蛇の吐息
森から飛んできたドラゴンが俺の上で滞空すると俺に向かって威嚇してきた。
「GeeeYAaaaa!!」
威嚇される俺の前に飛び出す2匹。
「オルム様、我らが時間を稼ぎます!
「「「「「ジャァァー!」」」」」
(その間にお逃げください!)
俺のために決死の覚悟で前に出た2匹には悪いが、こいつを前にしても俺の心には動揺はなかった。それどころか、蛇としての本能が目の前のドラゴンがただの雑魚だと告げている。
2匹には悪いが俺は逃げるつもりなど毛頭ない。それどころか威嚇されたのだから威嚇し返そうと思っていた。
俺は思いっきり空気を吸う。肺で空気を圧縮し、圧縮したことにより空いた空間にさらに空気を入れ圧縮する。
空気を圧縮している間に俺の周りの環境は変化していた。周りでは水が渦巻き、雷鳴が鳴り響き、大地が震える。まるで世界が俺と言う存在を恐れるかのように。
俺が息を吸い始めた頃から何かに気づいたのか、ドラゴンは俺に攻撃を繰り出していたが、ヒュドラがその巨体で受け止め、エキドナが魔法を使いドラゴンのブレスを相殺する。
ドラゴンが一度体勢を立て直すために高度を上げた時、俺は肺の空気を一気に吐き出した。
「ーーーーッッ!」
一条の光が空を貫いた。
<( ´Д`)y━・~~>
:オルムがダンジョンから出る少し前
アルバロ王国、辺境都市スオーロの防壁の上に深夜の間に出現したダンジョンを睨みつける男、サブルム・フォン・スオーロ辺境伯がいた。
「報告いたします!件のファイヤードレイクですが魔の森の浅層にて目撃情報があげられております。」
「情報の出所は?」
「冒険者ギルドのBランクパーティからです。」
「ならばほぼ間違いないな。」
塔から視線を逸らさず報告を受けるサブルムは塔の先に広がる魔の森に忌々しげな視線を送った。
ダンジョンが出現した。その報告がはいった時サブルムは捜査隊を編成しようとしていた。しかし冒険者ギルドからファイヤードレイクが出現したと言う報告があった。
通常、ダンジョンが出現したさいは一刻も早くダンジョンを調査する必要がある。
これにはこの世界のダンジョンとゆう存在は富を齎すと共に破滅を齎す側面があるからである。
ダンジョンは魔道具や宝石、魔法薬、魔物の素材が尽きることなく手に入る場所であるため、ダンジョンを保有している国と、していない国とでは圧倒的な国力の差が発生する。
しかしダンジョンの発生場所は予測が不可能であり、いくらダンジョンを欲してもそれは運次第であるため、どの国もはがゆい思いをしていた。
欲しいなら他国から奪えばいいと思うかもしれないが、ここで先ほど説明した破滅が関わってくる。
ダンジョンは約1月ほど人間が一定以上入ってこないとスタンピートと呼ばれる、魔物をダンジョンの外に大量に排出する現象、スタンピードを起こす。これにより、ダンジョンを求めて争っていた国が滅びた事があったため、ダンジョンは出現した土地を所有する国が管理するようになった。
何より人間がダンジョンに入る理由はダンジョンコアの入手である。ダンジョンコアは魔道具にすると一定範囲に魔物が入って来れなくなる結界を展開することができる。
魔物がはびこるこの世界において安全な土地の確保は何よりも優先される事なのだ。
しかしダンジョンコアを破壊または奪われたダンジョンは消滅する。ゆえにダンジョンコアをとるのは、ある一定の条件に該当するダンジョンだけである。
その条件とは『発生から1月以内のダンジョンまたは、ダンジョン内でAランク以上の魔物が確認されたダンジョン』である。
発生から1月以内なのは、その期間がダンジョンが最も弱く攻略が容易であるからである。
