


 鶴田さんはそそくさと逃げていった。危ない危ない、もう少し年が近かったら、異性として意識してしまうかもだった。俺は大体前後2、3歳までなら大丈夫だと思っている。23歳は該当しません。今はというと、自分でこぎますといったのだが、工藤先生に車いすを押してしてもらってなぜか人気のないところに連れていかれている。

「毎週お見舞いに来てくれてありがとう。咲ちゃんも君のおかげで最近はすごく調子がいいんだ。」

「まあ、リハビリもありますし。あと旭のことも。」

 どうせ病院に来るのだから大したことではないだろう。別に苦と思ったこともないし。

「そのことなんだが…」

 急に車いすが止まる。前のめりになって落ちそうになるのをこらえる。見上げると工藤先生は何とも言えない表情でいった。

「実験体37264番の処分が決まった。」

 その言葉は淡白で完結であった。簡潔であるのだからわかりやすいはずなのに、千明にそれを理解することはできなかった。彼も彼女のことは旭と呼んでいたはずだ。なぜ今更…。その顔からも感情は読み取れない。ただ、その瞳は初めて旭と会った時のような妥協とあきらめの目によく似ている。

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