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01 転生ーー

ーー何も面白くない普通の毎日。

 

 朝起きて学校へ行き、帰ってきたら寝る。寝るまでに起こることは毎日多少違うが、凡そはそんなものだ。


「はぁ、退屈だ~。」


 俺、佐川宗太(さがわそうた)は学校の帰り道、赤信号の時間にそんなことを考えていた。


 生まれてからの16年間、高校1年生まで、大体起こる出来事は同じだった。

 それに加え彼女ができたことがあるわけでもなく、友達が多いわけでもない。学校にいても特別楽しくはないのだ。

 趣味もアニメや漫画を見ることのみ。毎日趣味に没頭していると、いつの間にか新作の漫画は一通り手を付け終え、アニメも大体の物は見終わっていた。

 新しい趣味を見つけたとしてもどうせ同じようなものだ。そのうち飽きて、また新しいことをしようとする。

 大人になれば毎日同じような事で働き、お金を稼いでは使うの繰り返し。


ーーこの世界は自由に見えるだけで、実際の所は縛られている。ーー


”ピーポー ピーポー ピーポー...”


 おっ、信号が青になった。

 信号が青になったのを確認し、両手をポケットに突っ込みながら歩きだす。


”ピーポー ピーポー ピーポー...”

”救急車が通ります!道を開けてください!道を開けてくださいっ!”



   ♦♦♦



 何だ?この赤い液体は...。

 近くで救急車のサイレンが響く。周りで大勢の人が騒いでいる。

 そうか。俺は救急車にひかれたのか。

 怪我人を乗せた救急車は、急いで総合病院へ行こうとする。その際、信号を無視して道路を移動できるのだ。

 その時鳴らされるサイレンに気付かないまま、俺は轢かれたのだろう。

 いくらスピードが遅かったからと言って、車にひかれたら人の体は仰け反って弾き飛ばされるだろう。

 それがたった数メートルだとしても、頭を地面と強打すれば大量出血で死ぬこととなる。



 死ぬ?そうか、俺は死ぬのか。

 何も面白くない人生だと思ったが、人を助ける乗り物に轢かれて死ぬとは...。最後に、誰も経験したことがないような面白い経験ができた。

 はぁ、せめて救急車なんだから、人を殺すんじゃなくて助けろよ...。

 俺だったら助けるぞ。こんなへまはしない。

 まぁへまをしたのは俺なんだけどね。あんなに大きいサイレンを聞き逃すなんて、俺も大馬鹿だよ。

   ・

   ・

   ・

 だんだんサイレンの音が遠のいてきた。そろそろ俺の命も終わりのようだ。

 来世では、自分から進んで真衣(まい)ちゃんに告白をしよう。って、来世があるのかもわからないんだけどね。


 さようなら。





   ♦♦♦





 目が覚める。実際は意識が戻っただけで、目を開けてはいないんだけど。


 どうやら俺は意識を失っただけで、死んではなかったのか。

 ならば、怪我が治ったら真衣ちゃんに告白しよう...。

 そう思いながら、俺は自分の頭をポリポリと掻いた。

 すると、自分の頭に生えている2本の角に直撃する。手触りが最高だ。


 ん、自分の頭の角?人間に角はないぞ?

 俺は目を開け、自分の角を見ようとした。しかし角らしきものがあるのは、頭の上なので見ることができない。少し怖くなり、自分の周囲を確認する。

 暗くてあまりわからないが、周りには所々に光る岩があるようで、一応目視できる状態だ。


 光る岩のほかに、普通の岩が辺り一面に広がっている。

 岩?...岩ねぇ。ふむふむ。どうやらここは、病院ではないらしい。

 というか明らかに、洞窟のような場所だ。それも、天然のなんかわからん綺麗な岩があちこちにある、世界遺産に登録されるような。


 それになんだか、視線が人間の時よりもめっちゃ上にあるような...。

 気にしてはダメだ。

 俺はそう思い、考えるのをやめた。




 取り合えず......、自分の姿がどんな様子なのか、確認しないとな。

 ここが洞窟なのだとしたら、鏡がある可能性はほぼ皆無だろう。

 そうなったら、鏡のように輝くクリスタルか、水面を見つけなければ自分の姿は確認できない。

 俺は輝くクリスタルか水面を探すため、歩き出した。



 もう既に手足にある鋭い爪とか、なんか固そうな鱗とかが見えるんだけど...気にしてはダメだ。

 所々に、強そうなデカトカゲとか、ヤバそうな大ヘビもいるが...気にしてはダメだ。

 けれど、どのデカ生物も俺を襲うことはなかった。自分の手足を見るからに、俺の外見は想像がつくが...その外見のせいではないことを祈ろう。




 そのまま何時間か歩くと、地下水脈とでも言えばよいのだろうか。洞窟の中にある大きな湖へとやってきた。

 それにしても、随分と大きな湖だこと。ネッシーでも住んでいそうだ。まぁ実際、ネッシーみたいなのが湖深くに潜っていったんだが。


 早速、自分の姿は可愛らしいけど鱗や爪がある、アルマジロのような生き物だと期待して湖を見る。期待するだけ損なんだろうけど。

 第一、こんな高い視点に目があるアルマジロなんて存在しないだろ!20mぐらいあるぞ!それ以上かも...。まぁデカい「THEモンスター」といった生き物がたくさんいる時点で、デカアルマジロの可能性もなくないんだけど。

