02 レミアとの出会い
「あなた、すごい生まれ方をしたのね。」
突然目の前(まぁ実際現れたのは後ろなんだけど)に現れた女性はそういった。明るく透き通る声、明らかに陽キャそのものだ。
どうやら俺は、すごい生まれ方をしたらしい。
するとその女性、「レミア・チェール」は、この世界について話してくれた。
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レミアの話を整理しよう。
まず、俺がどうやって生まれたどんな生き物なのかについてだ。
俺は転生者らしい。転生した者としてこの世に生まれてくる生き物はかなりいる。けれどその中で、前世の記憶を持ったまま生まれてきた者のみを転生者というのだとか。
そんな希少な転生者だが、中でも98%はヒューマン、つまり人間として生まれてくるそうだ。それに加え意思を持つ魔物が少ないことから、意思を持つ魔物の転生者として生まれたそのレア度がうかがえる。
だからすごい生まれ方をしたと言ったのだろう。
次は竜種についてだ。
竜種とは、この世に5体しか存在しない竜の種族の事らしい。
って!?...俺は5体しか存在しなかった種族の6体目ってこと?...なんか、本当にすごい生まれ方をしたんだな。
そして竜種とは、その強そうな名の通り、膨大な魔素を持っているんだとか。他の魔物が避けていたのは、竜種が誇る魔素量のお陰という事だ。それ故に魔王にまで恐れられることもあるらしい。
竜種はすべての個体が別々の魔法属性を持ち、生まれた順に、「炎竜」、「水竜」、「雷竜」、「岩竜」、「風竜」がいるんだそうだ。
3つ目は、魔王について。
この世界には4人の魔王が存在するらしい。通称四大魔王。
しかし魔王といっても、物語であるように自分から危害を加える存在ではない。強い魔物が国の王様になった存在が魔王ということらしい。国を持たない魔王もいるそうだけど。
最後は、「力」についてだ。
この世界には、主な力が3つ存在するらしい。
1つ目は「武力」。これは、素の物質によるぶつかり合いだ。
拳や剣による衝突の事らしく、全ての生き物が使える力だ。
2つ目は「魔力」。これは、要するにシステム、そしてコマンドの事。
わかりやすく例えるならば、物質が空中に浮かぶというシステムがある。それを実行させるための詠唱や魔法陣が、コマンドというわけだ。
この力は、魔素(コマンドを発動させるための力の素)がある生き物にしか使用ができないらしい。魔素がない人間には使えないんだとか。
そして最後の力は「能力」。これは魔法と違い、長い年月をかける、もしくは受け継ぐなどしないと手に入れることができない力らしい。
毒としばらく接触していると、毒耐性という能力が付くのが例だ。
自分から毒に突っ込む馬鹿なんてそう相違ないと思うけど。
中には魔法のような効果を発揮するものも多いが、魔素を必要としないで使えるとのこと。つまり、どんな生き物でもがんばれば獲得できるのだ。
「平凡能力」、「超能力」、「個人別能力」、「伝説能力」、「神能力」の5種類に分けられるらしいが、魔王でも伝説能力を持っていればすごい方らしい。実際、神能力を持ってる人を見たことがないんだとか。
個人別能力は、その人が持つにふさわしい能力が自発的に生まれるという、世界に1つだけの能力らしい。
武力と魔力と能力、全てを司る者が、この世で1番強くなるんだとか。
っと、脳内で簡潔に分かりやすく理解する。
するとレミアが、
「あなた、名前ないでしょ?普通意志ある生き物は親に名前を付けてもらうんだけど...生まれたときから誰とも話してなかったようだし。私がつけてあげる。」
と言ってきた。
確かに名前はない...と思う。
ならばここは、名前を付けてもらうべきなのだろうか。知らない自分にここまでこの世界のことを教えてくれたのだ。信じてもよい人だろう。きっと。
俺がうなずくと、レミアはじっくりと真剣に考えてくれたようで、
「...ベルムなんてどうかな?意味は、私の故郷で幸運を表す言葉なんだけど。あなたの生まれ方が幸運そのものだったから!」
と優しく力強い声を出してくれた。
ベルム...ベルム。うん、響きが良いし、いかにも異世界って感じの名前だ。
俺は了承し、自分の心に刻み込む。今日から俺は、ベルムだ!
