03 強くなるための決意
俺とレミア、魔よけと知恵の組み合わせで洞窟を上へ上へと進んでいく。
当然魔よけの俺は、ゼロングを付けない。って、完全に利用されてるだけだよな。まぁいいんだけどさ。
基本、竜種も吸血鬼も食事を必要としないらしい。味覚を楽しみたいときにのみ食べるんだとか。
吸血鬼が生き物の血を吸うのは、その血を魔素に変換するため。つまり魔物が少なく魔法を必要が場合、血を吸う必要がないのだ。
そして、3週間ほど洞窟を進んでいきーー
「いやぁ、それにしてもこの洞窟、広すぎない?」
「何言ってるのよ。これぐらいはあたりま..えの広さ...ではないわね。」
この洞窟の大きさは異常だ。3週間たっても出口にたどり着けないなんて...。
っと、ここでふと疑問に思ったことがある。
「なぁ、ひょっとして、出口の場所とかってわからない感じのオチ?」
そう、普通に考えてこんなに時間がかかっても出れない洞窟なんてありえないのだ。まぁ自分はこの世界にきて間もないから、この世界の洞窟の基準なんてわからないのだけど。
そしてレミアの返答はというと、
「ん?当然わからないわよ?」
だ。なんとなく予想してはいたけど、本当にそうだったとは。
洞窟へ入るなら、普通はマッピングしながら歩くだろう。どの世界でもそこの基礎知識は同じはずだ。
ひょっとしてレミアも、同じようにこの洞窟で生まれたから道が分からないのか?
でも人間の言葉が話せる時点で、人間とは確実に会っている。それに地上のことも知ってるようだし...、一体どういうことだ?
「なぁレミア、お前って洞窟の外から来たんだよな?だったら、どうして道をマッピングをしないできたんだ?」
その質問に若干戸惑いつつも、レミアは全てを打ち明けてくれた。
レミア・チェール。その名前の吸血鬼は、別名、知恵之主と呼ばれているらしい。長い年月を生き、知力を極限まで高めたのだとか。
武力、魔力、能力でなくとも、その力は脅威になる。それこそ竜種同様なほど。しかし竜種も吸血鬼も魂が強く殺すことが困難。それを恐れた四大魔王は、竜種同様封印することを決意したのだとか。
って、竜種って封印されているの!?初めて知ったんだけど...。
じゃぁ竜種だぞー!って自慢はできないのか。なんか残念。
(そうよ。だから魔王に狙われないように気をつけなさい!)
分身体のレミアが、自分の思考に答える。
わかったよ...、もっと自慢したかったんだけどなぁ。
で、なんの話だっけ?......、レミアについてだった。
そしてレミアはおよそ300年前に、この洞窟に封印された。それから今まで、自力で封印を解くために頑張ってきたんだとか。
300年か...。すごい年月だ。俺は16年間面白い出来事がなかっただけで人生を諦めていたのに。
そしてようやく最近、遂に封印を解くことができた。
洞窟の形状が変わっており彷徨い続けていたら、俺の美しすぎる歌声を聞き、今に至るらしい。
(あなた、「吐き気がする」と「美しい」を聞き間違えてるわよ!)
分身レミアが何か言ってるが、気にしない。
にしても、自分の中にもう1人別の生き物がいるなんて、面白くて新鮮だ。
と、そんな風に何気ない会話をする。
するといきなりレミアが、
「魔力感知で何か大きな魔素の塊が瞬間移動してくるのを感じる!念のため、ベルムはゼロングを付けて隠れて!」
といった。
大きな魔素?それは俺たち竜種よりも大きな魔素なのだろうか。
というか、この世界には瞬間移動があるのか!!やったぁ!
(ベルム、早くあの岩陰に隠れてっ!)
分身体のレミアも何やら慌てている様子。
俺は、とにかく岩陰に隠れた。
レミアはと言うと、隠れずに身構えている。
するといきなり空間にゆがみが生じ、見知らぬ男が現れた。
赤と黒のスーツを着た、上品な男だ。
そしてその男は話し出す。
「おっと、ここ数週間、アルフェルト王国が強い魔素を感知したと騒いでいたのですが。なんだ、知恵之主が復活しただけですか。」
「久しぶりね、上品暴虐の魔王ザルムッド・アリウス。300年ぶりぐらいかしら?前回会ったときはまんまと封印されたわ。」
魔王!?あいつが4人いる魔王の1人ってことか?
