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赤い月の下で  作者: 黒猫館長
第一章「白い一室での物語」
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第11話「墜ちた英雄」

 日差しが暖かくなってきた今日この頃。病室で教科書を読むことが嫌になってきたので、病院の庭に出てみることにした。この病院、なかなか田舎にあるため庭は何というか、国会の周りにある庭園のように多種多様の木々がある。その木陰に車いすを固定して幹に頭を預けた。少々硬い。草むらに寝転がることができないのが残念な気もするが、昼寝にはちょうど良い場所だ。目をつぶって気分よくうとうとしていたのだが、しばらくして声をかけられた。

「大…丈夫、ですか?」

「ん…にゃ…?」

 ぼやけた目で見るに、そこにいるのは桑田先生だった。前に工藤先生といた背の高い男の先生。男性にしては少し長い前髪に黒縁の眼鏡、恐らく180センチはゆうに超えているであろう身長は160とウンセンチの自分からすればうらやましい限りだ。前も思ったがその見た目に反して弱々しい声に気が抜けてしまう。

「大丈夫ですよ。」

「そうかい…?すみません…たまに…。」

 そこで口が閉じる。おい最後まで言えよ。たまにってなんだよたまにって!と内心思うのだが、

「たまに庭で倒れてる人とかがいるからですか?」

「そ、そうです。すみません…。」

 …本当になんというか歯がゆい。なんだこの人。

「敬語じゃなくていいですよ。年上の人に敬語使われるとなんか変な感じなので。」

「はい…すみません。」

「…。」

「…。」

 会話が途切れ沈黙が続く。だから俺はコミュ障なんだって!自分から話題なんて出せないんですよ。気まずいからなんか言ってくれ!心のなかでそう叫ぶ。こういうときばかりは中学校とかにいた喧しい女子クラスメイトがうらやましくなる。いつもうるさいのはこんな時間を作らないための知恵なのだろうか?黄色い声で騒がれるのは死ぬほど嫌だったが、今は尊敬すら覚えるかもしれない。数分経って先ほどの叫びはようやく通じたらしい。

「調子は大丈夫?」

「はい、上々です。」

「そっか。…すごいね君は。」

「?何がです?」

 調子がいいというだけでなぜすごいねになるんだろう。もしかして俺ってはたから見たら滅茶苦茶調子悪そうなんだろうか?確かにいまだ目つきは悪いし目の隈は消えないけれど、これは大目に見てください。

「足もそうだし…周りの人も君を困らせてばかりのに…嫌な顔もしないで乗り越えて。」

「…愚痴なら行ってますけどね。」

「そうかもしれないけど。」

 つくづく言葉の足りない人だ。足、はもう治らない足。周りの人、は恐らく咲や旭のことを刺しているのだろう。その口調からして、桑田先生は旭のことを知っているのかもしれない。だが旭のことは多くの病院関係者には秘密のようだ。不確定要素があるため少しはぐらかして答えるべきだろう。

「対して苦でもないですよ。足は自業自得ですし、ここでの生活は結構悪くないですから。」

 そう、あの二人がいなければここでの生活は大分つまらないものだっただろう。彼女たちが不細工な人間でも、つまらない人間でもなかったことがきっと苦にならなかった理由にあるだろうが、我ながら浅ましいとは思う。

「…あの事故のことは聞いてるよ。…君のせいじゃない。」

「広まってるんですねそれ。」

 助け方が下手だったのだ。あの女子高校生を突き飛ばさずに引き戻していればあんなことにはならなかっただろう。それにしても、事故のことは両親と警察にしか話してなかった気がするけど、(あれ?鶴田さんに話したっけ?)もしや情報漏らしてないよね警察?

「こんな理不尽な世界で、僕は君みたいになれる気がしないよ。…ヒーローみたいな人には。」

 なんかだんだん流ちょうな話し方になりながら言ってることが無茶苦茶ではないですか桑田先生?

「俺はヒーローなんて程遠い気がしますけど。」

 桑田先生からはどうも妙な高評価をもらっているらしいが、今までの自己考察として自分はどうも人の不幸が蜜の味人間だということが散々分かったところなのだ。人の幸せのために戦うヒーローとは全く違う。逆じゃない?

「むしろヒーローに近いのは桑田先生では?」

「え?…」

「何より人を救う医者ですし、体格も良いですから悪い人とかやっつけられそうですし。」

 この人、おどおどしていなければ相当モテるタイプだと思う。医者になれるくらいの頭脳と、昔から鍛えてきたことが目に見えるほどの体。本当にどうしてこんなに自信なさげなのか。堂々としてればかっこいいだろうに。

 そんな思案をしていたせいか、


「もう遅いよ。」


そう言っていたことに俺は気づきもしなかった。

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