そしてAランク以上の魔物が確認されたダンジョンであるが、その理由はダンジョンにはランクがあり、高ランクのダンジョンほど徹底した管理をされているが、もしなんらかの要因で高ランクダンジョンがスタンピートをおこした時、災害と同列視されるSランクの魔物が出現する恐れがあるためである。
それ故に、発生まもないダンジョン、高ランクのダンジョンは破壊対象である。だが稀に高ランクと気づかずに放置されスタンピードを発生させた高ランクダンジョンも存在する。しかしその場合はスタンピードによって高ランクダンジョンと判明し、手に入る資源に集まってきた人々が都市を形成するため、高ランクダンジョンがスタンピートをおこしたのは歴史上数回である。
そのような理由もあり、速やかなダンジョンの調査を行おうとした矢先にファイヤードレイクの出現情報である。
ファイヤードレイクは竜の中でも中位に属する竜でありランクはB+。大きい村程度なら容易に滅ぼす魔物である。
辺境都市スオーロは魔の森に隣接する地であるため魔物に対抗するためのさまざまな魔道具が配置された堅固な防壁。魔の森の魔物から獲れる素材を目当てに集まる冒険者がいるために、ファイヤードレイクが都市に来たとしても被害は軽微ですむ。
だがもし防壁を破壊されてしまうと魔の森からくる魔物に都市を蹂躙される可能性がある。
ゆえにその可能性を減らすために辺境伯であり、元Aランク冒険者であるサブルムが防壁の上にいるのである。
「ファイヤードレイクなどさっさと片付けて、ダンジョン探索をしたいのだがな…」
そんな事を言っていると魔の森から赤い何かが飛び上がってきた。
「ファイヤードレイク!」
飛び上がってきたのは件のファイヤードレイクだった。
「総員、戦闘体勢!」
辺境伯の言葉が伝播し、兵達に緊張がはしる。
しかしそんな状況をよそに、ファイヤードレイクは
都市ではなくダンジョンに向かって飛んでいく。
その時、ダンジョンから蛇の魔物が現れた。その魔物はあまりにも美しかった。鱗はまるで雪のように純白でありながら光の反射で七色にも見え、鹿の様な角を生やし、瞳は純金をそのままはめこんだような黄金だった。そして何よりも巨大だった。
その魔物に見惚れていたのもつかの間、ファイヤードレイクはダンジョンから出てきた魔物を標的に定めたようだ。
「GeeeYAaaaa!!」
かなり離れているはずのファイヤードレイクの咆哮がここまで聞こえてくる。
すると蛇の魔物の後ろから新たに2体の魔物が飛び出した。
「あれは…ヒュドラにエキドナだと?」
新たに出現した2体の魔物はどちらもB+の魔物の中でも有名な魔物である。
その再生能力の高さから『不死』の異名を持つヒュドラ。様々な魔法にその俊敏性、そして見た目にそぐわぬ怪力『熟練殺し』のエキドナ。
その2体がまるで蛇の魔物を守るように前に飛び出し、ファイヤードレイクと戦っている。
(出現して僅かにもかかわらず、B+ランクが2体にその主人らしき蛇の魔物か…)
そんな事を考えていると、先ほどまで晴天だった空に暗雲がたちこめ、雷鳴が鳴り響いていた。
「いったい何が起きて…ッ!」
雷鳴が鳴り響き始めると共に、空中に渦潮が現れ地面が波打つ。
まるで世界の終わりを告げるような現象が蛇の魔物の周りでまきおこる。
蛇の魔物はそれが当然の事だとばかりに気にかけず、頭を持ち上げた。
(あの動きは、まさか!?)
「総員対ショック姿勢!!間に合え!【空間断層】」
元冒険者の悲鳴を上げる、兵士達を伏せさせ、自らが発動できる最大の防御魔法を展開する。
次の瞬間蛇の魔物から極大な光がファイヤードレイクに向かって放たれた。
ランクはF〜Sまでありそこに+とーがつき、Fランクだけは+とーはつかない。
ファイヤードレイクのランクを修正しました。