確かにあの男からは強大な魔力を感じる。それは素人の俺でもわかるほどだ。
「フンッ。前回は貴方を殺す手がなく、封印するしか手がなかったですけれど、今回は違いますよ?」
「何よ?あなたに私を殺すことができるわけ?」
「えぇできますとも。何せ、伝説能力の破壊者を獲得したんですもの。」
「破壊者?確か、全てのものを破壊しつくす能力...だったかしら?」
「さすがは知恵之主。素晴らしい知識量です。」
魔王ザルムッドは何を言ってるんだ?全てのものを破壊しつくす能力?
(これは...まずいわ。本体が危ない...。)
そんなの見たらわかる!
分身レミア、どうすればいいっ?
(大丈夫!とにかく、ベルムはここに隠れていて!)
何を言っている?このままだとレミアが破壊されてしまう。ここは助けるべきだっ!
(いいから隠れて!!)
......わかった。
分身レミアの強い意志が俺の心に響く。そして、それを受け入れたように俺は言うことを聞いた。
何か策があるのだろう。
正直俺は役立たず。ここは分身レミアを信じるしかないのだ。
「さて、久しぶりの挨拶はここまでとしましょう。それではさようなら。魂破壊!!」
ザルムッドはそういうと、レミアの肩に手を置いた。
その瞬間、レミアの体は横に倒れる。
あるべきレミアの体に、魂がないのだ。これは俺でもわかった。
「フンッ、魂を崩壊させてやったし、魔王の敵はこれで消えました。竜種はどこぞの吸血鬼と違って馬鹿ですから、封印からの復活は不可能でしょうしね。」
そう最後に言い残すと、ザルムッドは瞬間移動して消えた。
・
・
・
最後に1人残ったのは俺1人とレミアの死体。
レミアが死んだ?
は?
俺にとってはあまり親しみが多くなかったけれど、かなり良い奴なのは一緒にいただけで分かった。死んでしまったのは認めたくないのだ。
それに、彼女がいないと俺はこの洞窟を出ることができない。
嘘だろ...レミアが消えたのか?
もう1度自覚する。
涙が1粒ポロリ。それに続いて、何粒も何粒も落ちてきた。
少しグダグダだったけれど、俺は彼女と一緒にいて楽しかった。
ひょっとすると、惚れていたのかもしれない。
...しかし、そんな彼女はもういない。
魂の反応が体から消えたのだから...。
するとーーー、
(え?ひょっとして、ベルムは私の事好きなの?嘘..、なんか盗み聞きしちゃったみたいでごめんねぇ~。)
レミアの分身から声が聞こえてきた。
からかっているような、照れているような、何とも言えない声で。
って、アレ?
分身って、本体が消えたら普通に消えるものかと思ってた。
でもどっちにしろ分身。レミアじゃないことには変わりないのだ。
(わぉ、ベルム、意外とさえてるわねぇ。確かに本体の魂が消えたら、分身も消滅するわよ?魂が消えたらね?)
何を言ってる?だって魂は消えてしまったじゃないか。
ザルムッドがレミアの魂を破壊して...
(まだわからないの?レミア好きなベルム君。私は本物よ?
いいわ。私があなたに分身を宿させた本当の理由を教えてあげる。
当然貴方の能力を解析するってのもあったわよ。でも、それはおまけ。
本当の目的は、死んだとき用の保険よ。)
はい?おまけ?保険?正直、何を言ってるのかさっぱりわからない。
(魂ってのは、肉体が無かったら天へと消えて、新しい生命に代わるの。竜種とかは魂がこの世界に張り付いているから、魔王も殺すことができなかったのよ。で、天から生まれ変わるときに記憶を持ったまま生まれ変わったのを転生って言うわ。
さっきザルムッドが放った能力は、魂を砕く力。確かに地に張り付いていたとしても、本体である魂が壊されたらそこで終わり。
でも私には分身があった。つまり、その分身に魂を移すことができたって訳。能力を使われる直前に分身の魂に自分が移ったから、あの人は何も殺せなかったのよ。)
と、ざっくり大まかに、俺にもわかるよう説明してくれるレミア。
つまり、レミアの魂は俺の中で生きているってことか?