 そんなことを考えつつ、湖の中をのぞいた。

 

 俺は湖に写る自分の体を見て、何も言葉は出なかった。

 ただただ少し笑ってしまっただけ。だって予想が的中していたのだから。



 そこに写ったのは1匹のドラゴン。

 固そうな濃い緑色の鱗、強そうな爪、今気づいたが、コウモリの物が進化したような翼まである。その口に生えている牙は、


「いかにも狂暴ですよ、襲ったら食べちゃいます!」


 っと言っているようなものだった。こりゃ、他の魔物(?)も逃げるわけだ。

 だって自分でも怖いもん。

 俺だったら自分の、睨みつけているような青い目を見るだけでゾッとしてしまう。

 一通り自分の姿を見つめた後、諦めがついたかように行動をやめ、しばらく湖の前で今の状況について考えることにした。






 アニメや漫画の読みすぎかもしれないが、俺はこれを、異世界転生だと思っている。

 根拠は2つ。

 1つ目は、何らかのVRゲームにしては細かすぎるところだ。描写が現実と変わらないきれいさだし、ちゃんと自分で歩いていた感覚もあった。こんなの、今の日本の技術じゃありえないのだ。


 2つ目は、自分の妄想にしてはできすぎているところだ。はっきり言って、自分ではこんな大迫力で繊細な妄想は絶対にできない。これは自信を持って言える。

 それにできないどころではなく、考えすら思いつかないだろうからな。これも声を張って言えることだ。



 ん?声?

 そういえば、声って出せるのかな?音はちゃんと聞こえたから、耳はあるんだと思う。魔物の臭いも嗅げたし、目も見えている。

 よし、試しに声を出してみるか!


「あ、っあっあ、マイクテストマイクテスト!おぉ!しゃべれる。確実に耳(?)から聞こえる!」


 竜とは思えないほど高校生の声に近しかった自分の声は、転生する前と全く同じであった。

 そのまま調子に乗り、最近流行っている様々な歌を歌いだす。

 洞窟で反響し、マイクで歌っているような感覚だ。

 俺はそこらへんに落ちていた、細長い石を握り、もっと大きな声で歌った。まぁドラゴンの手のひらサイズの石を持ち、ドラゴンが気持ちよくなるぐらいの大声で歌ったのだ。

 すると当然ここらにいた魔物は、陰に隠れていた者も含みすべてが遠くへ消えていく。

 ドラゴンがどれくらい希少な生き物なのかはわからないが、この洞窟では俺以外にまだ見ていない。

 ましては、大声で叫んでいる(他者から見たらそう見える)ドラゴンがいたら、隠れていても逃げたくなる。そういうことだろう。

 自分が気持ちよく歌うのとついでに魔物除けができるという訳だ。って、これって案外使える考えなんじゃね!?


 俺は一生懸命歌い続けた。

 自分が恐れられ、避けられる生き物だというのはわかったが、何より気持ち悪いのだ。

 想像してみなよ!足が16本の巨大グモとか、毒針が2本あるオオサソリとか...。想像するだけで気持ち悪くてゾッとするだろ?すぐ逃げられるとわかっていても、決して出会いたくないのだ。



 そんな訳で、かれこれ2時間近く歌った。 


「の”ど”が”も”う”が”ら”が”ら”で”す”ー。」


 でもこのおかげで、魔物はしばらくの間、ここに近づいてこないだろう。


ーーーすると、


「え!?竜種?なぜこんなところに!?」


 湖の水で喉を潤わせていると、何者かの声が聞こえた。

 言葉の意味は理解できる。どうやら通じるようだ。ていうか、やっぱりこの世界も人間がいる世界だった。よかった~。

 そんなことより!

 俺は振り向き、後ろに立つ美しい女性を目にする。正確には美しいというよりも、可愛らしいが混ざってるような気がするが、そんなことはどうでもよい。

 ピンク色の髪によくできた顔立ちは、女性のかわいらしさを表し、その赤い目と口から僅かにはみ出した牙は、吸血鬼のような冷酷さを表していた。何より、その身に着けている肘ほどの長さのポンチョは、うん、似合ってる!



 っと...それよりも竜種?一体何なのだろう。俺はまだ何もわかっていない。

 それに、なぜこんな場所に人間がいるのだろう。普通のパターンだと、冒険者が冒険に来たといった感じだが、1人でこんな気持ち悪い洞窟へ来ることはまずない。

 俺は聞きたいことも沢山あったので、質問に質問を返す。


「あのぉ、竜種っていったい何なんですか?俺、死んだはずなんすよ。だけど気づいたらこの洞窟にいて...自分の姿もわからなかったから、とりあえず湖まで来たんです。」


 その俺の質問に一瞬驚きを隠せないでいたが、冷静になったのだろう。この世界のことについて話し出した。

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