しばらく喜びに満ちて足をドタバタさせる俺を見て、レミアがそれをやめさせたがるように話し出す。
まぁ20m越えの巨大な竜が足をジタバタさせたら、迷惑なのは当然だろう。
「それにしても、ベルムは何竜なの?」
いきなりの質問に俺は意味が理解できず、キョトンとする。
すると、それを見たレミアが説明するように、
「ほら!さっき竜種について説明したでしょ。炎竜とか水竜とか。
あなたもそんな感じで2つ名が欲しいと思うの。
でも、何系の魔法が使えるのかわからない限り決められないし...。」
なるほど。確かに俺が何系の魔法を使えるのかわからない。
けれど、それってどうやって調べるんだ?そもそも魔法ってどうやって使うんだ?
「あのさレミア。俺、どうやって魔法を使えばよいのかもわからないし、どうやって調べればいいの?」
俺は素直に聞いた。
レミアは一瞬、驚いたようなあきれたような表情をしたが、良い案を思い出したのだろう。
指をパチンッと鳴らした。
その瞬間、レミアの分身が出来上がる。
「私の無詠唱魔法、多重存在だよ。この分身をあなたの魂に入れる。そして解析を行わせれば、1か月後ぐらいにはわかるんじゃないかな。あなたの魔力系統!」
レミアはそう言った。
ちょっとまって、なんかよくわからないことを言ってるんだけど。それになんでレミアは魔法を使えるの?人間は魔法を使えないんじゃないの?
俺は不思議に思い質問した。
その質問に、
「あ、言ってなかったっけ?私、吸血鬼族だよ?」
とレミアは答える。
もう...、正直話に追いつけていない所が多すぎるし、あとは全てこの吸血鬼に任せよう。そう思った。
こういうなんでもお任せにしちゃう人が詐欺にかかるんだろうけどね!
俺が了承すると、レミアは分身体を赤い球へと変化させた。まるでレミアの瞳のような鮮やかな赤だ。
そしてそれを持ち俺の胸辺りまで飛んできて、俺の心へとその赤球を押し当てた。
すると、俺の魂の奥底で何かが変化する。
と同時に、心に響くような声で話し出すものがいた。
レミアの分身体である。
(どう?すごいでしょ。こっちはこっちで私の本体とは別行動なんだけど、記憶とかは同一のものだから戦わせるときとかに便利なんだよ?)
あ、分身を俺の中に入れるってこういうことなのね。自分の中に2つの魂があるような感覚だ。
すると、読者にもわかりやすく感想をまとめようとしているベルムの思念を遮るように、レミアの分身体が話を続ける。
(それじゃ、ベルムの魔法系統を解析するけど、ついでに肉体を人間の形にしちゃう?)
ん?肉体を人間に?そんなことができるのか?
(当然よ。見た目は若干私っぽくなるけど、あなた男だから結構可愛い美男子になると思うよ!)
マジかよ。この体の大きさじゃ不便だし、せっかくだからそっちもお願いするよ!
(了解!)
その瞬間、いきなり視点が低くなり、レミアの視点と大体同じになった。
手を見ると...人間の手だ!
嬉しかったのもあり、慌てて湖で自分の姿を確認する。
青い瞳に緑色の髪の毛、まさしくさっきの自分が人型に変化したのと同じような状態だ。
服は鱗からできたであろう鮮やかな緑色。
そして何より、自分が姿を変えようと思うと竜にも簡単に変身できるのだ。
1部分だけ竜に戻すこともできる。つまり翼を出して空を飛べるし、いざとなったら竜の鱗で身を守れるということだ。鋭い爪で相手を切り裂くことだってできる。
これはすごい!
レミアに感謝しかないな。
......。
「さて。」
そして俺は、レミアに本題を聞くことにした。
「レミア、お前がそこまで優ししてくれるのは、正直ありがたい。だけど、さすがに何か裏があるよな。私の奴隷になって働きつくしなさい、とか...?」
レミアの分身ではなく、本体にだ。
するとさっきのレミアとは裏腹に、いかにもな悪人声で答え始める。
まぁ、それもまた可愛いんだけどねっ!