(そゆこと!)
レミアの体に移動すれば、また人間に戻ることができるってこと?
(そゆこと!まぁ人間じゃなくて吸血鬼だけどね。)
俺は安心して、膝から崩れ落ちた。初めてできた友達は死んでいなかったのだ。
よかったぁ~。
そんな俺の心に追い打ちをかけるように、レミアは話をつづけた。
(それにしてもベルム君~?君、私の事好きだったんだねぇ~?)
...っう、うるさいなぁ!!...まぁ?そうですけど何か?
自分の思考まで聞かれているのにごまかせる訳がない。ならば開き直っても良いのではないか?
女性は少し助けてもらうだけで恋に落ちてしまうとよく言う。しかし、男性も同じなのかもな。
あれほど助けてもらって、おまけに会話相手にもなってくれたら、そうなってしまうのも仕方ない。
(...!? 認めるんだぁ...)
声しか聞こえないが、少し顔を赤く染めているレミアが想像できる。
あれ?もしかしてレミアも、俺に脈ありだったりするの??
(べっ別に...脈なんてないし!!)
レミアが答える。
もう素直になればよいのになぁ~。
(そっそんなことより!私自らが解析したおかげで、予定よりも少し早くあなたの魔法系統が分かったわよ?)
あ、話しそらした。
今絶対話しそらしたよね??
(それより!あなたの能力について話すわよっ!!)
完全に話をそらしたレミアが、俺の魔力について話し出した。
♦♦♦
俺の魔法は、「回復特化」らしい。
って...え?回復特化?
レミアが言うには、転生者の力は死に際に起こった出来事が大きく反映されるらしい。
おそらく俺の場合は...救急車だろう...。絶対に。
ホント最悪な死に方だよ。おまけに転生後の魔力系統は、回復系。
皆を癒す魔法で、どうやって戦えばいいんだよ...!
(いいじゃない!回復系の魔法っていうのは、とてもレアなのよ?)
本当?
(当り前よ!ポーションなしですでに崩れた細胞をもとに戻すんだから。
それに使い方によっては、最強の武器にだってなるのよ?)
最強の武器になる...?ごめん。俺にはさっぱりわからない。
(しょうがないわね。おバカな竜種にもわかりやすく説明してあげる!)
そういってレミアは、俺の系統の使い方について語ってくれた。
いつか自分が回復系能力を覚えたときの応用として考えていたらしいが、まさかこのような使い道が生まれるなんて。
その使い道は、いくら知恵之主と呼ばれているといっても考えられないほど優れたものだった。
本当にレミア、どこまで天才なんだ?
攻撃するとき、剣や爪などに強大な魔素を込めて魔法を発揮する。すると、当たった細胞がその回復速度に追いつけず、一瞬で分解されていくというものだ。
つまり、細胞に限界突破させ滅ばせる。何ともユニークな考えだった。
おまけに相手の細胞から魔素を奪うこともできるようで、戦うたびに回復できるという優れモノ。
素晴らしい!!
でレミアさん...肝心の魔法って、どうやって使うんですか?
「回復!」って念じても、全然回復できないし...。
すると、レミアは小馬鹿にしたように笑い出し、あきれたように説明しだした。
(何言ってるのあなたw!魔法を使いたいなら、超能力の魔力感知を習得してからじゃないと無理に決まってるじゃんw)
とのこと。
そして笑ってる声がすごくムカつく。
魔法を使うために能力も習得しないといけないなんて聞いてないし...。それもエクストラな能力を。
魔法ってもはや能力の1つなんじゃ...。
まぁどっちでもいいや。
で、魔力感知ってどうやったら習得できるの?
(簡単よ!なんかこう...、ぐぅって力を籠めるの!)
知恵之主は天才だ。この世の知識を大体全て理解している。
さすがはレミア。尊敬する。
知恵之主は馬鹿だ。この世の知識を人に教えることができないようだ。
さすがはレミア。期待を裏切らない。
まぁ1度試してみなと言われたので、ぐぅってした。
しかし当然何も起こらない。
それどころか、超恥ずかしい。こんな広い空間で1人力をためているなんて。
おい、何も起こらないじゃないか。
(おかしいわね。まぁいいわ。しょうがないから伝授してあげる。)
うん!ありがとう。ってはい?魔力感知も伝授ってできるの?
(当たり前でしょ?能力は全て伝授できるわよ?しかも私は今魂だけだから、あなたに受け継いで自分が失うこともないし。)
へぇ。そうなんだ。
......ねぇレミアさん。
それを先に言ってくれたら、俺はこんなに恥ずかしい思いをしなくて済んだってこと?
(それはそうね。ていうか、私が見たかっただけだし。)
その瞬間、俺は恥ずかしさから昇天しそうになった。
それと同時に、レミアのことを物凄く恨みもしたのであった。
(さぁ、魔力感知も伝授できたことだし、私は自分の体に戻るわね。!)
そう言うと、俺の隣に置いてあった自分の体へと戻って行った。
俺はレミアの分身がどうなったのか気になり、思考して読んでみる。
おおぃ!!レミアの分身さーん!
しかし誰も反応しない。どうやら、分身体もいなくなったようだ。
でも、分身体を俺の中に入れておいた方が安全なんじゃ..?
またこのように魔王に狙われたら最悪だし。
「なぁレミア、分身体を俺の中に入れておいた方が安全なんじゃないのか?」
俺は、自分の体に戻りのんびりと身を起こしたレミアに聞いた。
「ん?それは不可能よ。だってあの無詠唱魔法は使い捨てだもの。」
へぇ。あの魔法は使い捨てなのか。
ん?じゃぁどうして俺にそんな勿体無いことをしたんだ?
やっぱり俺に脈ありなのだろうか。といっても、あれは出会って間もないころの出来事だ。脈ありになる前なのは間違いない。
俺は気になったので、レミアに直接聞いてみた。
「新たな竜種の誕生に付き合いたかったから」だそうだ。
そんなに竜種に付き合うとよいことがあるのだろうか。ボディーガードになってくれるからとか?
やっぱり利用されているような気しかしない。
すると、
「ベルム、ゼロングを付けたままでいて!」
とレミアが言ってきた。
え?なんで?この指輪を付けたままだと、魔素が表に出なくなって魔物に襲われちゃうじゃん。
俺がそう思ったので聞いてみると、
「何言ってるの?そのためにゼロングを付けるのよ?あなたは魔法を使いこなせていないし、能力だって魔力感知以外持ってないでしょ?ザルムッドを倒すため、今から特訓よ!」
レミアはそう言った。
って、えぇぇ??
「ねぇ、なんでザルムッドを倒さないといけないの?静かに平和に暮らそうよぉ...。」
「何を言ってるのよ。あなたが惚れた女の子が1回、その人に殺されかけたのよ!?それにどっち道、私もあなたもそのうち封印されてしまう!だったら倒しに行くのが竜種という者でしょ?」
竜種という言葉を、完全に良いように使われている。俺はそう思った。
それに、惚れたかもって思っただけで...、惚れたのかどうかはいまいちピンとこないんだよなぁ。
まぁ俺もカチンとは来たし、魔王にも竜種は恐れられているんだろ?
だったら、これから力を蓄えて魔王を殺すのもありかもしれない。
こうして、俺がこの世界で生きる目的が見つかったのである。
「ほら!魔素の漏れがゼロになったあなたのニオイにつられてどんどん魔物が集まってきたわよ!
回復系魔法を打ち噛ましなさい!」
レミアが言う。
周りを見ると、沢山の巨大魔物がいた。
逃げるには時すでに遅し。
俺は、もうやってやる!!!っと意気込み、巨大魔物に襲い掛かった。