「ふふっ....さすがに気づいちゃうか。そりゃもちろん、ここまでさせてタダとは言わせないよ。私の要件だって聞いてもらう。」
ーーゴクリッーー
その場の空気に緊張が走る。
やっぱりな。タダでここまでしてくれる訳がないんだよ。
望みはなんだ?吸血鬼だから、竜種の特別な血を吸わせろ、とかか...?
それぐらいならまだよいんだけど。
「望みは......、私と一緒にこの洞窟から出ること!」
はい?
俺は死後硬直の状態になる。実際1回死んでいるんだし、今頃硬直してもおかしくはないんだけどな。
「も...もう1度言ってくれない?」
「だから...!私1人の力だとこの洞窟から絶対に抜け出せないの。魔物が強すぎるし。
偶然言葉が聞こえてきたから、人間がいるのかと思ってこっちに来たけど、まさか新しい竜種がいるなんて思わないわよ。最後に竜種が生まれたの400年以上前だし。
でも、せっかく竜種がいるんだったら、外に出るのを協力してもらいましょうって訳。
まだベルムがどんな力なのかわからないけど、魔素量だけで魔よけになる竜種だし、それに加えて知恵の吸血鬼がいたら100人引きよ!」
なるほど、そう来たか。
確かにお互い不利益なことはない。俺は情報を知れるし、レミアは洞窟の外へ出やすくなる。
でも一応確認だ。
「この洞窟の外には、いろんな国や町があって、人間たちが仲良く暮らしているんだな?」
「えぇ!間違いないわよ!多分...。少なくとも300年前はそうだったわ。」
なんか自信満々に言ったけど、多分って言葉が聞こえたような...。それになんて?300年前!?
「あのぉ...レミアさん..。大変聞きにくいのですが...年齢のほうは...おいくつですか?」
「何?女性に年齢聞くの?まぁいいわ、教えてあげる。今年で942歳ね。」
942歳!?
あのぉ、分身の方のレミアさん、これって本当ですか?
(当り前に決まってるでしょ?私がここで嘘つく必要ある?それに、他にもたくさんの情報を知ってるのよ?それぐらい年月がなくちゃ普通ここまでの情報収集は不可能なのよ。)
あ、はい。そうですか。もういいですよ!
「わかった。交渉成立だ。これからよろしくな!」
「こちらこそ、頼りにしてるわよ!あ、ついでにこれもあげる。」
そういってレミアは、真ん中に青い宝石が埋め込まれた指輪のようなものを渡してくれた。
この指輪は、魔素抑空間作成指輪、略してゼロングというそうだ。なんか略し方が安直すぎる気もしなくもないが...。
どうやら、魔素を完全に抑えることができる品物らしい。魔素が表に出なくなるから、人間の国に行くときの必須アイテムらしい。
これのお揃いをレミアも愛用しているらしいし。
それだけではなく、抑えた魔素を利用してゼロングに虚無の空間を作るということもできるようだ。
魔素は俺から作られるので、虚無の空間を無限に活用できるという優れモノだった。
じゃぁこの洞窟の鉱石とかをリングに入れて置いたら、高く売れるんじゃね!?
まぁなんて天才的な考えなのでしょう。俺ってひょっとしたら天才なんじゃね?!
と思ったら、
(売れないわよ!だってこんなの、どこの洞窟にもあるもん。この洞窟は星の核に一番近くて、確かに魔素量も異常に高いけど、魔素が高ければ鉱石も良いものが生えるわけじゃないの。魔素で喜ぶのは、生き物だけなのよ!)
などと簡単に論破されてしまった...。
でもレミアに言われなかったら、鉱石をたくさん取って時間を無駄にするところだった。助かった。
ーーーこうして死亡した佐川宗太は、異世界に竜種として転生を果たし、
レミアという吸血鬼と出会った。そして彼女との冒険が今、幕を開けたのである。ーーー
※この世界の詳細な説明は、所々でバラまいていきます。
一気な情報よりも、必要な場面での方が読みやすいと思うので。
魔鉱石とか、ダンジョンとか、冒険者とか、ギルドとか。
種族についても同様です。